13.転びやすくなった高齢者と低栄養の関係

「最近、何もないところでつまずく」「立ち上がったときにふらつく」「この一年で何度か転んだ」。高齢者にこうした変化があっても、「足腰が弱ったから仕方がない」と考えてしまうことがあります。

しかし、転びやすくなった背景には、筋力やバランスの低下だけでなく、食事量の減少や体重減少など、栄養の問題が隠れている場合があります。転倒をきっかけに骨折や入院、活動量の低下へ進むこともあるため、転んだ事実だけで終わらせず、「最近きちんと食べられているか」まで確認することが大切です。

低栄養はなぜ転倒につながるのか

立つ、歩く、姿勢を立て直すといった動作には、脚や体幹の筋肉が働いています。食事から取るエネルギーやたんぱく質などが不足すると、身体は筋肉を維持しにくくなります。筋肉量や筋力が低下すれば、椅子から立つ、段差を越える、つまずいたときに踏みとどまるといった動作が難しくなり、転倒につながる可能性があります。

低栄養では、疲れやすさや活動量の低下を伴うこともあります。動かない時間が増えると、さらに筋力が落ち、食欲も低下しやすくなります。厚生労働省も、低栄養をフレイルを招く重要な要因とし、転倒予防や介護予防の観点から低栄養予防が重要だとしています。[1]

低栄養と転倒の関係を調べた研究の統合解析では、低栄養またはそのリスクがある高齢者は、栄養状態が良好な人より転倒しやすい傾向が報告されています。[2] ただし、これは低栄養だけが転倒の原因だという意味ではありません。低栄養と筋力低下、病気、薬、生活環境などが重なっていることも多く、全体を見て考える必要があります。

転倒すると低栄養が進むこともある

「低栄養から転倒へ」という方向だけではありません。転倒後の痛みや不安によって動かなくなると、買い物や調理が難しくなり、食事が簡単なものだけになったり、食事回数が減ったりすることがあります。

また、「また転ぶのが怖い」と外出を控えると、活動量が下がり、空腹を感じにくくなることがあります。人との交流や会食の機会が減り、一人で食べることが増える場合もあります。骨折や入院を伴えば、治療や安静による活動量の低下に加え、痛みや環境の変化で食欲が落ちることもあります。

その結果、

「食べられない→筋肉が減る→転びやすくなる→動かなくなる→さらに食べられない」

という悪循環が生まれます。転倒後はけがの確認だけでなく、体重や食事量が落ちていないかを継続して見ることが重要です。

転びやすくなったら一緒に確認したいこと

転倒が増えたときは、次のような変化がないか振り返りましょう。

  • この半年で体重が減っていないか
  • 食事を残すことや欠食が増えていないか
  • 肉、魚、卵、大豆製品などを食べる回数が減っていないか
  • 椅子から手を使わずに立つのが難しくなっていないか
  • めまい、立ちくらみ、息切れ、しびれ、痛みがないか
  • 薬を追加・変更してから眠気やふらつきがないか
  • 靴が合っているか、室内に滑りやすい敷物や段差がないか

本人に「なぜ転んだの?」と聞いても、理由が分からないことは珍しくありません。いつ、どこで、何をしているときに転んだか、食事の前後だったか、立ち上がった直後だったかを記録すると、原因を考える手がかりになります。

転倒の要因には、筋力や歩行能力の低下のほか、視力、足の痛み、血圧の変動、認知機能、薬、履物、住環境などがあります。国際的な転倒予防ガイドラインでも、転倒リスクが高い人には複数の要因を評価し、その人に合った対策を組み合わせることが勧められています。[3]

食事だけ、運動だけで解決しようとしない

低栄養が疑われる場合も、たんぱく質の多い食品や栄養補助食品を取れば、すぐに転ばなくなるわけではありません。まず、食欲低下や体重減少の原因、噛む・飲み込む力、病気、薬の影響などを確認する必要があります。

食事では、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などに加え、身体を動かすためのエネルギー源となるご飯、パン、麺類なども確保します。そのうえで、体調や体力に合わせて、立ち座りや歩行、バランスを保つ運動を安全に行います。「食べる→動く」を一つの組み合わせとして考えることが、筋肉と生活機能を守る基本です。

ただし、転倒を繰り返す人や、急にふらつきが強くなった人に、自己判断で運動を勧めるのは危険です。かかりつけ医に相談し、必要に応じて管理栄養士、リハビリ専門職、薬剤師、歯科医師・歯科衛生士などと原因を確認しましょう。

転んだ後に注意すべき症状

転倒して頭を打った、意識がぼんやりする、吐き気や嘔吐がある、強い頭痛が続く、手足が動かしにくい、強い痛みで立てないといった場合は、速やかに医療機関へ連絡してください。血液を固まりにくくする薬を使用している人が頭を打った場合も、症状が軽く見えても医療機関への相談が必要です。

「転んだけれど、けがはなかったから大丈夫」で終わらせないことが大切です。転倒は、身体の余力が低下していることを知らせるサインかもしれません。

転びやすさに気づいたら、足元を整えるだけでなく、食事、体重、筋力、病気、薬、生活環境を一緒に見直す。低栄養を早く見つけ、必要な支援につなぐことは、次の転倒を防ぎ、自分らしい生活を守ることにもつながります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防
[2] Trevisan C, et al. “Nutritional Status, Body Mass Index, and the Risk of Falls in Community-Dwelling Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis
[3] Montero-Odasso M, et al. “World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative

初回公開日
2026年9月3日

最終更新日
2026年9月3日