61. 低栄養は「食事の問題」なのか、それとも「医療の問題」なのか

「低栄養なら、もっと食べればよいのではないか」

そう考える人は少なくありません。確かに、食べる量が不足すれば低栄養になります。しかし、高齢者の低栄養を単なる食事の問題として扱うと、その背景にある病気や薬、口腔・嚥下機能の低下を見逃すおそれがあります。

反対に、低栄養を医療だけの問題として病院に任せても、買い物、調理、孤食、経済的な事情など、暮らしの中にある原因は解決できません。

結論からいえば、低栄養は「食事の問題」であると同時に「医療の問題」であり、さらに生活や社会とのつながりを含む問題です。どれか一つに決めるのではなく、その人がなぜ食べられなくなったのかを考える必要があります。

食事量の不足だけで起こる低栄養

一人暮らしで食事を作るのが面倒になった、買い物に行けない、収入が限られて食品を十分に購入できない、同じ物ばかり食べている。このような場合は、食べられる身体の状態であっても、エネルギーやたんぱく質の摂取量が不足します。

この場合には、食事の回数や内容を見直し、配食サービス、買い物支援、家族や地域の見守りなどを利用することが重要です。少量でも栄養を取りやすい食品や栄養補助食品が役立つ場合もあります。

ただし、「食べていない」という結果だけを見てはいけません。料理をしなくなった背景に、筋力低下、認知機能の変化、抑うつ、視力低下などが隠れている可能性もあります。

病気が低栄養を引き起こすことがある

低栄養は、がん、心不全、慢性呼吸器疾患、腎疾患、感染症、消化器疾患など、さまざまな病気に伴って起こります。

病気によって食欲が落ちるだけではありません。息苦しさや痛み、吐き気、下痢、便秘などで食べられなくなることもあります。消化や吸収がうまくいかなくなる場合もあります。

さらに、感染症や慢性疾患などに伴う炎症が続くと、身体の中で筋肉や脂肪の分解が進みやすくなります。そのため、本人がある程度食べていても、体重や筋肉が減ることがあります。

病気による負担が大きい場合は、食べる量を増やすだけでは改善しにくく、原因となる病気の治療と栄養管理を同時に行う必要があります。

国際的な低栄養診断基準であるGLIM基準でも、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少という身体の変化だけでなく、食事摂取量の減少や消化吸収の問題、疾患による負荷・炎症を確認します[1]。これは、低栄養が単なる「食べ不足」ではなく、医学的な評価が必要な状態であることを示しています。

薬や口の問題も「食べられない」をつくる

高齢者では、薬の副作用や有害事象による吐き気、口の渇き、味覚の変化、便秘、眠気などが、食事量の低下につながることがあります。複数の薬を服用している場合は、一つの薬だけでなく、薬の組み合わせや服用状況全体を確認することが大切です[2]。

歯の痛み、義歯の不具合、噛む力の低下、口腔内の乾燥、飲み込みにくさも低栄養の原因になります。食べる量を増やすよう促しても、安全に噛んだり飲み込んだりできなければ実行できません。

この場合に必要なのは、本人の努力ではなく、医師、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士などによる原因の確認です。

医療だけでも解決できない

一方で、血液検査や画像検査をして病気を治療すれば、低栄養が必ず改善するわけではありません。

退院後、自宅に食べ物がない。調理ができない。食事を一緒に食べる人がいない。医師から言われた食事制限を厳しく守りすぎている。こうした問題は、診察室の中だけでは見えにくいものです。

低栄養の背景には、身体的な要因、精神・心理的な要因、社会・生活上の要因が重なっています。厚生労働省も、高齢者の低栄養やフレイルについて、食欲、口腔機能、服薬、多病、認知機能、社会交流などを含む多面的な課題として示しています[3]。

したがって、医師や管理栄養士だけでなく、看護師、薬剤師、歯科専門職、リハビリテーション専門職、ケアマネジャー、訪問介護員、配食事業者、家族などが、それぞれの立場から情報を持ち寄ることが重要です。

「栄養を増やす」と「原因を治す」を同時に考える

低栄養への対応では、次の二つを並行して考えます。

一つは、当面必要なエネルギーやたんぱく質、水分をどのように確保するかです。食べやすい形態に変える、少量で栄養価を高める、間食を利用する、必要に応じて栄養補助食品を使うなどの方法があります。

もう一つは、なぜ食べられないのか、なぜ体重や筋肉が減るのかを明らかにすることです。病気の治療、薬の見直し、口腔・嚥下機能への対応、生活支援などが必要になります。

栄養を補うだけで原因を放置しても、低栄養を繰り返す可能性があります。反対に、原因疾患を治療しても、失われた体重や筋肉が自動的に戻るとは限りません。

病気の治療と栄養介入は、どちらか一方ではなく、並行して進めることが基本です。

どのようなときに医療へつなぐのか

意図しない体重減少や食欲低下が続く場合は、「年のせい」「少食になっただけ」と決めつけず、かかりつけ医などに相談してください。

特に、次のような変化がある場合は、早めの受診が必要です。

  • 短期間で体重が減った
  • 発熱や痛みがある
  • 息切れが強くなった
  • 繰り返しむせる、飲み込みにくい
  • 嘔吐や下痢が続いている
  • 便や吐いた物に血が混じる
  • 急に元気がなくなった

水分も取れない、意識がもうろうとする、呼吸が苦しいなどの症状があれば、緊急の対応が必要になることがあります。

最初の相談先は医療機関だけとは限りません。薬局、歯科医院、地域包括支援センター、ケアマネジャー、訪問看護、管理栄養士などが変化に気づき、医療へつなぐこともできます。

低栄養を「食卓だけの責任」にしない

食べられなくなった高齢者に「もっと食べて」と言い続けると、本人を追い詰め、家族も自分の料理や介護が悪いのではないかと悩んでしまいます。

しかし、食べられないことは本人の意欲不足とは限りません。病気、薬、歯、飲み込み、認知機能、気持ち、経済状況など、本人の努力だけでは変えられない原因が数多くあります。

低栄養は食卓に表れますが、原因が食卓の中だけにあるとは限りません。だからこそ、食事の工夫と医学的な評価、生活支援を切り離さずに考える必要があります。

「何を食べさせるか」だけではなく、「なぜ食べられなくなったのか」を探すこと。それが、低栄養を食事と医療の間に置き去りにしないための第一歩です。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[2]厚生労働省「高齢者の低栄養予防」e-ヘルスネット
[3]厚生労働省「高齢者医療における保健事業の推進について」
[4]Cederholm T, et al. “GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition—A consensus report from the global clinical nutrition community.” Clinical Nutrition. 2019.

初回公開日
2026年10 月1日

最終更新日
2026年10月1日