『高齢者の低栄養を知る100の話“62”』
「やせているから低栄養」「血液検査のアルブミン値が低いから低栄養」と考えられることがあります。しかし、医学的な低栄養の診断は、一つの数値だけでは決まりません。
体重が減っているのか、筋肉が減っているのか、食事量が落ちているのか、消化吸収の問題や病気による炎症があるのか。複数の情報を組み合わせて判断します。
現在、成人の低栄養診断に用いられる国際的な基準の一つが「GLIM基準」です。GLIMはGlobal Leadership Initiative on Malnutritionの略で、世界の主要な臨床栄養学会が協力してまとめた診断の枠組みです[1]。
最初に行うのは「診断」ではなくスクリーニング
GLIM基準では、最初から全員に詳しい検査をするのではなく、まず低栄養の可能性がある人を見つける栄養スクリーニングを行います。
高齢者に広く用いられる方法の一つがMNA-SFです。食事量の低下、体重減少、歩行能力、急性疾患や精神的ストレス、認知・心理状態、BMIなどについて確認し、短時間で栄養リスクを判定します。
ただし、MNA-SFで「低栄養のおそれがある」と判定されても、それだけで医学的な低栄養の診断が確定するわけではありません。スクリーニングは、詳しい評価が必要な人を抽出するためのものです。
健康診断、薬局、介護事業所、地域の健康相談などで栄養リスクに気づき、医療機関や管理栄養士につなぐことにも意味があります。
GLIM基準では二つの側面を確認する
スクリーニングで栄養リスクがあると判定された人について、次に詳しい評価を行います。
GLIM基準の診断項目は、「表現型基準」と「病因基準」の二つに分かれます。
表現型基準は、身体にどのような変化が起きているかを見るもので、次の3項目です。
- 意図しない体重減少
- 年齢などを考慮した低BMI
- 筋肉量の減少
病因基準は、なぜその変化が起きたのかを見るもので、次の2項目です。
- 食事摂取量の減少、または消化吸収の低下
- 病気による身体への負担、または炎症
GLIM基準では、表現型基準から一つ以上、病因基準から一つ以上に該当した場合に、低栄養と診断します[1]。
例えば、「半年で意図せず体重が減った」という身体の変化があり、同時に「食欲が落ちて食事量が減っている」場合は、両方の基準に該当する可能性があります。
一方、BMIが低いだけでは病因基準が確認できないため、GLIM基準による診断は確定しません。もともとやせ型で体重が安定し、食事量や筋肉量にも問題がない人もいるからです。
反対に、BMIが標準範囲でも、以前より大きく体重や筋肉が減り、食事量が落ちていれば、低栄養に該当する可能性があります。「見た目が太っているから大丈夫」とも限りません。
体重減少は「何キロ」より割合と期間を見る
体重減少を評価するときは、減った体重だけでなく、元の体重に対する割合と、どのくらいの期間で減ったかを確認します。
例えば、体重60kgの人が6か月で3kg減れば、体重の5%が減少したことになります。本人が減量を希望していないのに、このような変化が起きていれば重要な手がかりです。
いつの体重と比べたのか分からなければ、正確な評価はできません。高齢者では、月に一度程度でも同じ条件で体重を測り、記録しておくことが早期発見に役立ちます。
むくみや脱水があると、体重が実際より重く、または軽く見える場合があります。心不全や腎疾患などがある人では、体重の数字だけで栄養状態を判断せず、病状も含めた評価が必要です。
筋肉量はどのように調べるのか
筋肉量は、CTやMRI、DEXA、生体電気インピーダンス法などで評価できます。これらの機器が使えない場合には、下腿周囲長や上腕筋囲長などの身体計測を参考にする方法もあります[2]。
ただし、握力や歩行速度は主に筋力や身体機能を表すもので、筋肉量そのものとは異なります。また、むくみ、体格、測定機器などの影響も受けます。
どの方法と基準値を使ったかを明らかにし、ほかの情報と合わせて判断することが重要です。
アルブミンだけでは診断できない
血液中のアルブミンは、かつて栄養状態の代表的な指標として広く使われてきました。しかし、アルブミン値は炎症、肝機能、腎機能、体内の水分量など、多くの影響を受けます。
日本栄養治療学会は、アルブミンやプレアルブミンを体たんぱく量の代理指標としてではなく、炎症や予後に関係する指標として捉える考え方を示しています。アルブミン値だけを用いたスクリーニングでは、低栄養を見逃す可能性があります[2]。
つまり、「アルブミンが正常だから低栄養ではない」とも、「低いから食事不足である」とも言い切れません。血液検査は重要ですが、体重、筋肉量、食事量、病気などと合わせて解釈する必要があります。
診断後には重症度と原因を評価する
低栄養と診断された場合は、体重減少、BMI、筋肉量減少の程度から、中等度か重度かを判定します。さらに、低栄養を引き起こした原因を詳しく調べます。
食欲が落ちた理由は何か、噛んだり飲み込んだりできるか、必要な食事を入手できるか、薬の影響はないか、炎症を伴う病気がないかなどを確認します。
GLIM基準で低栄養を診断することはゴールではありません。原因、必要な栄養量、食べる方法、安全性、生活環境を評価し、個別の栄養ケア計画につなげることが目的です。
家庭や地域でできるのは「診断」より早期発見
家庭でGLIM基準を使って自己診断する必要はありません。まず確認したいのは、次のような変化です。
- 意図しない体重減少
- 食欲や食事量の低下
- 服が緩くなった
- ふくらはぎが細くなった
- 歩く力が落ちた
こうした変化があれば、かかりつけ医、管理栄養士、薬剤師、看護師などに相談してください。医療機関では、医師がほかの専門職による栄養評価や検査結果も踏まえ、病気の有無を含めて総合的に判断します。
低栄養は、体重計や血液検査の一つの数字につけられる名前ではありません。「身体に何が起きているか」と「なぜ起きたか」の両方を確認して初めて、適切な診断と支援につながります。
執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[2]日本栄養治療学会「GLIM よくあるご質問」
[3]日本栄養治療学会「GLIM基準を用いた栄養アセスメントの実施例」
[4]Cederholm T, et al. “GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition—A consensus report from the global clinical nutrition community.” Clinical Nutrition. 2019.
初回公開日
2026年10 月日
最終更新日
2026年10月2日
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