『高齢者の低栄養を知る100の話“69”』
病院でも地域でも、高齢者の低栄養を防ぐことは重要です。しかし、入院中の栄養管理と、地域で行う低栄養予防では、対象となる人、目的、使える情報、支援の方法が異なります。
簡単にいえば、入院中の栄養管理は「病気の治療と回復を栄養面から支えること」、地域の低栄養予防は「生活の中にある小さな変化を早く見つけ、食べられなくなる前から支えること」が中心です。
どちらか一方だけで低栄養を防ぐことはできません。病院と地域が、それぞれの強みを生かしながら栄養情報をつなぐ必要があります。
入院中は、病気や治療を踏まえて栄養を管理する
入院している高齢者は、すでに病気やけがを抱え、手術、感染症、薬物治療などによって体に大きな負担がかかっていることがあります。
病気になると食欲が低下するだけでなく、炎症によってエネルギーやたんぱく質が消費され、筋肉が減りやすくなります。そのため入院中の栄養管理では、単に食事を提供するのではなく、病状や治療内容に合わせた栄養量と栄養の取り方を考えます。
病院では、体重、食事摂取量、血液検査、病気の状態、水分出納、排泄状況などを確認できます。必要に応じて筋肉量や嚥下機能なども評価します。
食事だけで必要量を満たせなければ、栄養補助食品、経管栄養、静脈栄養などを組み合わせることもあります。糖尿病、腎臓病、心不全などがあれば、病気に応じた調整も必要です。
医師、管理栄養士、看護師、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士、リハビリテーション専門職などが連携し、治療や回復を支えます。
厚生労働省の調査では、病院の一般病棟においても低栄養リスクを持つ患者が少なくないことが報告されています。また、GLIM基準の導入をきっかけに、多職種連携や低栄養患者の把握が進んだ医療機関があることも示されています[1]。
入院中の栄養管理には、合併症を防ぐ、傷の治癒を促す、リハビリテーションの効果を高める、退院できる体力を取り戻すといった、比較的明確な目標があります。
地域では「病気になる前」の変化を見つける
一方、地域の低栄養予防では、対象者が医療機関を受診しているとは限りません。
自分では元気だと思っていても、少しずつ体重が減っている、食事の回数が減っている、肉や魚を食べなくなっているという高齢者もいます。
地域では、病院のように血液検査や詳しい身体計測をいつでも行えるわけではありません。そのため、日常生活に表れる変化が重要な手がかりになります。
- 以前より服やベルトが緩くなった
- 食事を残すことが増えた
- 買い物や料理を負担に感じている
- 固い物を避けるようになった
- むせや口の渇きが増えた
- 外出や人との交流が減った
- 薬が増えてから食欲が落ちた
- 疲れやすくなり、歩く速度が遅くなった
こうした変化は、診察室よりも、家族、訪問介護員、ケアマネジャー、デイサービス、配食サービス、薬局、地域の通いの場などで見つかることがあります。
地域の強みは、その人の「暮らし」が見えることです。
どのような食事を好むのか、買い物に行けるのか、料理ができるのか、経済的な負担はないか、一人で食べていないかなど、検査値だけでは分からない原因を把握できます。
病院では食べられても、自宅では続けられないことがある
病院では、決められた時間に、病状に合わせた食事が運ばれてきます。食事量を職員が確認し、食べにくければ食形態や内容を調整できます。
しかし、自宅へ戻ると状況は変わります。
本人が買い物や調理をしなければならない、食事を用意する家族が疲れている、病院で使っていた栄養補助食品が手に入らないなど、さまざまな問題が生じます。
病院から「エネルギーとたんぱく質を十分に取ってください」と説明されても、具体的に何を買い、どのように準備すればよいのか分からなければ実行できません。
反対に、塩分、糖分、脂質などを控えるように言われたことだけが強く残り、退院後も必要以上の食事制限を続けてしまうことがあります。病気を管理するための制限が、食事量を減らし、低栄養を悪化させる場合もあります。
栄養管理は、医学的に正しいだけでは十分ではありません。本人や家族が、実際の生活の中で続けられる内容にする必要があります。
病院と地域の間で栄養情報が途切れやすい
入院中に詳しい栄養評価や支援が行われても、その情報が地域の支援者へ十分に伝わらなければ、退院後の栄養管理は途切れてしまいます。
退院時には、少なくとも次のような情報を整理することが望まれます。
- 入院前からの体重変化と現在の体重
- 低栄養の有無や、その主な原因
- 必要と考えられるエネルギー・たんぱく質量
- 実際に食べられている量
- 食事形態と、むせや嚥下に関する注意
- 病気による食事制限と、その優先順位
- 使用している栄養補助食品や経管栄養の内容
- 薬の変更と、食欲などへの影響
- 注意すべき症状と相談先
- 次に体重や食事量を確認する時期
- 退院後の栄養状態を誰が確認するか
厚生労働省が示す栄養管理関係の様式でも、転院や退院に際して、今後の栄養管理上の留意点や家庭での食事について本人・家族へ説明し、必要な情報を退院後の診療を担う医師などへ提供することが求められています[2]。
退院直後の生活を支えるため、病院の管理栄養士が自宅を訪問したり、外来で継続して栄養指導を行ったりする仕組みも重視されつつあります[3]。
地域から病院へ伝える情報も重要
情報の流れは、病院から地域への一方向だけではありません。
入院前の普段の体重、食事内容、買い物や調理の状況、義歯の状態、服用している薬やサプリメント、家族の支援状況などは、地域の関係者の方がよく知っていることがあります。
「入院してから食べなくなった」のではなく、実際には数か月前から食事量が減っていたというケースもあります。
地域で把握している生活情報を入院時に医療機関へ伝えることで、低栄養の原因を正確に考えやすくなり、退院後も実行可能な栄養計画を立てやすくなります。
栄養ケアを一つの流れとして考える
入院中にも低栄養の予防は必要であり、地域でも、すでに低栄養と診断された人への専門的な栄養管理が必要になることがあります。
したがって、「病院は治療、地域は予防」と完全に分けられるものではありません。
大切なのは、入院中と退院後の栄養管理を別々のものにしないことです。
病院では病気や治療を踏まえて栄養状態を詳しく評価し、地域では、その計画が本人の暮らしの中で続けられているかを確認します。そして地域で再び体重減少や食事量低下が見つかったときは、その情報を医療機関へ返します。
入院中の栄養管理と地域の低栄養予防は、役割と見える情報が異なります。
病院は「体の中で何が起きているか」を評価しやすく、地域は「暮らしの中でなぜ食べられないのか」を見つけやすい場所です。
両者がつながり、栄養状態を継続して見守ることで、退院後の再低栄養や体力低下、再入院を防ぐ支援に近づきます。
執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]厚生労働省「入院・外来医療等の調査・評価分科会(令和7年度)」
[2]厚生労働省「栄養管理に関する様式等」
[3]厚生労働省「令和8年度診療報酬改定に係る検討資料」
[4]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[5]厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について」
初回公開日
2026年10 月5日
最終更新日
2026年10月5日
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