41.「面倒だから食べない」―高齢者の食事を難しくするもの

「おなかは空くけれど、食べるのが面倒」「用意するくらいなら、食べなくてもいい」。

高齢者からこのような言葉を聞くことがあります。周囲は「怠けている」「食事に関心がない」と受け取るかもしれません。

しかし、「面倒」という一言の裏には、身体の不調、気持ちの落ち込み、認知機能の変化、口の問題、薬の影響などが隠れていることがあります。

本人を励ますだけでは解決しない場合があります。何が負担になっているのかを具体的に探すことが大切です。

食べるまでには多くの作業がある

食事は、食べ物を口へ運ぶだけではありません。

買い物へ行く。献立を考える。料理をする。食卓まで運ぶ。袋や容器を開ける。箸を使う。噛んで飲み込む。食後に食器を片づける。

元気なときには意識しない一つひとつの作業が、身体の衰えや病気によって大きな負担になることがあります。

たとえば、総菜を買ってきても、容器のふたを開けられない。電子レンジまで運べない。食卓に座っている姿勢を保てない。肉を噛み切れず、一口を飲み込むまでに時間がかかる。

こうした人が「食べるのが面倒」と表現していても、本当は「食べるための一連の作業をこなす体力がない」のかもしれません。

疲労や痛みが食事を遠ざける

心不全や呼吸器疾患などで息苦しさがある人は、調理だけでなく、噛んだり飲み込んだりすることにも疲れる場合があります。

膝や腰、肩、手指に痛みがあれば、買い物、調理、配膳が負担になります。がんや感染症、貧血などによる強いだるさが、「面倒」という言葉で表現されることもあります。

食事に時間がかかり、食べ終わるころには疲れ切ってしまう人は、次の食事を考えること自体が嫌になるかもしれません。

以前は普通に食べていた人が、急に「面倒」と言い始めた場合は、本人の性格ではなく、身体の変化を疑う必要があります。

噛む・飲み込むことが負担になっている

歯の痛み、合わない義歯、口の乾燥、噛む力や飲み込む力の低下があると、一回の食事に多くの時間と労力がかかります。

食べると痛い、むせる、喉につかえるという経験をすると、本人は無意識に食事を避けるようになります。人前でむせるのが恥ずかしく、会食を断る場合もあります。

口の問題を訴えず、「硬い物は嫌い」「もう食べたくない」「面倒」とだけ話す人もいます。

食事時間が長くなった、特定の食品を残す、食後に疲れる、むせが増えた場合は、歯科や医療機関への相談が必要です。

気持ちの落ち込みが隠れていることもある

配偶者や友人との死別、退職、病気、身体機能の低下などをきっかけに、食事への関心を失うことがあります。

抑うつ状態では、何を食べてもおいしくない、献立を考えられない、身体が重くて動けない、食べること自体を面倒に感じる場合があります。健康長寿ネットでも、高齢者の抑うつ症状として、食欲低下、倦怠感、食べることを面倒に感じることなどが挙げられています[1]。

「好きな物なら食べるだろう」と好物を用意しても反応しない、食事以外の楽しみにも関心を示さない、眠れない、会話や外出が減った状態が続く場合は、かかりつけ医などへ相談してください。

認知機能の低下による「考える負担」

認知機能が低下すると、食べる物を決めることや、食事の準備を順序立てて進めることが難しくなります。

冷蔵庫に食品があっても、組み合わせ方が分からない。複数の総菜を前にすると、どれを選べばよいか決められない。電子レンジの使い方が分からない。

本人は、その困難をうまく説明できず、「面倒だからいらない」と答えることがあります。

選択肢を二つに絞る、一品ずつ出す、すぐ食べられる状態で渡す、最初の一口だけ手伝うなど、考える工程を減らすことで食べられる場合があります。

薬や便秘が関係していないか

薬による眠気、吐き気、口の乾燥、味覚の変化、便秘などによって、食事が負担になることがあります。

特に、新しい薬を始めた後や、薬の量が増えた後に「食べるのが面倒」と言い始めた場合は、医師や薬剤師へ伝えます。薬は自己判断で中止せず、症状と薬の関係を確認してもらいましょう。

便秘や腹部の張りが続くと、空腹を感じにくくなります。排便状況、水分摂取量、活動量も一緒に確認します。

「食事を簡単にする」と「食事を減らす」は違う

食事の負担を減らすために、一から料理する必要はありません。総菜、冷凍食品、缶詰、レトルト食品、配食、栄養補助食品などを活用できます。

ただし、負担を減らそうとして、食事そのものまで減らさないことが大切です。

おにぎりだけなら卵や牛乳を加える。麺だけなら豆腐や魚の缶詰を加える。パンだけならチーズやヨーグルトを添える。このように、工程を増やさず、エネルギーやたんぱく質を補います。

一度に多く食べることが負担なら、三食にこだわらず、少量の食事や間食に分ける方法もあります。

家族や支援者は、「食べなさい」と繰り返すのではなく、次のように尋ねます。

  • 買うことが面倒なのか
  • 作ることが面倒なのか
  • 容器を開けることが難しいのか
  • 噛む、飲み込むことがつらいのか
  • 食べると痛い、苦しい、気持ち悪いことがあるのか
  • 一人で食べることがつまらないのか

「面倒」の場所が分かれば、必要な支援も見えてきます。

食事や水分をほとんど取らない、急に元気がなくなった、短期間で体重が減った、発熱、痛み、息苦しさ、強い眠気がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。

「面倒だから食べない」は、本人の意欲だけの問題ではありません。食事を続けるための身体、心、環境のどこかに負担が生じているサインです。

食べるよう説得する前に、何を難しく感じているのかを探す。食事の量ではなく、食べるまでの負担を減らすことが、低栄養を防ぐ第一歩になります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「抑うつ」
[2]厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」
[3]国立長寿医療研究センター「高齢者の食欲低下について――年を取るとどうして食欲がなくなるの?」
[4]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の低栄養」

初回公開日
2026年9月24日

最終更新日
2026年9月24日