『高齢者の低栄養を知る100の話㊶』
「おなかは空くけれど、食べるのが面倒」「用意するくらいなら、食べなくてもいい」。
高齢者からこのような言葉を聞くことがあります。周囲は「怠けている」「食事に関心がない」と受け取るかもしれません。
しかし、「面倒」という一言の裏には、身体の不調、気持ちの落ち込み、認知機能の変化、口の問題、薬の影響などが隠れていることがあります。
本人を励ますだけでは解決しない場合があります。何が負担になっているのかを具体的に探すことが大切です。
食べるまでには多くの作業がある
食事は、食べ物を口へ運ぶだけではありません。
買い物へ行く。献立を考える。料理をする。食卓まで運ぶ。袋や容器を開ける。箸を使う。噛んで飲み込む。食後に食器を片づける。
元気なときには意識しない一つひとつの作業が、身体の衰えや病気によって大きな負担になることがあります。
たとえば、総菜を買ってきても、容器のふたを開けられない。電子レンジまで運べない。食卓に座っている姿勢を保てない。肉を噛み切れず、一口を飲み込むまでに時間がかかる。
こうした人が「食べるのが面倒」と表現していても、本当は「食べるための一連の作業をこなす体力がない」のかもしれません。
疲労や痛みが食事を遠ざける
心不全や呼吸器疾患などで息苦しさがある人は、調理だけでなく、噛んだり飲み込んだりすることにも疲れる場合があります。
膝や腰、肩、手指に痛みがあれば、買い物、調理、配膳が負担になります。がんや感染症、貧血などによる強いだるさが、「面倒」という言葉で表現されることもあります。
食事に時間がかかり、食べ終わるころには疲れ切ってしまう人は、次の食事を考えること自体が嫌になるかもしれません。
以前は普通に食べていた人が、急に「面倒」と言い始めた場合は、本人の性格ではなく、身体の変化を疑う必要があります。
噛む・飲み込むことが負担になっている
歯の痛み、合わない義歯、口の乾燥、噛む力や飲み込む力の低下があると、一回の食事に多くの時間と労力がかかります。
食べると痛い、むせる、喉につかえるという経験をすると、本人は無意識に食事を避けるようになります。人前でむせるのが恥ずかしく、会食を断る場合もあります。
口の問題を訴えず、「硬い物は嫌い」「もう食べたくない」「面倒」とだけ話す人もいます。
食事時間が長くなった、特定の食品を残す、食後に疲れる、むせが増えた場合は、歯科や医療機関への相談が必要です。
気持ちの落ち込みが隠れていることもある
配偶者や友人との死別、退職、病気、身体機能の低下などをきっかけに、食事への関心を失うことがあります。
抑うつ状態では、何を食べてもおいしくない、献立を考えられない、身体が重くて動けない、食べること自体を面倒に感じる場合があります。健康長寿ネットでも、高齢者の抑うつ症状として、食欲低下、倦怠感、食べることを面倒に感じることなどが挙げられています[1]。
「好きな物なら食べるだろう」と好物を用意しても反応しない、食事以外の楽しみにも関心を示さない、眠れない、会話や外出が減った状態が続く場合は、かかりつけ医などへ相談してください。
認知機能の低下による「考える負担」
認知機能が低下すると、食べる物を決めることや、食事の準備を順序立てて進めることが難しくなります。
冷蔵庫に食品があっても、組み合わせ方が分からない。複数の総菜を前にすると、どれを選べばよいか決められない。電子レンジの使い方が分からない。
本人は、その困難をうまく説明できず、「面倒だからいらない」と答えることがあります。
選択肢を二つに絞る、一品ずつ出す、すぐ食べられる状態で渡す、最初の一口だけ手伝うなど、考える工程を減らすことで食べられる場合があります。
薬や便秘が関係していないか
薬による眠気、吐き気、口の乾燥、味覚の変化、便秘などによって、食事が負担になることがあります。
特に、新しい薬を始めた後や、薬の量が増えた後に「食べるのが面倒」と言い始めた場合は、医師や薬剤師へ伝えます。薬は自己判断で中止せず、症状と薬の関係を確認してもらいましょう。
便秘や腹部の張りが続くと、空腹を感じにくくなります。排便状況、水分摂取量、活動量も一緒に確認します。
「食事を簡単にする」と「食事を減らす」は違う
食事の負担を減らすために、一から料理する必要はありません。総菜、冷凍食品、缶詰、レトルト食品、配食、栄養補助食品などを活用できます。
ただし、負担を減らそうとして、食事そのものまで減らさないことが大切です。
おにぎりだけなら卵や牛乳を加える。麺だけなら豆腐や魚の缶詰を加える。パンだけならチーズやヨーグルトを添える。このように、工程を増やさず、エネルギーやたんぱく質を補います。
一度に多く食べることが負担なら、三食にこだわらず、少量の食事や間食に分ける方法もあります。
家族や支援者は、「食べなさい」と繰り返すのではなく、次のように尋ねます。
- 買うことが面倒なのか
- 作ることが面倒なのか
- 容器を開けることが難しいのか
- 噛む、飲み込むことがつらいのか
- 食べると痛い、苦しい、気持ち悪いことがあるのか
- 一人で食べることがつまらないのか
「面倒」の場所が分かれば、必要な支援も見えてきます。
食事や水分をほとんど取らない、急に元気がなくなった、短期間で体重が減った、発熱、痛み、息苦しさ、強い眠気がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。
「面倒だから食べない」は、本人の意欲だけの問題ではありません。食事を続けるための身体、心、環境のどこかに負担が生じているサインです。
食べるよう説得する前に、何を難しく感じているのかを探す。食事の量ではなく、食べるまでの負担を減らすことが、低栄養を防ぐ第一歩になります。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「抑うつ」
[2]厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」
[3]国立長寿医療研究センター「高齢者の食欲低下について――年を取るとどうして食欲がなくなるの?」
[4]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の低栄養」
初回公開日
2026年9月24日
最終更新日
2026年9月24日
「高齢者の低栄養予防」についてお気軽にお問い合わせください!
・低栄養のチェックやアドバイスを行ってくれる薬局について聞きたい
・配食サービスについて教えてほしい
・健康支援型配食サービスを導入したい
・低栄養予防事業を健康増進支援薬局の一環として進めたい
・栄養ケア支援システムについて話を聞いたみたい
・フレイルケア食(たんぱく補助・食欲増進等)の販売について相談したい
・低栄養予防事業を自治体として進めたい(自治体に提案したい)
・高齢者施設や通所施設において、栄養ケアの取り組みを進めたい
・退院後の栄養ケアを実施している薬局を教えてほしい
・高齢者向けフレイルケア食の開発や販売を拡大したい
・事業連携や情報交換・意見交換をしたい 他