43.家族が良かれと思って行う「食事制限」に注意

「血圧が高いから、味のある物は食べさせない」「糖尿病だから、ごはんや果物は禁止」「腎臓が悪いから、肉や魚を減らす」。

家族が本人の健康を心配し、食事を厳しく管理することがあります。病気によっては、塩分、糖質、たんぱく質、カリウムなどの調整が必要です。

しかし、必要以上の制限によって食事量が減り、低栄養や筋肉量の低下を招く場合があります。

大切なのは、制限をすべてやめることでも、厳しく守り続けることでもありません。現在の病状、栄養状態、年齢、生活機能を踏まえ、何をどこまで制限する必要があるのかを確認することです。

若い頃と同じ食事指導を続けていないか

高齢者の中には、何年、何十年も前に受けた食事指導を、その後も厳格に守り続けている人がいます。

中年期には、肥満や生活習慣病の予防を目的として、食べすぎを防ぎ、体重を減らすことが重視されます。

一方、高齢期には、病気を管理することに加え、体重と筋肉を保ち、転倒や要介護化を防ぐ視点が必要になります。

以前は体重が多かった人でも、病気や加齢によって食事量が減り、筋肉が落ちていることがあります。見た目が太っていても、筋肉量が少ない「サルコペニア肥満」の可能性があります。

「昔から太っているから、もっと痩せた方がよい」と食事を減らし続けると、脂肪より先に筋肉や体力を失う場合があります。

減塩で食事そのものが進まなくなる

高血圧、心不全、腎臓病などでは、減塩が重要なことがあります。しかし、塩分を減らすことに集中しすぎて、本人が食事をほとんど食べなくなれば、別の問題が生じます。

高齢になると味やにおいを感じにくくなる人もいます。薄味にした結果、「何を食べても味がしない」と食事を残すようになる場合があります。

健康長寿ネットでも、低栄養を合併している高齢者では、減塩によって食事摂取量が低下し、低栄養を助長することがあるため注意が必要とされています[1]。

減塩が必要な場合でも、だし、酢、かんきつ類、香辛料、香味野菜などを使って、食べやすくする工夫ができます。料理すべてを均一に薄味にするのではなく、一品に味を感じさせるなどの方法もあります。

ただし、必要な塩分制限の程度は病気によって異なるため、自己判断で緩めず、主治医や管理栄養士へ相談してください。

糖尿病だからと食事全体を減らさない

糖尿病がある人に対して、家族がごはん、パン、果物、いも類などを極端に制限することがあります。

甘い飲み物や菓子を控えることと、身体に必要なエネルギーまで不足させることは別です。

食事量が減ると、体重と筋肉が落ち、活動量が低下します。また、糖尿病治療薬やインスリンを使用している人が、薬を以前と同じように使いながら食事だけを減らすと、低血糖を起こす危険があります。

高齢者では、低血糖が冷や汗や震えではなく、ぼんやりする、転ぶ、元気がなくなるといった形で現れることもあります。

糖尿病がある高齢者の食事は、血糖値だけでなく、認知機能、低血糖リスク、体重、筋肉量、食事を準備する力なども含めて考える必要があります。

腎臓病のたんぱく質制限は自己判断で行わない

腎臓病があると聞き、家族が肉、魚、卵、大豆製品、乳製品をすべて減らすことがあります。

中等度から重度の慢性腎臓病では、病状に応じてたんぱく質の制限が必要な場合があります。一方、軽度の腎機能低下や、すでに低栄養・フレイルがある人に、家族の判断で厳しい制限を行うことは危険です。

日本腎臓学会も、たんぱく質制限を行う場合、必要なエネルギーを確保できないと、身体のたんぱく質が分解されやすくなり、特に高齢者ではサルコペニアやフレイルに注意が必要だと説明しています[2]。

たんぱく質、塩分、カリウム、水分など、何を調整すべきかは、腎臓病の進行度、検査値、治療内容によって異なります。「腎臓が悪い」という情報だけで、一律に食品を禁止してはいけません。

「身体によい物だけ」も制限になる

脂質やコレステロールを気にして肉や卵を避ける、血糖値を心配して主食をほとんど食べない、塩分を避けるために総菜や外食をすべて禁止する。

このように、家族が考える「身体によい物」だけで献立を組むと、本人の好物が消え、食事の楽しみを失うことがあります。

野菜中心の食事が一見健康的に見えても、エネルギーやたんぱく質が不足する可能性があります。食事量が少ない人が、最初に野菜をたくさん食べて満腹になり、肉や魚、ごはんを残している場合もあります。

食事制限は、禁止する食品が増えるほど安全になるものではありません。食べられる物を確保しながら、病気にとって本当に必要な部分を調整します。

制限が強すぎるサイン

次のような変化があれば、現在の食事制限を見直すきっかけにします。

  • 以前より食事量が減った
  • 本人が「食べられる物がない」と話す
  • 意図せず体重が減っている
  • 肉、魚、卵、乳製品をほとんど食べていない
  • 歩く速度や握力が低下した
  • 疲れやすく、外出が減った
  • 家族に隠れて食品を食べるようになった
  • 食事時間が本人と家族の対立の場になっている

家族だけで判断せず、体重の推移と、数日分の実際の食事内容を医師や管理栄養士へ見せます。

その際は、「何を控えればよいですか」だけでなく、次のように確認してください。

  1. 今もこの制限は必要ですか
  2. どの食品を、どの程度まで調整しますか
  3. 体重が減った場合はどうしますか
  4. 病気の管理と低栄養予防では、何を優先しますか
  5. 制限しながらエネルギーとたんぱく質をどう確保しますか

食事制限は、家族の愛情から始まることがあります。しかし、制限が本人の食欲や体力を奪ってしまえば、本来の目的から離れてしまいます。

病気を管理することと、食べる力を守ることは、どちらも大切です。昔の指導や病名だけで一律に制限せず、現在の身体に合う食事を、医師や管理栄養士と一緒に考えましょう。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢期に必要な生活習慣病管理」
[2]日本腎臓学会「腎臓病の治療――食事療法」
[3]厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書」
[4]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の低栄養予防・疾病重症化予防の取り組み――自治体の事例」

初回公開日
2026年9月24日

最終更新日
2026年9月24日