『高齢者の低栄養を知る100の話“59”』
高齢者の低栄養は、ある日突然始まるわけではありません。
「少し食欲が落ちた」「半年で数キロやせた」「買い物や調理が負担になった」「薬が増えてから口が乾く」といった小さな変化が重なり、気づかないうちに進んでいきます。
ところが、本人は「年のせい」と考え、家族も毎日会うとは限りません。医療機関の診察では病気の管理が優先され、食事や体重の変化まで十分に話せないこともあります。
そこで、地域で暮らす高齢者と繰り返し接点を持てる薬局が、低栄養の早期発見に役立つ可能性があります。
薬を受け取るという「定期的な接点」がある
高血圧や糖尿病、心臓病などで薬を継続している人は、数週間から数か月ごとに薬局を訪れます。介護サービスを利用しておらず、一見元気に生活している人とも、薬局なら定期的に会えることがあります。
同じ薬局を利用していれば、
- 以前より頬がこけた
- 歩く速度が遅くなった
- 声に力がなくなった
- 服が緩くなった
- 薬が余るようになった
といった前回との違いに気づきやすくなります。
低栄養予防では、一度の数値だけでなく、時間の経過に伴う変化を見ることが重要です。
また、本人が栄養相談を受けようと思っていなくても、薬を受け取るためなら薬局を訪れます。低栄養の自覚がない段階の人と自然に接点を持てることも、薬局の大きな強みです。
薬と食欲の両方を確認できる
高齢者の食欲低下には、病気、口腔機能、嚥下機能、気分の落ち込み、孤立、生活環境など、多くの原因があります。その一つが薬です。
薬の副作用や有害事象として、吐き気、口の渇き、味覚の変化、便秘、眠気などが現れ、結果として食べる量が減る場合があります。また、複数の医療機関から薬が処方されていると、薬の重複や相互作用を含め、全体像が見えにくくなることもあります[1]。
薬剤師は、処方薬だけでなく、市販薬、サプリメント、健康食品も含めて使用状況を確認し、薬を始めた時期と食欲や体調の変化が重なっていないかを検討できます。
ただし、薬が原因と思っても、本人や家族の判断で中止してはいけません。薬剤師が情報を整理し、必要に応じて処方医へ伝えることが安全な対応です。
複数の薬局を使い分けるよりも、できるだけ一つの「かかりつけ薬局」に情報を集めると、服薬状況を継続的・一元的に確認しやすくなります[2]。お薬手帳は一冊にまとめ、入院先や他院で処方された薬、市販薬なども伝えることが大切です。
短い会話から低栄養の入口を見つけられる
薬局で毎回、詳しい栄養評価を行う必要はありません。まずは次のような短い質問でも、見逃しを減らせます。
- この半年で、意図せず体重が減っていませんか
- 以前と比べて、食欲や食事量は落ちていませんか
- 一日何回食べていますか
- 硬い物が食べにくい、むせるといったことはありませんか
- 最近、薬が増えたり変わったりしていませんか
体重減少や食事量低下が疑われる場合は、体重測定や簡易的な栄養スクリーニングを行う方法もあります。
ただし、スクリーニングは「低栄養の可能性がある人を見つける」ためのもので、診断そのものではありません。国際的な低栄養診断基準であるGLIM基準でも、最初に妥当性が確認された方法でスクリーニングし、リスクがある人を診断評価へ進める流れが示されています[3]。
薬局の役割は「売ること」より、原因を探してつなぐこと
食事量が減った人に栄養補助食品を勧めるだけでは、問題が解決しないことがあります。
義歯が合わない、飲み込みにくい、病気が悪化している、抑うつがある、買い物に行けないなど、背景によって必要な支援が異なるからです。
薬局に期待されるのは、低栄養を診断したり、薬局だけですべてを解決したりすることではありません。
「気づく」「確かめる」「適切な人につなぐ」「次回来局時に確認する」という役割です。
薬の影響が疑われれば医師へ、噛む問題なら歯科へ、食事内容の調整なら管理栄養士へ、生活上の困り事なら地域包括支援センターやケアマネジャーへつなぎます。
厚生労働省も、薬局を地域住民の健康相談を受け、必要に応じて医療機関や適切な専門職へつなぐ身近な拠点の一つとして位置づけています[4]。高齢者の低栄養防止等の取り組みにおいても、薬局の活用が例示されています[5]。
一度つないで終わりではなく、その後を確認できる
薬局のもう一つの強みは、その後を追えることです。
「受診できましたか」「食欲は戻りましたか」「体重はさらに減っていませんか」「薬の変更後に症状は改善しましたか」と、次の来局時に確認できます。
紹介先を案内しても、本人が受診をためらったり、生活上の事情で支援につながらなかったりすることはあります。定期的な接点があれば、変化を継続して確認し、必要に応じてもう一度働きかけることができます。
在宅で薬剤管理を受けている人では、薬の保管状況だけでなく、食べ残しや冷蔵庫の中、生活環境の変化などが手がかりになる場合もあります。
本人や家族から薬局へ伝えてほしいこと
薬局を低栄養予防に活用するには、本人や家族から情報を伝えることも大切です。
「薬とは関係なさそう」と思っても、体重減少、食欲低下、口の渇き、味の変化、便秘、眠気、むせ、食事回数の減少などがあれば薬剤師に相談してください。
家族が薬を受け取りに行く場合も、「最近ほとんど食べていない」「服が緩くなった」といった変化を伝えることで、服薬状況の確認や受診勧奨につながる可能性があります。
「相性がよい」と「すでに十分できている」は別
すべての薬局で、体重測定、栄養スクリーニング、管理栄養士との連携まで行われているわけではありません。
混雑、時間、人員、相談場所、研修、紹介先との関係など、実施上の課題があります。薬局側が体制を整え、地域の医療・介護・福祉職と連絡方法を決めておかなければ、気づきを支援につなげることはできません。
だからこそ、まずは「最近、体重や食事量に変化はありませんか」という一言から始め、気になる人を見逃さない仕組みをつくることが現実的です。
薬局は、病院や栄養相談室の代わりではありません。しかし、病気が重くなる前、介護が始まる前から高齢者と会い、薬と暮らしの両面を見ながら変化を追える場所です。
低栄養予防における薬局の価値は、栄養問題を薬局内で完結させることではなく、まだ小さな「食べられない」の兆候を見つけ、地域の支援へ早くつなぐことにあります。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]厚生労働省「高齢者の低栄養予防」e-ヘルスネット
[2]厚生労働省「身近な健康の相談役『かかりつけ薬剤師・薬局』を持ちましょう」
[3]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[4]厚生労働省「これまでの議論のまとめ―地域における薬局・薬剤師のあり方―」
[5]厚生労働省「高齢者医療における保健事業の推進について」
初回公開日
2026年10月1日
最終更新日
2026年10月1日
「高齢者の低栄養予防」についてお気軽にお問い合わせください!
・低栄養のチェックやアドバイスを行ってくれる薬局について聞きたい
・配食サービスについて教えてほしい
・健康支援型配食サービスを導入したい
・低栄養予防事業を健康増進支援薬局の一環として進めたい
・栄養ケア支援システムについて話を聞いたみたい
・フレイルケア食(たんぱく補助・食欲増進等)の販売について相談したい
・低栄養予防事業を自治体として進めたい(自治体に提案したい)
・高齢者施設や通所施設において、栄養ケアの取り組みを進めたい
・退院後の栄養ケアを実施している薬局を教えてほしい
・高齢者向けフレイルケア食の開発や販売を拡大したい
・事業連携や情報交換・意見交換をしたい 他