89.高齢者が元気でいることは「地域経済」にも意味がある

高齢者の健康を考えるとき、医療費や介護費をどれだけ抑えられるかに目が向きがちです。しかし、高齢者が元気でいることの意味は、支出の抑制だけではありません。

買い物に出かける、地域の店を利用する、仕事を続ける、家族を支える、地域活動に参加する。こうした日常の営みも、地域の経済や暮らしを支えています。

高齢者は地域の消費を支える生活者

高齢者は、医療や介護サービスを受けるだけの存在ではありません。食料品、衣類、交通、飲食、理美容、趣味、旅行など、さまざまな商品やサービスを利用する生活者です。

元気に外出できれば、近所のスーパーや商店、飲食店を利用する機会が生まれます。地域の催しへ参加すれば、交通や買い物にも動きが生まれます。規模は小さく見えても、多くの人が日常的に行う消費は、地域の事業者にとって重要です。

反対に、低栄養やフレイルによって歩く力が落ち、外出できなくなると、本人の活動範囲だけでなく、地域での消費も縮小します。「食べられなくなること」は、家庭内だけで完結する問題ではないのです。

働くことだけが経済への貢献ではない

健康状態や希望に応じて仕事を続ける高齢者は、地域の人手不足を補い、経験や技術を次世代へ伝えます。内閣府の高齢社会白書でも、高齢者の多様な就業機会の確保や、地域福祉・地方創生と一体になった取り組みが示されています[1]。

一方、経済への貢献を賃金のある仕事だけで測ることはできません。

孫の送迎、家事、家族の見守り、自治会活動、農作業の手伝い、地域行事の運営など、統計に表れにくい役割もあります。こうした活動があるからこそ、現役世代が働き、地域の行事や共同活動を続けられる場合があります。

厚生労働省も、活動的な高齢者が地域づくりの担い手となるなど、社会参加を通じた介護予防を進めています[2]。支援を受ける側と支える側は固定されておらず、高齢者も地域を支える重要な担い手です。

家族が働き続けられることにもつながる

高齢者の体調が急に悪化して介護が必要になると、影響は本人だけにとどまりません。家族が通院に付き添い、買い物や食事を支え、介護サービスを調整する時間が必要になります。

仕事を休む、勤務時間を減らす、配置転換を求める、場合によっては離職することもあります。厚生労働省が仕事と介護の両立支援を進めているのは、介護が家族の就業にも影響する課題だからです[3]。

もちろん、介護が必要になったことを家族や本人の責任にしてはいけません。それでも、低栄養や筋力低下を早く見つけ、予防可能な重症化を減らすことは、家族の生活と就労を守ることにもつながります。

健康づくりが地域の仕事を生む

高齢者の健康を支える取り組みは、新しい地域サービスの需要にもなります。

食べやすく栄養に配慮した食品、少量の商品、配食、買い物支援、移動販売、送迎、運動教室、口腔ケア、栄養相談などです。地域の農産物や商店、薬局、介護事業者、医療機関が連携すれば、健康支援と地域産業を結び付けることもできます。

ただし、高齢者向けの商品を売るだけでは健康づくりにはなりません。本人の状態を確認し、低栄養の原因を探り、必要に応じて医療や介護へつなぎ、その後も変化を確かめる仕組みが必要です。

人の価値を経済効果だけで測らない

高齢者が元気でいることには経済的な意味がありますが、それを理由に「働くべき」「地域へ貢献すべき」と求めるのは適切ではありません。健康状態、希望、生活環境は一人ひとり異なります。

最も大切なのは、本人が望む暮らしを続けられることです。その結果として、消費や就労、家族支援、地域活動が続き、地域経済にも良い影響が広がります。

低栄養予防は、医療費や介護費を抑えるためだけの取り組みではありません。高齢者が地域の中で生活者、消費者、働き手、支え手として関わり続けられる土台を守ることです。

高齢者の健康を守ることは、その人の生活を守ると同時に、地域の店、仕事、人のつながりを将来へ残すことにもつながるのです。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]内閣府「令和7年版高齢社会白書」
[2]厚生労働省「介護予防」
[3] 厚生労働省「仕事と介護の両立―介護離職を防ぐために」
[4]厚生労働省「地域がいきいき 集まろう!通いの場」

初回公開日
2026年10月16日

最終更新日
2026年10月16日