『高齢者の低栄養を知る100の話“64”』
地域の薬局、デイサービス、配食サービス、通いの場、訪問介護などで、「最近やせた」「食べる量が減った」という高齢者に気づくことがあります。
栄養スクリーニングを行い、「低栄養リスクあり」と判定されることもあるでしょう。しかし、見つけただけでは低栄養予防にはなりません。大切なのは、その結果を誰に伝え、どのような支援につなぎ、その後を誰が確認するかです。
地域で低栄養リスクを見つけた後の基本は、「緊急性を確かめる」「原因の手がかりを集める」「適切な専門職につなぐ」「つながったかを確認する」という流れです。
最初に緊急性を確認する
まず判断したいのは、通常の相談として対応できる状態か、速やかな受診が必要な状態かです。
次のような症状がある場合は、栄養相談より先に医療につなぐ必要があります。
- 水分もほとんど取れない
- 意識がもうろうとしている
- 急にぐったりして反応が悪い
- 強い息苦しさや胸の痛みがある
- 繰り返し嘔吐している
- 便や吐いた物に血が混じる
- 高熱や強い腹痛がある
- 食事のたびに強くむせ、呼吸状態も悪い
緊急性が高い場合は、家族やかかりつけ医への連絡だけでなく、状況に応じて救急要請を考えます。
また、緊急ではなくても、短期間で著しく体重が減った、食欲低下が続いている、発熱や痛みがある、飲み込みにくくなったといった場合は、早めの受診が必要です。「低栄養だから食べ物を増やそう」と考える前に、病気が隠れていないかを確認します。
スクリーニング結果は「診断」ではない
MNA-SFなどで低栄養リスクが示されても、それだけで低栄養と診断されたわけではありません。
国際的なGLIM基準では、検証済みの方法によるスクリーニングでリスクのある人を抽出し、その後、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少などの身体的な変化と、食事摂取量低下、消化吸収の問題、病気による負荷・炎症などを組み合わせて診断します[1]。
したがって、地域でスクリーニングを行う人の役割は、診断を決めることではありません。変化を具体的な情報として整理し、詳しい評価ができる医療・栄養の専門職へ渡すことです。
本人に結果を分かりやすく伝える
「あなたは低栄養です」と断定すると、不安を与えたり、支援を拒まれたりすることがあります。
「最近の体重減少と食事量の低下から、栄養状態が悪くなる可能性がありそうです」「食べられない理由を一度確認した方が安心です」と、分かったことと、まだ分からないことを分けて説明します。
そのうえで、誰に何を伝えるのかを本人と相談します。医療機関や薬局、ケアマネジャーなどへ個人情報を共有する場合は、緊急時などを除き、原則として本人の理解と同意を得ることが大切です。
本人が受診や支援を望まないときは、理由を確認します。「大ごとにしたくない」「お金が心配」「家族に迷惑をかけたくない」「病気が見つかるのが怖い」など、拒否の背景によって対応が変わります。
原因を決めつけず、手がかりを集める
地域の現場ですべての原因を確定する必要はありません。ただし、つなぎ先を考えるために、次の情報を可能な範囲で確認します。
- 現在の体重と以前の体重、減少した期間
- 一日の食事回数と、以前からの食事量の変化
- 食欲、吐き気、便秘、下痢、痛み、発熱、息切れ
- 噛みにくさ、義歯の不具合、むせ、飲み込みにくさ
- 病気や入退院の状況
- 処方薬、市販薬、サプリメントの追加や変更
- 買い物、調理、配膳ができるか
- 一人で食べているか、経済的な困り事がないか
- 認知機能や気分、活動量の変化
質問攻めにするのではなく、本人の話を聞きながら、何が起きているかを整理します。原因は一つとは限りません。口の問題と薬の影響、孤食と抑うつなど、複数の要因が重なっていることが多くあります。
原因に応じてつなぎ先を変える
医療的な原因が疑われる場合は、かかりつけ医や医療機関につなぎます。体重減少、食事量、症状、スクリーニング結果を具体的に伝えると、診察につながりやすくなります。
噛みにくい、歯が痛い、義歯が合わない場合は歯科医師や歯科衛生士へ、むせや嚥下機能の低下が疑われる場合は医師、歯科医師、言語聴覚士などにつなぎます。
薬を始めてから食欲が落ちた、口が乾く、吐き気や眠気がある場合は薬剤師へ相談します。薬は本人の判断で中止せず、薬剤師が服薬状況を整理し、必要に応じて処方医へ情報を伝えます。
食事内容や必要な栄養量、食べやすい調理方法については管理栄養士が専門です。買い物、調理、経済面、介護サービスなどの問題には、ケアマネジャー、地域包括支援センター、市町村の相談窓口などが関わります。
厚生労働省も、通いの場などで低栄養等の支援対象者を把握し、状態に応じた保健指導を行うとともに、地域包括支援センター等と連携して、必要な医療・介護サービスへつなぐことを示しています[2]。
情報は「低栄養かもしれない」だけで終わらせない
専門職へ連絡するときは、次のような情報を簡潔にまとめます。
3か月前は52kg、現在48kgで、意図せず4kg減少。ここ1か月は一日2食で、主食を半分ほど残す。最近むせが増えた。MNA-SFは○点。本人の同意を得て情報提供する。
このように、いつから、何が、どの程度変化したのかを伝えると、受け取る側が緊急性や必要な評価を判断しやすくなります。
本人が複数の支援者に同じ説明を繰り返さなくてよいよう、地域で共通の連絡票や情報提供書を準備しておくことも有効です。
つないだ後を確認する
紹介先を伝えただけでは、支援につながったとはいえません。本人が予約できなかった、受診の必要性が伝わらなかった、移動手段がなかったということもあります。
数日後や次回の訪問・来局時に、受診できたか、食事量や体重はどうなったか、支援内容を実行できているかを確認します。改善しなければ、別の原因や支援方法を再検討します。
栄養状態は一度の介入で固定されるものではありません。病気や生活状況によって変化するため、定期的な再評価が必要です。日本栄養治療学会が紹介するGLIM基準の活用例でも、評価結果から栄養ケア計画を立て、定期的に再評価して見直す流れが示されています[3]。
地域で低栄養リスクを見つけることは、支援の入口にすぎません。
発見する人、医学的に評価する人、食事を支える人、生活を支える人、経過を見る人がつながって初めて、早期発見が実際の低栄養予防に変わります。
「誰かに伝えた」で終わらず、「必要な支援につながり、その後どうなったか」まで確認することが、地域の栄養ケアで最も重要です。
執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[2]厚生労働省「高齢者の医療の確保に関する法律に基づく高齢者保健事業の実施等に関する指針」
[3]日本栄養治療学会「GLIM基準を用いた栄養アセスメントの実施例」
[4]厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について」
初回公開日
2026年10 月2日
最終更新日
2026年10月2日
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