5.高齢者の低栄養を放置するとどうなる?

「最近少し痩せたけれど、元気そうだから大丈夫」「食が細いのは高齢だから仕方がない」。そのように考えて、体重減少や食事量の低下を見過ごしてしまうことがあります。

しかし、高齢者の低栄養は、単に体重が減るだけの問題ではありません。筋肉、免疫、傷を治す力、病気から回復する力など、身体のさまざまな働きに影響します。進行すると、日常生活を送る力そのものが弱くなり、フレイルや要介護状態につながる可能性もあります。

ただし、低栄養があれば必ず同じ経過をたどるわけではありません。病気や生活環境など、ほかの要因も関係します。大切なのは、悪循環が進む前に気づき、原因に合った支援につなげることです。

最初に減りやすいのは筋肉

食事から得られるエネルギーが足りないと、身体は蓄えている脂肪だけでなく、筋肉のたんぱく質も分解してエネルギーを補おうとします。たんぱく質の摂取不足や病気による炎症が加われば、筋肉はさらに減りやすくなります。

筋肉が減ると、立ち上がる、歩く、階段を上る、荷物を持つといった動作が難しくなります。以前は休まず歩けた距離で疲れる、椅子から立つときに手を使う、歩く速度が遅くなるといった変化が現れることもあります。

こうした変化を「歳をとったから」と考えがちですが、低栄養や筋肉量の低下が関係している可能性があります。

転倒や骨折のリスクにつながる

脚の筋力が低下すると、つまずいたときに姿勢を立て直しにくくなります。歩幅が小さくなったり、足が上がりにくくなったりすることで、転倒しやすくなることもあります。

低栄養では、筋肉だけでなく骨の健康に必要な栄養素も不足している場合があります。転倒と骨の弱さが重なると、骨折につながる危険性が高まります。高齢者では、骨折による入院や安静をきっかけに身体機能が大きく低下し、退院後も以前の生活に戻れないことがあります。

低栄養、筋力低下、転倒、骨折、活動量低下という流れは、それぞれが次の問題を引き起こす連鎖になり得ます。公的な健康情報でも、高齢者の低栄養は筋肉量・筋力や骨量の減少を通じて、転倒や骨折のリスクと関係すると説明されています。[1]

感染症に対する抵抗力や回復力が低下する

免疫の働きには、エネルギーやたんぱく質をはじめ、さまざまな栄養素が必要です。低栄養になると、感染症に対する抵抗力が低下しやすくなると考えられています。

風邪や肺炎などにかかると、発熱や炎症によって身体は多くのエネルギーを使います。一方で、食欲は落ちやすくなります。その結果、病気によって栄養を消耗するのに、必要な栄養を補えないという状態が生まれます。

「病気になる→食べられない→さらに体力が落ちる」という流れに入ると、回復に時間がかかることがあります。国際的な高齢者栄養のガイドラインでも、低栄養は感染症の増加、入院期間の長期化、急性疾患からの回復の遅れなど、好ましくない転帰と関連するとされています。[2]

ここで注意したいのは、感染症や治療そのものが食欲低下と低栄養を進めることもある点です。原因と結果は一方向ではなく、互いに影響し合います。

傷や床ずれが治りにくくなることがある

皮膚や傷を修復するためにも、エネルギーやたんぱく質などが必要です。低栄養では、傷の治りが遅れたり、床ずれと呼ばれる褥瘡ができやすくなったりする可能性があります。[1]

特に、寝ている時間が長い人や、車いすで同じ姿勢を続ける人は注意が必要です。筋肉や皮下脂肪が減ると骨の周りに圧力がかかりやすくなり、皮膚の状態も悪化しやすくなります。

傷が痛むと動かなくなり、活動量が減って食欲も落ちることがあります。これも、低栄養をさらに進めるきっかけになります。

病気の治療にも影響する

低栄養の状態で病気になると、治療やリハビリを続ける体力が不足することがあります。手術や入院を乗り越えても、筋力が落ちて歩けなくなったり、退院後の生活に支援が必要になったりすることがあります。

低栄養と入院、合併症、再入院、死亡などとの関連は、さまざまな研究で報告されています。[2][3] ただし、低栄養だけが原因とは限りません。重い病気が低栄養を引き起こし、同時に治療成績にも影響している場合があるからです。

それでも、栄養状態を確認せずに治療だけを進めるのではなく、病気の治療と栄養管理を並行して考えることには大きな意味があります。

外出や人との交流まで減っていく

筋力や体力が落ちると、「転ぶのが怖い」「疲れるから出かけたくない」と感じるようになります。買い物や調理が難しくなれば、食べられる食品の種類が減るかもしれません。

外出しなくなると、人と食事をする機会や地域とのつながりも減ります。一人で簡単な食事を済ませる日が増え、さらに低栄養が進むことがあります。

つまり、低栄養は身体の問題だけにとどまりません。暮らしの範囲を狭め、その人らしい生活や社会とのつながりにまで影響する可能性があります。

低栄養とフレイルの悪循環

低栄養になると筋肉が減り、動きにくくなります。動かなくなるとエネルギー消費が減り、空腹を感じにくくなります。買い物や料理も難しくなり、食べる量がさらに減ります。

この悪循環を整理すると、次のようになります。

食事量の低下→低栄養→筋肉・筋力の低下→活動量の低下→食欲の低下→さらなる低栄養

厚生労働省は、低栄養をフレイルを招く重要な因子と位置づけ、転倒予防や介護予防の観点からも低栄養予防が重要だとしています。[4]

運動は筋肉や身体機能を守るために大切です。しかし、身体をつくる材料や動くためのエネルギーが足りないまま、運動だけを頑張るのは適切とは限りません。高齢期には、必要な栄養を確保したうえで、体調や能力に合った活動を続ける「食べる→動く」の考え方が基本になります。

放置せず、まず変化に気づく

低栄養への対応は、特別な食品を勧めることから始まるのではありません。まず、なぜ食べられなくなったのかを確認することが必要です。病気、薬、歯や入れ歯、飲み込み、気分の落ち込み、買い物や調理の困難など、原因によって必要な対応は異なります。

定期的に体重を測り、食事量、食べ残し、歩き方、外出の頻度などを以前と比べてみましょう。意図しない体重減少や食欲低下が続く場合、発熱、痛み、息苦しさ、むくみ、飲み込みにくさなどを伴う場合は、「栄養不足だろう」と決めつけず、医療機関に相談することが大切です。

低栄養は、早い段階では小さな変化に見えます。しかし、放置すると複数の問題がつながり、元の生活に戻ることを難しくする可能性があります。だからこそ、「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「元気なうちから気づく」ことが重要なのです。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

  1. 公益財団法人長寿科学振興財団「高齢者の低栄養」
  2. Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022.
  3. Norman K, et al. Malnutrition in Older Adults—Recent Advances and Remaining Challenges. Nutrients. 2021.
  4. 厚生労働省「高齢者の低栄養予防」
  5. 公益財団法人長寿科学振興財団「栄養によるフレイル予防」

初回公開日
2026年8月26日

最終更新日
2026年8月26日