4.「ちゃんと食べている」高齢者でも低栄養になる理由

高齢者本人に食生活を尋ねると、「毎日3食、ちゃんと食べています」と答えることがあります。家族も、「食事は欠かしていないから大丈夫」と考えているかもしれません。

ところが、「食事をしたこと」と「身体に必要な栄養が満たされていること」は同じではありません。3食食べていても、量や内容が十分でなかったり、病気によって栄養をうまく利用できなかったりすれば、低栄養になる可能性があります。

「3食食べている」だけでは分からない

朝は食パンとコーヒー、昼はうどん、夜はお茶漬け。このような食事でも、回数だけを数えれば1日3食です。しかし、全体の量が少なければエネルギーが不足し、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などが少なければ、たんぱく質も不足しやすくなります。

高齢になると、一人前を食べきれず、器に盛る量そのものが少なくなることがあります。本人にとってはいつもどおりの一食でも、若い頃の半分ほどになっているかもしれません。

また、「野菜を食べている」「油ものを控えている」という健康意識があっても、それだけで必要な栄養がすべて満たされるわけではありません。厚生労働省は、高齢者では食事量が少なくなり、あっさりしたものを好むことで、たんぱく質やエネルギーが不足することがあると説明しています。[1]

食事は回数だけでなく、主食、主菜、副菜がそろっているか、それぞれをどのくらい食べているかを見る必要があります。

食べている「つもり」と実際の量が違うこともある

人は毎日の食事量を正確に覚えているとは限りません。「昨日は魚を食べた」と思っていても、実際には小さな一切れを半分残していることがあります。「お弁当を食べている」と聞いて安心していたら、ご飯とおかずの多くが残っていたということもあります。

離れて暮らす家族の場合、たまに一緒に食べる一食だけを見て、「よく食べている」と判断しがちです。家族が来た日は普段より頑張って食べる人もいます。一方、普段は調理が面倒で、菓子パンやお茶だけで済ませているかもしれません。

大切なのは、特別な日の一食ではなく、普段の食生活です。冷蔵庫の食品が減っているか、同じものばかり食べていないか、配食の容器に残食が多くないかなど、暮らしの中に手がかりがあります。

食事内容が偏ると不足が隠れやすい

食べやすさを優先すると、麺類、おかゆ、パン、菓子類などに偏ることがあります。これらを食べること自体が悪いわけではありません。しかし、主菜や副菜がほとんどなく、それだけで食事が終われば、必要な栄養素を十分にとれない可能性があります。

反対に、肉や魚は食べていても、ご飯などの主食を極端に減らしている場合があります。エネルギーが不足すると、摂取したたんぱく質が筋肉や身体をつくるためではなく、エネルギー源として使われやすくなります。

厚生労働省は、適切な量とバランスを確保する基本として、主食、主菜、副菜を組み合わせることを勧めています。[2] 毎回完璧にそろえる必要はありませんが、数日間を振り返って食品の種類が著しく偏っていないかを確認してみましょう。

食べても身体がうまく利用できない場合がある

低栄養の原因は、食べる量の不足だけではありません。下痢や消化器の病気などによって、栄養の消化や吸収が妨げられる場合があります。発熱、感染症、がん、心不全などの病気や、それらに伴う炎症によって、身体が多くの栄養を必要としたり、筋肉が減りやすくなったりすることもあります。

国際的な低栄養の診断基準であるGLIM基準でも、食事摂取量や吸収の低下だけでなく、病気や炎症の影響が確認項目に含まれています。[3]

このため、食事量を増やすだけでは解決しない低栄養もあります。以前と同じように食べているのに体重が減る、強いだるさが続く、むくみがあるといった場合は、病気が隠れていないかを確認することが重要です。

必要な量はいつも同じではない

身体が必要とするエネルギーや栄養素は、年齢だけで決まるものではありません。体格、活動量、病気、けが、回復の段階などによって変わります。

病気や手術のあとには、食欲が落ちている一方で、身体の回復のために栄養が必要になることがあります。「普段と同じくらい食べているから足りている」とは限りません。

逆に、腎臓病、糖尿病、心不全などがある人は、病状に応じた食事管理が必要です。低栄養が心配だからといって、医師の指示を無視して自己流で食事を変えるのは避けましょう。制限と栄養確保をどう両立するか、医師や管理栄養士に相談することが大切です。

「食べたか」より「変化を見る」

低栄養に早く気づくためには、「3食食べましたか」だけで終わらせず、次の点を確認します。

  • 一食の量が以前より減っていないか
  • 食べる食品の種類が偏っていないか
  • 肉、魚、卵、大豆製品などをとれているか
  • 食べ残しが増えていないか
  • 意図せず体重が減っていないか
  • 筋力や活動量が落ちていないか

必要な栄養をとり、身体の状態に合った活動を続ける「食べる→動く」が、高齢期の体力を守る基本です。

「ちゃんと食べている」という言葉を疑うのではありません。その中身を一緒に確かめることが大切です。食事の回数だけで安心せず、量、内容、体重、身体の変化まで見ることで、隠れていた低栄養リスクに気づける可能性があります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

  1. 厚生労働省「栄養・食生活」
  2. 厚生労働省「外食・中食の上手な活用法」
  3. Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition: A consensus report from the global clinical nutrition community. Clinical Nutrition. 2019.
  4. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
  5. Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022.

初回公開日
2026年8月26日

最終更新日
2026年8月26日