3.なぜ高齢になると低栄養になりやすいのか?

高齢になると、「若い頃ほどお腹がすかない」「一度に食べられる量が減った」と感じる人が増えてきます。そのため、食事量が減ることを自然な老化現象として受け止めがちです。

確かに、加齢に伴う身体の変化は食欲や食べる力に影響します。しかし、高齢者の低栄養は、年齢だけで起こるものではありません。身体の変化、病気や薬、こころの状態、生活環境など、複数の要因が重なって起こることが多いのです。

以前より空腹を感じにくくなる

高齢になると、活動量や筋肉量の減少などによって、必要とするエネルギー量が若い頃より少なくなることがあります。それに伴い、空腹を感じにくくなったり、一度に食べられる量が減ったりする人もいます。

味やにおいの感じ方が変わり、「何を食べても同じ味がする」「以前ほど食事がおいしくない」と感じることもあります。また、胃の動きなどの変化によって、少し食べただけで満腹になる場合もあります。こうした加齢に伴う食欲低下は「加齢性食欲不振」と呼ばれることがあります。[1]

食事量が少なくなっているのに、身体をつくるたんぱく質やビタミン、ミネラルなどの必要性まで同じように小さくなるとは限りません。食べられる量が減るほど、少ない食事から必要な栄養をどう確保するかが重要になります。

「噛む・飲み込む」が難しくなる

歯の欠損、合わない入れ歯、口の乾燥などがあると、硬い肉や野菜を避けるようになります。飲み込む力が弱くなると、むせやすい食品を敬遠することもあります。

その結果、軟らかい麺類、おかゆ、パンなど、食べやすいものに偏りやすくなります。食事はとっていても、エネルギーやたんぱく質が十分でないことがあるのです。

本人が「食べにくい」と訴えず、黙って食べる量を減らしている場合もあります。食事に時間がかかる、食べこぼしが増える、硬いものを残すようになるといった変化にも注意が必要です。

病気や薬が食事に影響する

高齢になるほど、複数の病気を抱えたり、多くの薬を使用したりする人が増えます。病気による痛み、息苦しさ、発熱、便秘、吐き気などがあれば、食欲が落ちることがあります。病気や炎症によって、栄養の必要量や身体での使われ方が変わる場合もあります。

薬の種類によっては、吐き気、口の乾き、便秘、眠気、味の感じ方の変化などが起こり、食べにくさにつながる可能性があります。だからといって、自己判断で薬を中止してはいけません。「薬を飲み始めてから食欲が落ちた気がする」と感じたら、医師や薬剤師に伝えることが大切です。

食欲低下や体重減少の背景に、新たな病気や持病の悪化が隠れていることもあります。「高齢だから」で終わらせず、原因を確かめる視点が必要です。

こころと生活環境も関係する

食べることは、身体の機能だけで決まるものではありません。配偶者や友人との死別、気分の落ち込み、認知機能の低下などによって、食事への関心が薄れることがあります。

一人で食べると、料理をする意欲がわかず、簡単な食品だけで済ませたり、食事そのものを抜いたりすることもあります。足腰が弱って買い物に行けない、重い荷物を持てない、経済的に食品の選択肢が限られるといった事情も、食生活に影響します。

厚生労働省も、高齢者の低栄養には、口腔機能、疾患や薬、精神的なストレス、独居や行動範囲の低下など、多様な要因が関係するとしています。[2]

つまり、低栄養は本人の努力不足や、単なる好き嫌いだけで起こるものではありません。食べたくても食べられない、用意したくてもできない事情がないかを見ることが大切です。

小さなきっかけから悪循環が始まる

低栄養になることで、免疫力や筋力が落ち、肺炎や骨折といった入院や要介護化の原因を引き起こすことがあります。だからこそ、健康な時に低栄養にならないための意識や行動を行うことが重要です。一方で、肺炎や骨折などによる入院、風邪、暑さによる食欲低下といった出来事をきっかけに、食事量が大きく落ちることもあります。一時的な不調が治っても、食事量や体力が元に戻らないことがあります。

食べる量が減ると筋肉が落ち、動くことがつらくなります。動かなくなると空腹を感じにくくなり、買い物や調理も難しくなって、さらに食べられなくなります。この「食べられない→動けない→さらに食べられない」という悪循環が、低栄養を進めます。

だからこそ、高齢期には「運動を頑張る」だけでなく、まず身体を動かすための栄養を確保する「食べる→動く」の考え方が重要です。

高齢だから低栄養になるわけではない

年齢を重ねれば、誰もが低栄養になるわけではありません。国際的なガイドラインでは、高齢者の低栄養リスクを早期に見つけるため、定期的な栄養スクリーニングが推奨されています。[3]

家庭でできる第一歩は、定期的に体重を測り、食事量や食べる食品、動き方の変化を見ることです。食欲低下や意図しない体重減少が続く場合、むせが増えた場合、強いだるさや発熱などを伴う場合は、医療機関に相談しましょう。

「歳をとったから食べられなくて当然」ではありません。何が食べることを難しくしているのかに気づけば、治療、口腔ケア、薬の調整、食事の工夫、買い物や会食の支援など、その人に合った対策につなげられる可能性があります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

  1. National Institute on Aging “Healthy Meal Planning: Tips for Older Adults”
  2. Wysokiński A, et al. Mechanisms of the anorexia of aging—a review. Age. 2015.
  3. 厚生労働省「高齢者の低栄養予防」
  4. Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022.
  5. Norman K, et al. Malnutrition in Older Adults—Recent Advances and Remaining Challenges. Nutrients. 2021.

初回公開日
2026年8月24日

最終更新日
2026年8月24日