『高齢者の低栄養を知る100の話②』
「低栄養」と聞くと、多くの人が痩せた高齢者を思い浮かべます。反対に、体格のよい人を見て「これだけ体重があるのだから、栄養は足りている」と考えることもあるでしょう。
しかし、身体の大きさと栄養状態は同じものではありません。太って見える人や、BMIが高い人でも、低栄養になっている、あるいは低栄養のリスクを抱えている可能性があります。
BMIで分かること、分からないこと
BMIは、体重を身長の二乗で割って求める体格の指標です。計算が簡単で、低体重や肥満の傾向を把握するうえで役立ちます。
一方、BMIだけでは、その体重が筋肉によるものか、脂肪によるものかを区別できません。体重が同じでも、筋肉が多い人と、筋肉が減って脂肪の割合が増えた人では、身体の状態が異なります。厚生労働省も、BMIは身長と体重から計算する値であり、それだけでは筋肉質なのか脂肪が多いのかを区別できないと説明しています。[1]
低栄養の判断でも、BMIは大切な情報の一つですが、それだけで決まるわけではありません。
体重があっても栄養が不足する理由
例えば、ご飯やパン、菓子類などは食べていても、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などをほとんど食べていない場合があります。摂取するエネルギーはある程度確保できていても、筋肉や身体をつくるたんぱく質、ビタミン、ミネラルなどが不足している可能性があります。
また、以前は十分に食べていた人が、病気や薬の影響、噛みにくさ、飲み込みにくさなどによって、急に食べられなくなることもあります。身体に蓄えられた脂肪があるため、外見がすぐに細くなるとは限りません。その内側で筋肉が減っていても、周囲から気づかれにくいのです。
病気やけが、手術などに伴う炎症があると、食事量が減るだけでなく、身体の中で栄養が消耗しやすくなることもあります。むくみがある場合には、水分によって体重減少が見えにくくなることもあります。このため、「体重があるから大丈夫」とは言い切れません。
大切なのは「今の体重」だけでなく「変化」
現在のBMIだけを見るのではなく、以前と比べてどう変化したかを確認することが重要です。
例えば、体重80kgの人が半年で74kgになった場合、見た目にはまだ太っているように見えるかもしれません。しかし、本人が意図していないのに6kg、割合にすると7.5%も減っていれば、見過ごさないほうがよい変化です。
国際的な低栄養の診断の考え方であるGLIM基準でも、低BMIだけでなく、意図しない体重減少や筋肉量の減少が評価項目に含まれます。さらに、食事摂取量の減少や、病気・炎症の影響も組み合わせて確認します。[2]
つまり、低栄養を見るときには、「何kgあるか」だけでなく、次のような情報が必要です。
- 数か月前と比べて体重が減っていないか
- 食事量や食べる食品の種類が減っていないか
- 腕や脚が細くなっていないか
- 立ち上がる、歩くといった動作が弱っていないか
- 病気や炎症、薬などの影響がないか
低栄養の診断は、こうした情報をもとに医療・栄養の専門職が総合的に行います。家庭では、体重や食事、動作の変化に気づくことが第一歩です。
脂肪の内側で筋肉が減ることもある
体脂肪が多い一方で、筋肉量や筋力が低下した状態は「サルコペニア肥満」と呼ばれます。[3] 外見や体重だけでは筋肉の減少が分かりにくいため、気づかないまま歩行や立ち上がりが難しくなることがあります。
ただし、太っていて筋力が弱い人が、すべて低栄養やサルコペニア肥満に該当するわけではありません。名称だけで自己判断せず、体重減少、食事量、筋力、持病などを一緒に見ることが大切です。
高齢期は「とにかく痩せる」から卒業する
肥満は、糖尿病、高血圧、脂質異常症などと関係するため、体重管理が必要な人もいます。しかし、高齢者が厳しい食事制限をすると、脂肪だけでなく筋肉まで減り、低栄養やフレイルにつながるおそれがあります。
厚生労働省の保健指導資料でも、前期高齢者について、食事制限による低栄養や筋肉量低下を防ぐため、急激な減量を避けるよう注意を促しています。[4]
だからといって、好きなものを好きなだけ食べればよいわけではありません。生活習慣病を管理しながら、必要なエネルギーとたんぱく質を確保し、身体の状態に合った運動を組み合わせることが基本です。
体重がある人でも、意図しない体重減少、食欲低下、筋力低下が見られたら、「痩せてよかった」で済ませないでください。特に、急な体重減少や食欲低下が続く場合は、病気が隠れている可能性もあるため、かかりつけ医や管理栄養士、薬剤師などに相談しましょう。
低栄養は、見た目だけでは判断できません。「太っているか、痩せているか」ではなく、「身体に必要な栄養と筋肉が保たれているか」という視点で考えることが大切です。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
- 厚生労働省「肥満と健康」
- Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition: A consensus report from the global clinical nutrition community. Clinical Nutrition. 2019.
- Donini LM, et al. Definition and Diagnostic Criteria for Sarcopenic Obesity: ESPEN and EASO Consensus Statement. Obesity Facts. 2022.
- 厚生労働省「健康的な体づくりのための生活習慣見直しノート(男性編)」
- Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022.
初回公開日
2026年8月20日
最終更新日
2026年8月20日
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