1.高齢者の「低栄養」とは?実は身近にある健康問題

「低栄養」と聞くと、食べ物がほとんどない地域の問題や、重い病気で入院している人の問題を思い浮かべるかもしれません。しかし、高齢者の低栄養は、私たちの暮らしのすぐそばにあります。自宅で普通に生活し、毎日3食を食べているように見える人にも起こり得ます。

低栄養は「身体に必要な栄養が足りない状態」

低栄養とは、身体が必要とするエネルギーやたんぱく質などが不足し、身体を保つことが難しくなっている状態です。

エネルギーは、歩く、呼吸する、体温を保つといった生命活動の土台です。たんぱく質は、筋肉だけでなく、皮膚、内臓、血液、免疫に関わる物質などをつくる材料になります。摂取不足が続けば、体重や筋肉が減り、身体の働きが少しずつ弱くなる可能性があります。

ただし、低栄養は単に「食べる量が少ない」という意味ではありません。病気や炎症によって栄養の必要量が増えたり、食べた栄養を身体がうまく利用できなかったりすることもあります。また、体格だけで決まるものでもありません。見た目が細くなくても、以前より体重や筋肉が減っている場合には注意が必要です。

特別な人だけに起こる問題ではない

厚生労働省の令和5年国民健康・栄養調査では、65歳以上で「低栄養傾向」とされるBMI20以下の人は、男性12.2%、女性22.4%でした。これは低栄養の診断を受けた人の割合ではありませんが、注意を必要とする高齢者が少なくないことを示しています。[1][2]

例えば、次のような変化はないでしょうか。

  • 半年ほどの間に体重が減った
  • 以前より食事を残すようになった
  • 肉や魚をあまり食べなくなった
  • 買い物や料理が負担になってきた
  • 服がゆるくなり、腕や脚が細くなった
  • 疲れやすく、外出が減った
  • 風邪などのあと、体力が戻りにくい

一つ当てはまれば低栄養だと決まるわけではありません。しかし、こうした小さな変化が重なっているときは、栄養状態を確認するきっかけになります。

なぜ気づきにくいのか

低栄養は、ある日突然始まるとは限りません。「少し食が細くなった」「歩くのが遅くなった」「最近あまり出かけない」といった変化が、数週間から数か月かけて進むことがあります。

本人も家族も、「高齢だから仕方がない」「若い頃ほど食べなくて当然」と受け止めやすいため、問題が見えにくくなります。毎日顔を合わせている家族ほど、ゆっくりした変化には気づきにくいこともあります。

さらに、体重が減ることを良いことだと考える人もいます。生活習慣病を心配して長年食事を控えてきた人は、高齢になっても「もっと痩せたほうが健康」と思い続けることがあります。しかし、高齢期には生活習慣病への配慮と同時に、筋肉や体力を守る視点も必要です。

持病がある人は、自己判断で食事制限を強めたり、反対に治療上必要な制限をやめたりせず、医師や管理栄養士などに相談しましょう。

低栄養がつくる悪循環

栄養が足りないと筋肉が減り、立つ、歩く、買い物に行くといった動作がつらくなることがあります。活動量が落ちれば空腹を感じにくくなり、食事量がさらに減ることもあります。

つまり、「食べられないから動けない」「動かないから食欲がわかない」という悪循環です。この流れが続くと、フレイルや転倒、要介護状態につながる可能性もあります。[1][3]

高齢者の健康づくりでは、運動だけ、食事だけと分けるのではなく、まず必要な栄養をとり、そのうえで身体の状態に合った活動を続ける「食べる→動く」の順番が大切です。

「歳のせい」で終わらせない

食事量の減少には、噛みにくさや飲み込みにくさ、味覚の変化、薬の影響、一人で食べる寂しさ、買い物の困難など、さまざまな事情が関係します。その一方で、病気の発症や悪化が隠れていることもあります。

原因が分からない体重減少、食欲低下が続く、食べ物が飲み込みにくい、強いだるさやむくみがあるといった場合は、「栄養をつければよい」と自己判断せず、かかりつけ医などに相談することが大切です。

低栄養予防の第一歩は、特別な食品を買うことではありません。定期的に体重を測り、食べる量、身体の動き、暮らし方の変化に気づくことです。そして、気になる変化があれば、家族だけで抱え込まず、医療・介護・栄養の専門職や身近な薬局などに相談することです。

低栄養は、遠い世界の問題ではありません。早く気づき、原因を考え、その人に合った支援につなげることで、食べる力と動く力を守れる可能性があります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

  1. 厚生労働省「高齢者の低栄養予防」
  2. 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査」の結果
  3. Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022.
  4. Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition. Clinical Nutrition. 2019.

初回公開日
2026年8月20日

最終更新日
2026年8月20日