8.低栄養から要介護へ――身体に起こる悪循環

低栄養になったからといって、すぐに介護が必要になるわけではありません。反対に、要介護状態になる原因がすべて低栄養というわけでもありません。

しかし、高齢者では、食事量の低下から始まった小さな変化が、筋肉、活動、生活、社会とのつながりへと広がり、複数の悪循環をつくることがあります。その連鎖が続いた結果、これまで一人でできていたことに支援が必要になる可能性があります。

低栄養から要介護への道筋は、一本道ではありません。だからこそ、途中のどこかで変化に気づき、悪循環を止めることが大切です。

最初の変化は目立たない

食事量が減り、身体に必要なエネルギーやたんぱく質が不足すると、体重や筋肉量が少しずつ減っていきます。

初めのうちは、本人も家族も大きな問題とは感じないかもしれません。「少し疲れやすくなった」「歩くのが遅くなった」「外出の回数が減った」といった程度に見えることもあります。

ところが、筋力が低下すると、立ち上がる、階段を上る、荷物を運ぶといった動作が負担になります。すると、動くことを避けるようになり、筋肉を使う機会が減ります。食事からの材料不足と運動不足が重なることで、筋肉はさらに減りやすくなります。

生活の中の「できない」が増えていく

筋力や体力の低下は、まず複雑な生活動作に表れることがあります。

例えば、スーパーまで歩く、食品を選ぶ、重い荷物を持ち帰る、献立を考える、台所に立って調理するといった行動です。一つひとつは小さなことでも、複数の動作を組み合わせるため、体力が落ちると難しくなります。

買い物や料理が負担になると、家にある食品や食べやすいものだけで済ませるようになります。食事の種類や量が減れば、低栄養がさらに進む可能性があります。

やがて、掃除、洗濯、入浴、着替え、排せつ、室内の移動など、毎日の基本的な動作にも支援が必要になることがあります。低栄養が直接すべての生活機能を奪うのではなく、筋力低下や病気、認知機能、生活環境などが重なって、「できること」が少しずつ減っていくのです。

転倒や入院が悪循環を速める

低栄養によって筋肉量や筋力が低下すると、足が上がりにくくなったり、姿勢を立て直しにくくなったりします。その結果、転倒や骨折のリスクが高まる可能性があります。

骨折や肺炎などで入院すると、安静にしている時間が増えます。入院中は病気や治療によって食欲が落ちることもあり、食事量の低下と活動量の低下が同時に起こります。病気そのものは改善しても、筋力や食欲が入院前まで戻らず、退院後の生活に支援が必要になる場合があります。

2025年の国民生活基礎調査では、要支援者が支援を必要とする主な原因として「高齢による衰弱」が17.7%で最も多く、「骨折・転倒」が14.7%でした。要介護者では「骨折・転倒」が14.8%で2番目となっています。[1]

この統計は、低栄養がその割合のすべてを引き起こしたという意味ではありません。しかし、低栄養と関係する筋力低下、フレイル、転倒を早い段階から防ぐことの重要性を示す数字といえます。

外出が減ると、食事にも影響する

体力が落ちると、「途中で疲れたら困る」「転んだら怖い」と考え、外出を控えるようになることがあります。

外に出なくなると、買い物の機会だけでなく、友人と会う、地域の活動に参加する、誰かと食事をするといった機会も減ります。一人で過ごす時間が増え、気持ちが落ち込んだり、食事への関心が薄れたりすることもあります。

簡単な食品だけで済ませる、食事の時間が不規則になる、空腹でも用意するのが面倒で食べないといった状況が重なると、低栄養がさらに進みます。

身体の衰えが生活範囲を狭め、生活範囲が狭くなることで食事や活動が減る。この社会的な悪循環も、要介護状態へ近づく一つの経路です。

悪循環は一つではない

低栄養から生活機能が低下していく代表的な流れは、次のように整理できます。

食事量の低下
→低栄養
→筋肉量・筋力の低下
→歩行や日常動作の低下
→活動量・外出機会の減少
→食欲、買い物、調理機会の低下
→さらなる低栄養
→生活に支援が必要になる

このほかにも、低栄養によって感染症からの回復に時間がかかる、傷が治りにくくなる、治療やリハビリを続ける体力が不足するといった経路があります。

一方、流れは逆向きにも進みます。病気や骨折によって動けなくなり、その結果として食事量が減り、低栄養になる場合です。認知機能の低下や孤立が先にあり、食生活が崩れることもあります。

つまり、低栄養は要介護化に関係する一つの重要な要因ですが、単独で働くのではありません。病気、口腔機能、運動、心理状態、社会参加、住環境などと互いに影響し合います。これが、悪循環を複雑にする理由です。[2][3]

介護が必要になること自体を「失敗」にしない

介護や支援が必要になったとき、介護サービスを利用することは悪いことではありません。必要な支援を受けることは、安全と本人らしい暮らしを守るために重要です。

低栄養予防の目的は、「何があっても介護を受けないこと」ではありません。防ぐことのできる体力低下をできるだけ防ぎ、自分で選び、自分で行動できる期間を延ばすことです。すでに介護が必要な人でも、栄養状態を整えることは、残っている力を守り、生活の質を保つことにつながります。

悪循環は途中からでも変えられる

フレイルは、健康と要介護状態の中間に位置し、適切な支援によって生活機能の維持や改善が期待できる状態とされています。[4]

体重減少の段階で気づく、噛みにくさを治療する、薬の影響を確認する、買い物や調理を支援する、誰かと食べる機会をつくる。必要な栄養を確保したうえで、その人に合った運動や外出を続ける。悪循環には、いくつもの介入できる場所があります。

家庭では、次の変化を以前と比べてみてください。

  • 体重や食事量が減っていないか
  • 椅子からの立ち上がりが難しくなっていないか
  • 歩く速度や歩幅が変わっていないか
  • 買い物や調理を避けるようになっていないか
  • 外出や人との交流が減っていないか
  • 退院後も食欲や体力が戻っていない状態が続いていないか

意図しない体重減少や食欲低下が続く場合、急に歩けなくなった場合、発熱、痛み、息苦しさ、むくみ、飲み込みにくさなどがある場合は、「低栄養だから食べさせればよい」と考えず、医療機関に相談してください。

低栄養から要介護への連鎖は、静かに始まることがあります。しかし、小さな変化に早く気づけば、原因に応じた治療や支援につなげられます。「食べる→動く→暮らし続ける」という循環を地域や家族で支えることが、高齢者の自立した生活を守る力になります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

  1. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況―介護の状況」
  2. 公益財団法人長寿科学振興財団「フレイルの原因」
  3. Norman K, et al. Malnutrition in Older Adults—Recent Advances and Remaining Challenges. Nutrients. 2021.
  4. 公益財団法人長寿科学振興財団「フレイルの予防」
  5. 公益財団法人長寿科学振興財団「フレイルと栄養」

初回公開日
2026年8月28日

最終更新日
2026年8月28日