7.低栄養とサルコペニアの関係

「最近、脚が細くなった」「歩くのが遅くなった」「ペットボトルのふたを開けにくい」。こうした変化には、筋肉量や筋力が低下する「サルコペニア」が関係している可能性があります。

サルコペニアと低栄養は同じものではありません。しかし、低栄養はサルコペニアを招く重要な要因の一つであり、サルコペニアが進むと食事量が減って、低栄養をさらに悪化させることがあります。

サルコペニアとは何か

サルコペニアは、加齢などに伴って筋肉量が減少し、筋力も低下した状態です。歩行や立ち上がりなどの身体機能が低下することもあります。

単に「腕や脚が細い」という見た目だけで判断するものではありません。筋肉量に加えて、握力などの筋力を評価します。歩行速度や椅子からの立ち上がりといった身体機能も、その人の筋肉の状態が生活にどう影響しているかを知るうえで重要です。

アジアの専門家による最新のAWGS 2025では、サルコペニアを低筋肉量と低筋力の組み合わせで捉え、身体機能は重要な結果指標として確認する考え方が示されています。[1]

低栄養とサルコペニアは同じではない

低栄養は、身体に必要なエネルギーやたんぱく質などが不足し、身体を保ちにくくなった状態です。一方、サルコペニアは筋肉量と筋力を中心とした問題です。

例えば、食欲が落ちて体重が減っていても、筋肉量や筋力がまだ保たれていれば、低栄養のリスクはあっても、サルコペニアに該当するとは限りません。

反対に、体重や食事量に目立った変化がなくても、長期間ほとんど身体を動かしていなかった人や、病気の影響を受けている人では、筋肉量と筋力が低下している可能性があります。

つまり、「低栄養だから必ずサルコペニア」「サルコペニアだから必ず低栄養」という関係ではありません。ただし、両方を併せ持つ高齢者もいるため、一方が見つかったら、もう一方にも目を向けることが大切です。

栄養が足りないと筋肉が減りやすい

筋肉を維持するには、材料となるたんぱく質が必要です。しかし、たんぱく質だけをとればよいわけではありません。

エネルギーが不足していると、身体は摂取したたんぱく質や、すでにある筋肉をエネルギー源として使いやすくなります。食事量が少ない高齢者では、「肉や魚は食べているから大丈夫」と思っていても、主食などを含めた全体のエネルギーが不足していることがあります。

また、病気や炎症があると、食欲が落ちるだけでなく、筋肉が分解されやすくなる場合があります。入院中の安静や外出機会の減少などが重なれば、筋肉の減少はさらに進みやすくなります。

見た目や体重だけでは分からない

サルコペニアは、痩せている人だけに起こるものではありません。脂肪が多い人では、筋肉が減っていても体重や見た目に表れにくいことがあります。

「体重は変わっていないから筋肉も減っていない」とは限りません。以前より腕や脚が細くなった、ズボンの太もも部分がゆるくなった、重い物を持てなくなったといった変化も手がかりになります。

特に注意したいのは、次のような変化です。

  • 椅子から手を使わずに立ち上がりにくい
  • 階段を上るのがつらくなった
  • 歩く速度が遅くなった
  • つまずいたり転んだりすることが増えた
  • 買い物袋を持つのが難しくなった
  • ふくらはぎや太ももが細くなった

一つ当てはまるだけでサルコペニアと決まるわけではありませんが、筋肉の状態を確認するきっかけになります。

筋肉が減ると、さらに食べられなくなる

低栄養によって筋肉が減ると、歩いて買い物に行くことや、台所に立って料理をすることが難しくなります。外出や活動が減れば、空腹を感じにくくなり、食事量も減ることがあります。

食事量の低下→低栄養→筋肉量・筋力の低下→活動量の低下→食欲低下→さらなる低栄養

この悪循環に入ると、転倒や骨折、生活機能の低下につながる可能性があります。日本サルコペニア・フレイル学会も、サルコペニアを転倒や要介護状態などのリスクに関係する状態と説明しています。[2]

筋肉を守るには「食べる→動く」

筋肉を守るためには、栄養と運動の両方が必要です。国際的な専門家の提言でも、適切なエネルギーとたんぱく質の摂取に、筋力トレーニングなどの運動を組み合わせることが、筋肉の機能を保つうえで重要とされています。[3]

栄養が不足したまま運動だけを増やせば、身体に必要なエネルギーがさらに足りなくなる可能性があります。反対に、たんぱく質をとるだけでほとんど動かなければ、筋力の改善にはつながりにくくなります。まず必要な栄養を確保し、そのうえで体調や能力に合った活動を行う「食べる→動く」が基本です。

ただし、持病や腎機能によって、適切な食事や運動の内容は異なります。急な体重減少や筋力低下、強い疲れ、痛み、食欲低下などがある場合は、年齢のせいと決めつけず、医師や管理栄養士などに相談してください。

低栄養とサルコペニアは別の問題ですが、「栄養が筋肉を支え、筋肉が食べる生活を支える」という関係にあります。体重だけでなく、食事と筋肉、毎日の動作を一緒に見ることが、高齢期の自立した暮らしを守る第一歩です。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

  1. Chen LK, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nature Aging. 2025.
  2. 一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会「フレイル・サルコペニアとは」
  3. Deutz NEP, et al. Protein intake and exercise for optimal muscle function with aging: Recommendations from the ESPEN Expert Group. Clinical Nutrition. 2014.
  4. 公益財団法人長寿科学振興財団「サルコペニアの診断」
  5. 厚生労働省「口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連」

初回公開日
2026年8月28日

最終更新日
2026年8月28日