『高齢者の低栄養を知る100の話㉔』
「以前は肉が好きだったのに、最近はほとんど食べない」。家族がその変化に気づくと、たんぱく質不足を心配するかもしれません。肉は、たんぱく質や鉄、ビタミン類などを取れる食品ですが、食べられない人に無理に勧める必要はありません。
大切なのは、肉を食べられなくなった理由を確かめ、ほかの食品や調理法で必要な栄養を補うことです。「肉を食べない=すぐ低栄養」とは限りませんが、肉だけでなく食事全体が減っている場合は注意が必要です。
まず「なぜ食べられないのか」を確認する
高齢者が肉を避ける理由は一つではありません。「硬くて噛み切れない」「口の中でまとまりにくい」「ぱさついて飲み込みにくい」といった口の問題がよくあります。歯の痛み、合わない義歯、口の乾燥が隠れていることもあります。
また、「脂っこくて胃にもたれる」「量を見るだけで食欲がなくなる」「においが気になる」「調理が面倒」と感じている人もいます。病気、便秘、痛み、気分の落ち込み、薬による吐き気や味覚の変化などが影響している可能性もあります。
「歳だから肉を食べなくなった」と決めつけず、いつから、どのような肉や料理が食べにくくなったのかを聞いてみましょう。新しい薬を始めた時期や、体調を崩した時期と重なっていないかも手がかりになります。
肉は調理法で食べやすくなる
ステーキや焼き肉は食べにくくても、調理法を変えると食べられる場合があります。薄切り肉やひき肉を使う、小さく切る、軟らかく煮込む、蒸す、とろみのあるあんやソースを添えるといった工夫です。ハンバーグ、肉団子、そぼろ、シチュー、肉豆腐などは、比較的食べやすくできます[1]。
ただし、細かく刻めば誰にでも安全とは限りません。口の中でばらばらになる料理は、飲み込む力が低下した人には、かえって食べにくいことがあります。
むせる、食後に声が変わる、口の中に食べ物が残るといった様子があれば、自己流で食事形態を変え続けず、医師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士などに相談してください。栄養管理と口腔・嚥下機能の評価を組み合わせることが重要です[2]。
脂身が負担なら、赤身の薄切り肉や鶏ひき肉などを少量から試す方法があります。大皿で出すより、小鉢に少量盛り付けたほうが食べやすい人もいます。本人の好みを聞き、食べられた料理を記録しておくと工夫を続けやすくなります。
肉以外の食品でもたんぱく質は取れる
肉が食べられないときは、次のような食品を組み合わせます。
- 魚や魚の缶詰
- 卵
- 豆腐、納豆、豆乳などの大豆製品
- 牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品
たんぱく質を多く含む主菜は、肉だけではありません。厚生労働省も、肉、魚、卵、大豆・大豆製品などを、たんぱく質の主な供給源として示しています[3]。
たとえば朝食に卵やヨーグルト、昼食の麺に豆腐や卵、夕食に魚を加えれば、一つの食品に頼らず補えます。魚も食べにくければ、卵豆腐、茶わん蒸し、湯豆腐、ヨーグルトなど、本人が食べやすいものを選びます。毎食どれか一品を取り入れられるか、という見方が実践的です。
ただし、同じ食品だけに偏ると、ほかの栄養素が不足する可能性があります。食べられる範囲で種類を変え、主食や副菜も組み合わせましょう。
たんぱく質だけでなくエネルギーも必要
肉の代わりになる食品を加えても、ごはんやパンなどの主食がほとんど取れていなければ、エネルギー不足になることがあります。エネルギーが足りないと、取ったたんぱく質が身体をつくる材料ではなく、エネルギー源として使われやすくなります。
食事全体が少ない人には、一度に多く食べさせようとするより、食べられる量を複数回に分ける方法があります。間食や栄養補助食品を利用することも選択肢ですが、まずは食事量が減った原因と、普段の食事で何が不足しているかを確認することが大切です。
腎臓病などでたんぱく質の制限を指示されている人は、自己判断で肉や代替食品を増やさず、主治医や管理栄養士へ相談してください。過去に受けた食事制限を長く続けている場合も、現在の病状や栄養状態に合っているか確認が必要です。
肉だけでなく「食事全体」を見る
肉を食べなくても、魚、卵、大豆製品、乳製品などが取れ、体重と活動量が保たれていれば、直ちに問題とは限りません。
一方、肉を避けるようになったのと同時に、食事量が減った、体重が落ちた、疲れやすい、歩くのが遅くなったという変化があれば、低栄養リスクを確認する必要があります。
急に食べられなくなった、短期間で体重が減った、繰り返しむせる、吐き気や腹痛がある、黒い便が出る、発熱や強いだるさがある場合は、食材の工夫だけで様子を見ず、医療機関へ相談してください。
肉が食べられないときの答えは、「無理に食べさせる」でも「肉を完全に諦める」でもありません。原因を探し、食べやすく調理する。それでも難しければ、ほかの食品で補う。
そして食べられる状態を整えてから、無理のない活動へつなげる。この柔軟な「食べる→動く」が、高齢期の筋肉と暮らしを守ります。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「三大栄養素のたんぱく質の働きと1日の摂取量」
[2]厚生労働省「リハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の一体的取組について」
[3]厚生労働省 e-ヘルスネット「外食・中食の上手な活用法」
初回公開日
2026年9月14日
最終更新日
2026年9月14日
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