『高齢者の低栄養を知る100の話㉓』
「筋肉をつけたい若い人が取るもの」。たんぱく質に、そのような印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、たんぱく質は高齢者にこそ不足させたくない栄養素です。
たんぱく質は筋肉だけでなく、皮膚、臓器、血液、酵素、ホルモン、免疫に関わる物質など、身体のさまざまな部分の材料になります。身体の中では古くなったたんぱく質が分解され、新しくつくり直される「入れ替え」が毎日行われています。そのため、年齢にかかわらず、食事から継続して補う必要があります。
高齢になるほど筋肉を守る必要がある
筋肉量は、何もしなければ加齢とともに減少しやすくなります。病気やけがで寝込んだとき、外出が減ったとき、食事量が落ちたときには、その減少が加速することがあります。
筋肉は、歩く、立ち上がる、姿勢を保つといった動作を担うだけではありません。転倒を防ぎ、買い物や調理、入浴などの生活を続けるためにも欠かせません。筋肉が減り、筋力や身体機能まで低下した状態は、サルコペニアと呼ばれます。
さらに、高齢者の身体では、若い人と同じ量のたんぱく質を食べても、筋肉をつくる反応が弱くなることがあります。これは「同化抵抗性」と呼ばれる変化です。だからといって、たんぱく質を際限なく増やせばよいわけではありませんが、高齢期には不足を避け、毎日の食事で意識して取ることが重要になります[1]。
不足すると「動けない」につながる
食事量が減り、たんぱく質が不足すると、身体は筋肉などに蓄えられたたんぱく質を利用します。その状態が続けば筋肉量が減り、歩く速度が遅くなる、椅子から立ち上がりにくくなる、疲れやすくなるといった変化につながる可能性があります。
動きにくくなると活動量が減り、お腹が空きにくくなります。買い物や料理も負担になり、食事量がさらに減ることがあります。つまり、「食べない→筋肉が減る→動けない→さらに食べられない」という悪循環です。
また、たんぱく質は免疫機能や傷ついた組織の修復にも関わります。低栄養になると、感染症にかかりやすい、傷が治りにくい、病気からの回復に時間がかかるといった問題が起こりやすくなります[2]。
ただし、疲労や筋力低下には病気や薬など多くの原因があるため、症状だけでたんぱく質不足と決めつけることはできません。
たんぱく質だけ取っても十分ではない
筋肉を守るために大切なのは、たんぱく質と同時に、必要なエネルギーを確保することです。主食などから得るエネルギーが不足していると、せっかく取ったたんぱく質が、身体をつくる材料ではなくエネルギー源として使われやすくなります。
「ごはんは太るから」と主食を極端に減らし、おかずだけを食べる方法が、高齢者全員に適しているわけではありません。反対に、ごはんや麺だけで食事を済ませれば、エネルギーは取れてもたんぱく質が不足しやすくなります。主食と主菜を組み合わせることが基本です。
さらに、筋肉への刺激となる身体活動も必要です。食べずに運動だけを頑張るのではなく、食事を整えたうえで、歩行や筋力運動など、その人に合った活動を続ける。「食べる→動く」の組み合わせが、筋肉を守る力になります。
一日にどのくらい必要なのか
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、65歳以上のたんぱく質の推奨量は、男性で1日60g、女性で1日50gとされています。また、総摂取エネルギーに占めるたんぱく質の目標量は、65歳以上で15~20%です[3]。
ただし、これらは健康な人を対象とした集団の基準であり、すべての高齢者にそのまま当てはめる数字ではありません。必要量は、体格、活動量、栄養状態、病気、けが、手術後などの状況によって変わります。
欧州臨床栄養代謝学会の高齢者向け指針でも、少なくとも体重1kg当たり1日1gを一つの目安としながら、栄養状態、活動量、病気、耐容性に応じて個別に調整するよう示しています[4]。
数字だけを追うよりも、体重が減っていないか、食事量が落ちていないか、筋力や活動量が変化していないかを併せて見ることが大切です。
夕食だけでなく、毎食少しずつ
夕食には魚や肉を食べていても、朝食はパンとコーヒー、昼食はうどんだけという人は少なくありません。これでは一日分のたんぱく質が夕食に偏ります。
たんぱく質を含む食品を毎食取り入れることが勧められます[1]。朝なら卵、牛乳、ヨーグルト、チーズ、納豆、豆腐など、調理の負担が少ない食品もあります。昼の麺類には卵、肉、魚、大豆製品などを加えると補いやすくなります。
肉だけに頼る必要はありません。魚、卵、牛乳・乳製品、大豆製品などを組み合わせれば、好みや噛む力に合わせて選択できます。特定の食品だけを大量に食べるより、いろいろな食品から取るほうが、ほかの栄養素も補いやすくなります。
「多ければ多いほどよい」わけではない
たんぱく質は重要ですが、増やせば増やすほど健康になるわけではありません。特に腎機能が低下している人では、病気の段階や治療内容によって、たんぱく質の量を調整する必要があります。糖尿病や心不全などがある人も、塩分やエネルギーを含めて全体を考えなければなりません。
治療のために食事指導を受けている場合は、自己判断で制限をやめたり、たんぱく質食品や栄養補助食品を増やしたりせず、主治医や管理栄養士に相談してください。
一方、過去に受けた制限を必要以上に続け、体重や筋肉が減っている場合もあります。現在の身体の状態に合った内容か、定期的に見直すことが大切です。
まず「食べられない原因」を確認する
たんぱく質が足りないからと、肉やプロテインを勧めるだけでは解決しないことがあります。噛めない、むせる、食欲がない、味がしない、胃がもたれる、買い物に行けないなどの原因があれば、先にその問題へ対応する必要があります。
意図しない体重減少、急な食欲低下、強いだるさ、繰り返す発熱、むせ、吐き気や下痢などがある場合は、低栄養の背景に病気が隠れていないか、医療機関へ相談してください。
高齢期のたんぱく質は、筋肉を大きくするためだけのものではありません。歩く力、回復する力、そして日常生活を続ける力を支える材料です。
毎日の食事で不足を防ぎ、必要なエネルギーと活動を組み合わせることが、高齢期の身体を守る基本になります。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」
[2]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の低栄養」
[3]厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)たんぱく質」
[4]Volkert D, et al. “ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics.” Clinical Nutrition. 2022;41(4):958-989.
初回公開日
2026年9月14日
最終更新日
2026年9月14日
「高齢者の低栄養予防」についてお気軽にお問い合わせください!
・低栄養のチェックやアドバイスを行ってくれる薬局について聞きたい
・配食サービスについて教えてほしい
・健康支援型配食サービスを導入したい
・低栄養予防事業を健康増進支援薬局の一環として進めたい
・栄養ケア支援システムについて話を聞いたみたい
・フレイルケア食(たんぱく補助・食欲増進等)の販売について相談したい。
・低栄養予防事業を自治体として進めたい(自治体に提案したい)
・高齢者施設や通所施設において、栄養ケアの取り組みを進めたい
・退院後の栄養ケアを実施している薬局を教えてほしい
・高齢者向けフレイルケア食の開発や販売を拡大したい
・事業連携や情報交換・意見交換をしたい 他