『高齢者の低栄養を知る100の話㉒』
若い頃から「食べすぎないように」「太らないように」と言われてきた人ほど、高齢になっても食事を減らすことが健康によいと考えがちです。しかし、高齢期には過剰摂取だけでなく、食べる量が知らないうちに減り、必要なエネルギーや栄養素が不足することにも注意が必要です。
高齢者にとっての「しっかり食べる」とは、無理に大盛りを食べることではありません。その人の身体や活動量、病気の状態に合ったエネルギーと栄養素を、日々の食事から確保することです。高齢期の食事は、単に体重を増減させるためのものではなく、筋肉、体力、免疫機能、そして自分らしい暮らしを支える土台になります。
高齢になると、食べる量が減りやすい
年齢を重ねると、若い頃より活動量が減り、空腹を感じにくくなることがあります。味やにおいを感じにくい、歯や義歯の問題で噛みにくい、飲み込みにくい、胃もたれや便秘があるといった変化も食欲に影響します。
さらに、病気、薬の副作用、痛み、気分の落ち込み、認知機能の変化、買い物や調理の負担、孤食などが重なると、食事量は少しずつ減っていきます。厚生労働省も、口腔機能や嚥下機能、服薬、独居や行動範囲の縮小などを、高齢者が低栄養になる要因として挙げています[1]。
本人は「普通に食べている」と思っていても、茶碗が小さくなり、おかずの品数が減り、肉や魚を食べる回数が少なくなっていることがあります。このような小さな変化は、毎日の生活の中では気づきにくいものです。
食べないと、筋肉まで減ってしまう
食事から得られるエネルギーが不足すると、身体は蓄えている脂肪だけでなく、筋肉を分解してエネルギーを補おうとします。たんぱく質の摂取が不足すれば、筋肉を維持するための材料も足りなくなります。
筋肉が減ると、歩く、立ち上がる、買い物へ行く、料理をするといった日常の動作が難しくなります。活動量が落ちれば空腹を感じにくくなり、さらに食事量が減ることがあります。こうして「食べない→筋肉が減る→動かない→さらに食べられない」という悪循環が生まれます。
低栄養は、体重や筋肉量の減少だけでなく、疲れやすさ、感染症にかかりやすい、傷が治りにくいといった状態にも関係します[2]。病気やけがをしたときには、身体の回復に普段以上のエネルギーや栄養が必要になる場合もあります。
「しっかり食べる」は、量だけの話ではない
食事量が多ければ、それだけで十分とは限りません。菓子パンだけ、麺だけ、お茶漬けだけという食事では、お腹は満たされても、身体をつくる栄養素が不足することがあります。
基本になるのは、次の三つを組み合わせることです。
- ごはん、パン、麺などの「主食」
- 肉、魚、卵、大豆製品などの「主菜」
- 野菜、きのこ、海藻などを使った「副菜」
主食は、身体を動かすためのエネルギー源です。主菜は、筋肉や血液などの材料となるたんぱく質を補います。副菜は、身体の調子を整えるビタミン、ミネラル、食物繊維などを取る助けになります。乳製品や果物も、その人の食事量や健康状態に応じて取り入れます。
厚生労働省は、高齢期にはエネルギーをはじめ、多くの栄養素や食品群の摂取量が低下する傾向があり、食品の多様性に目を向ける必要があるとしています[3]。「何か一つの食品をたくさん食べればよい」のではなく、食べられる範囲でいろいろな食品を組み合わせることが大切です。
3食すべてを完璧にしなくてよい
毎食、理想的な献立をそろえようとすると、本人にも家族にも負担がかかります。朝食がパンと飲み物だけなら卵やヨーグルトを加える、昼食がうどんなら鶏肉や油揚げをのせるなど、一日の中で不足を補う考え方でも構いません。
一度にたくさん食べられない場合は、3食にこだわって無理をするより、間食を使って食べる回数を増やす方法があります。ただし、食欲低下の原因によって適切な対応は異なります。食べやすい工夫や間食の具体例は、今後の記事で詳しく扱います。
大切なのは、食べ残した本人を責めないことです。「もっと食べて」と繰り返すだけでは、食事が苦痛になることがあります。「噛みにくい?」「味がしない?」「すぐお腹いっぱいになる?」と尋ね、食べられない理由を探します。
高齢期は「痩せれば健康」とは限らない
肥満や生活習慣病への対策が必要な人はいます。しかし、高齢者では体重だけを見て一律に食事を減らすと、脂肪とともに筋肉まで失う可能性があります。もともと体格が大きい人でも、意図しない体重減少、食事量の低下、筋肉量の減少があれば、低栄養のリスクを考える必要があります。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、エネルギー摂取の過不足を評価する際、体重やBMI、体重・体組成の変化を把握することの重要性が示されています[4]。
糖尿病、腎臓病、心不全などで食事療法を受けている人は、自己判断で制限をやめたり、反対に厳しくしたりしないでください。年齢、病状、体重減少、筋肉量、食事量を踏まえ、現在も同じ制限が必要かを主治医や管理栄養士に確認することが大切です。
「食べる→動く」で身体を守る
筋肉を守るには運動も必要ですが、栄養が不足したまま運動だけを増やせば、身体に負担がかかることがあります。まず食べられる状態を整え、必要なエネルギーとたんぱく質を確保し、そのうえで散歩や筋力運動など、その人に合った活動へつなげます。
体重が減り続ける、食事量が急に減った、むせる、吐き気や下痢が続く、発熱や息切れがある、強いだるさがある場合は、「栄養をつければよい」と家庭だけで対応せず、医療機関へ相談してください。低栄養の背景に、治療が必要な病気が隠れていることもあります。
高齢者にとって食事は、単なる楽しみでも、空腹を満たすだけのものでもありません。歩く力、病気から回復する力、外出や交流を続ける力を支えています。
目指すのは、無理にたくさん食べることではなく、「今の身体に必要なものを、食べられる方法で確保すること」です。それが、高齢期の「しっかり食べる」という意味です。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書」
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」
[3]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の低栄養」
[4]厚生労働省「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関する資料」
初回公開日
2026年9月11日
最終更新日
2026年9月11日
「高齢者の低栄養予防」についてお気軽にお問い合わせください!
・低栄養のチェックやアドバイスを行ってくれる薬局について聞きたい
・配食サービスについて教えてほしい
・健康支援型配食サービスを導入したい
・低栄養予防事業を健康増進支援薬局の一環として進めたい
・栄養ケア支援システムについて話を聞いたみたい
・フレイルケア食(たんぱく補助・食欲増進等)の販売について相談したい。
・低栄養予防事業を自治体として進めたい(自治体に提案したい)
・高齢者施設や通所施設において、栄養ケアの取り組みを進めたい
・退院後の栄養ケアを実施している薬局を教えてほしい
・高齢者向けフレイルケア食の開発や販売を拡大したい
・事業連携や情報交換・意見交換をしたい 他