『高齢者の低栄養を知る100の話㉚』
低栄養予防というと、「何を、どのくらい食べるか」に目が向きます。もちろん、エネルギーやたんぱく質を確保することは大切です。しかし、高齢者の食事量は、献立だけでなく、誰と、どのような雰囲気で食べるかにも影響されます。
一人で食べる「孤食」が続くと、食事を簡単に済ませる、同じ物ばかり食べる、食事を抜くといった変化が起こることがあります。
ただし、一人で食べること自体を悪いと決めつける必要はありません。一人の食事を好み、食事量も生活リズムも保たれている人はいます。見るべきなのは、孤食によって食事や暮らしに変化が生じていないかです。
誰かと食べると食事が整いやすい
誰かと食卓を囲むと、「今日はこれも食べよう」「この料理がおいしい」と会話が生まれ、食欲が刺激されることがあります。食事の時間が決まりやすく、料理の品数が増える人もいます。
農林水産省の調査では、孤食がほとんどない人は、孤食が週2日以上ある人より、主食・主菜・副菜をそろえて食べる割合や、朝食を食べる割合が高い傾向にありました[1]。
また、国内外の研究から、共食の頻度が高い人は、食生活や心理的な健康状態が良好な傾向にあることが報告されています[2]。
ただし、これらは主に関連を示した結果です。「一緒に食べれば必ず低栄養を防げる」と断定できるわけではありません。健康状態がよく外出できる人ほど、誰かと食べる機会が多い可能性もあります。それでも、食事と人とのつながりを一緒に考える視点は重要です。
共食には「気づく」という役割もある
家族や知人と食べると、「以前より残すようになった」「肉を避けている」「むせが増えた」「箸が進まない」といった変化に、周囲が気づきやすくなります。
本人が「ちゃんと食べている」と思っていても、一緒に食べることで、実際の量や食べにくい食品が分かることがあります。食後に薬を飲めているか、買い物や調理に困っていないかを自然に確認できることもあります。
つまり、共食には栄養を取るだけでなく、小さな変化を見つけ、必要な支援へつなぐ見守りの役割があります。
一人暮らしだけが「孤食」ではない
孤食は、一人暮らしの人だけの問題ではありません。家族と同居していても、生活時間が違う、食べる場所が別、介護する側が忙しいといった理由で、毎食一人になることがあります。
日本の地域高齢者を対象とした研究でも、同居者がいても一人で食べる人がおり、栄養状態や心理状態との関連が報告されています[3]。
反対に、一人暮らしでも、友人との会食、地域の集まり、通いの場、デイサービスなどを利用し、定期的に誰かと食べている人もいます。住まい方だけで判断せず、実際に誰かと食べる機会があるかを確認します。
毎食一緒でなくてもよい
共食を増やすために、家族が毎日訪問する必要はありません。本人と家族の負担にならない方法を考えます。
- 週に一度だけ家族や友人と食べる
- 家族の訪問時間を食事に合わせる
- 地域の会食会や通いの場を利用する
- デイサービスなどの昼食機会を生かす
- 同じ時間に電話やビデオ通話をつなぐ
- 配食を、安否や食事量を確認する機会にもする
画面越しの食事は、同じ食卓に座ることと全く同じではありません。それでも、食事の時間を約束し、献立について話すことが、生活のリズムや楽しみにつながる場合があります。遠方の家族にも取り入れやすい方法です。
地域の食事会も、豪華な料理を提供することだけが目的ではありません。外出するきっかけ、人と話す機会、食事の変化に気づく場として意味があります。
「もっと食べて」と監視しない
一緒に食べることが大切でも、食べた量を細かく監視したり、「残してはいけない」と責めたりすると、食事が苦痛になることがあります。「何なら食べやすい?」「味はどう?」と聞き、本人の好みや体調を尊重します。
食事中にむせる人は、会話しながら無理に食べると危険な場合があります。口の中の物を飲み込んでから話す、落ち着いて食べられる席を選ぶなど、安全を優先してください。むせ、食後の声の変化、発熱を繰り返す場合は、医療機関や歯科へ相談します。
食事と社会参加を一緒に支える
孤食の背景には、配偶者との死別、体力低下、交通手段の不足、経済的な問題、聴力低下、気分の落ち込みなどが隠れていることがあります。厚生労働省も、独居や行動範囲の縮小、精神的ストレスなどが、欠食や食物摂取不足につながる可能性を挙げています[4]。
食事内容を直すだけでなく、なぜ一人で食べるようになったのかを確認することが大切です。体重減少や食欲低下に加え、外出や会話が急に減った、身だしなみが変わった、気分の落ち込みが続く場合は、かかりつけ医や地域包括支援センターなどへ相談してください。
低栄養予防は、栄養素だけの問題ではありません。食卓を人とのつながりが生まれる場所にすることで、食べる量や楽しみを支え、小さな変化にも気づきやすくなります。
毎食でなくても構いません。無理のない範囲で誰かと食べる機会をつくり、食べることを外出や交流、活動へつなげていきましょう。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」
[2]農林水産省「一日の全ての食事を一人で食べている『孤食』の状況」
[3]農林水産省「食育の推進に役立つエビデンス―共食をするとどんな良いことがあるの?」
[4]Tani Y, et al. “Eating Alone Yet Living With Others Is Associated With Being Underweight and With Poor Dietary Intake Among Older Japanese Adults.” Journal of Nutrition, Health & Aging. 2018;22:391–395.
初回公開日
2026年9月16日
最終更新日
2026年9月16日
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