35.病気になると、なぜ低栄養になりやすいのか

「病気になって、食欲が落ちたから痩せた」。

この説明は間違いではありません。しかし、病気と低栄養の関係は、食べる量が減るだけでは説明できません。

病気になると、身体は治療や回復のために普段より多くのエネルギーやたんぱく質を必要とすることがあります。一方で、食欲低下、吐き気、痛み、息苦しさなどによって、実際に取れる栄養は減りやすくなります。

つまり、「必要な量は増えているのに、食べられる量は減る」というずれが生まれます。さらに、炎症によって筋肉が分解されやすくなると、低栄養は一段と進みます。

病気と低栄養を結ぶ五つの経路

病気になると低栄養になりやすい理由は、大きく五つに分けて考えられます。

1.食欲や食事量が低下する

発熱、痛み、吐き気、腹部の張り、息苦しさ、強いだるさなどがあれば、食べる意欲は低下します。

肺や心臓の病気がある人は、食事中に息苦しくなることがあります。食べ物を噛み、飲み込みながら呼吸することが負担になり、少量で食事を終えてしまうのです。

がんや感染症などでは、味やにおいの感じ方が変わることもあります。脳卒中や神経の病気では、食べ物を口へ運ぶ、噛む、飲み込むといった動作が難しくなる場合があります。

入院による環境の変化、睡眠不足、不安、気分の落ち込みも食欲に影響します。「病院の食事が口に合わない」という単純な問題に見えても、痛み、薬、口腔機能、心理状態などが重なっていることがあります。

2.消化や吸収がうまくいかなくなる

食べていても、必要な栄養を十分に取り込めないことがあります。

胃や腸、膵臓、肝臓などの病気では、食べ物の消化や栄養素の吸収が低下する場合があります。慢性的な下痢や嘔吐が続けば、水分だけでなく、エネルギーや栄養素も失われます。

胃や腸の手術後には、一度に食べられる量が減ったり、食後に不快な症状が出たりすることがあります。口から食べた量だけを見て「十分食べている」と判断せず、便の状態、体重、筋肉量なども確認する必要があります。

3.身体が普段より多くの栄養を必要とする

発熱、感染症、手術、骨折、けがなどから回復するとき、身体は傷ついた組織を修復し、免疫機能を働かせるためにエネルギーやたんぱく質を使います。

寝ている時間が長いため、「動いていないから、それほど食べなくてもよい」と思うかもしれません。しかし、身体の中では病気や傷から回復するための反応が続いています。

褥瘡がある場合も、皮膚や組織の修復に栄養が必要です。食事量が以前より減っている状態では、病気に対応するための需要を満たせず、身体に蓄えていた脂肪や筋肉が使われやすくなります。

4.炎症によって筋肉が分解される

低栄養は、単に「食べなかった結果」とは限りません。感染症、がん、心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病、関節リウマチなど、炎症を伴う病気では、身体の代謝そのものが変化します。

炎症が強くなると、身体は病気と闘うための反応を優先し、筋肉などに蓄えられたたんぱく質を分解して利用しようとします。食事を取っていても筋肉を保ちにくくなり、体重と筋肉量が減ることがあります。

成人の低栄養診断に用いられるGLIM基準でも、「食事摂取量の減少または消化吸収能の低下」と並び、「疾患による負荷または炎症」が低栄養の原因を判断する項目に含まれています[1]。

慢性的な炎症によって、食事だけでは体重や筋肉量を戻しにくい状態を生じることがあります。がんなどで見られる「悪液質」はその代表例です。このような場合は、単に「もっと食べればよい」と本人へ求めるだけでは不十分です。

5.治療や安静が食べる力を弱らせる

手術、放射線治療、抗がん薬などの治療によって、吐き気、口内炎、味覚の変化、下痢、強い疲労などが起こることがあります。第34回で扱ったように、治療薬の副作用や薬物有害事象が食事量を減らす場合もあります。

また、入院や病気によって身体を動かさない期間が続くと、筋肉量と筋力が低下します。特に高齢者は、短期間の安静でも、それまでできていた歩行、買い物、調理、食事動作が難しくなることがあります。

活動量が落ちれば空腹を感じにくくなり、食事量がさらに減ります。食べないことで筋肉が減り、動けないことで食欲が落ちるという悪循環が生まれます。

低栄養になると病気から回復しにくくなる

病気が低栄養を招くだけでなく、低栄養も病気の経過に影響します。

エネルギーやたんぱく質が不足すると、筋肉量や筋力が低下します。立つ、歩く、咳をする、呼吸する、飲み込むといった働きにも筋肉が必要です。

免疫機能や傷を治す力にも影響するため、感染症、褥瘡、術後の合併症などのリスクが高まる可能性があります。リハビリテーションを行っても、身体をつくる材料が不足していれば、十分な効果を得にくくなります。

その結果、回復が遅れる、入院が長引く、退院後に再び体調を崩すといった問題につながります。GLIM基準を紹介する日本栄養治療学会も、低栄養が治療効果の低下や合併症リスクの増加と密接に関係すると説明しています[1]。

病気と低栄養は、どちらか一方だけの問題ではありません。

病気になる
→ 食べられない・筋肉が分解される
→ 低栄養になる
→ 筋力や免疫機能が低下する
→ 病気から回復しにくくなる

という循環をつくらないことが重要です。

病気の治療と栄養への対応は同時に行う

低栄養が疑われたときに、「栄養のある物を食べさせればよい」と考えるだけでは十分ではありません。

食べられない原因が感染症、心不全、消化器疾患、がん、うつ状態、薬の影響などであれば、その原因への治療や対応が必要です。同時に、現在の食事量で必要なエネルギーとたんぱく質を確保できているかを評価します。

食事量が少ない場合は、一度に無理をさせず、少量でもエネルギーやたんぱく質を取りやすい食事、間食、栄養補助食品などを検討します。噛む・飲み込む力に問題があれば、食形態や姿勢の調整も必要です。

ただし、心不全、腎臓病、糖尿病などで食事療法を受けている人は、自己判断で塩分、水分、たんぱく質などの制限を変更しないでください。病状と低栄養リスクの両方を踏まえ、医師や管理栄養士と調整することが大切です。

体重だけでなく「食べた量」と「動ける力」を見る

病気になった後は、次のような変化を確認します。

  • 一週間前、一か月前と比べて食事量が減っていないか
  • 意図せず体重が減っていないか
  • 肉、魚、卵、乳製品などを食べられているか
  • 下痢、嘔吐、発熱、痛み、むせが続いていないか
  • 立つ、歩く、買い物をする力が落ちていないか
  • 治療や薬が変わった後に食べにくくなっていないか

むくみがある人では、身体の水分が増えるため、筋肉が減っていても体重が減らないことがあります。「体重が変わらないから大丈夫」とは限りません。衣服が緩くなった、脚や腕が細くなった、握力が弱くなったといった変化にも注意します。

食事や水分をほとんど取れない、急速に体重が減る、意識がぼんやりする、強い息苦しさや痛みがある場合は、早めの医療相談が必要です。

病気になったとき、栄養は治療が終わってから考える付け足しではありません。病気を治し、再び動ける身体を取り戻すための治療の一部です。

原因となる病気へ対応しながら、食べる量、体重、筋肉、活動の変化を早く捉える。それが、病気をきっかけとした低栄養の悪循環を防ぐことにつながります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]Cederholm T, et al. “ESPEN guidelines on definitions and terminology of clinical nutrition.” Clinical Nutrition. 2017;36(1):49–64.
[2]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[3]日本栄養治療学会「GLIM よくあるご質問」
[4]World Health Organization Regional Office for Europe「Disease-related malnutrition: a time for action」

初回公開日
2026年9月18日

最終更新日
2026年9月18日