34.薬を飲み始めて食欲が落ちた?薬と低栄養の意外な関係

「新しい薬を飲み始めてから食欲がない」「薬が増えてから、食事を残すようになった」。

このような変化があっても、本人や家族は「病気のせい」「歳のせい」と考え、薬との関係には気づかないことがあります。

薬は病気の治療や症状の改善に欠かせません。一方で、薬によって生じる吐き気、口の乾燥、便秘、眠気などが、食べる量の減少につながることがあります。

ただし、食欲低下の原因が薬とは限りません。病気の発症や悪化が隠れていることもあります。大切なのは自己判断で薬をやめることではなく、「薬を始めた時期」と「食事や体調が変化した時期」を確認し、医師や薬剤師へ伝えることです。

薬は直接食欲を落とすとは限らない

薬と低栄養の関係は、「薬を飲んだら空腹を感じなくなった」という直接的なものだけではありません。

次のような症状を通じて、間接的に食べられなくなることがあります。

吐き気、胃もたれ、腹部不快感

一部の鎮痛薬、糖尿病治療薬、認知症治療薬、抗うつ薬などでは、吐き気、胃の不快感、下痢などが現れることがあります。

食後に薬を飲むたびに吐き気などが起こると、本人が「食事をすると、また薬を飲まなければならない」と考え、食事そのものを避けるようになる場合があります。

口の乾燥、味やにおいの変化

一部の抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗ヒスタミン薬、過活動膀胱治療薬などでは、口が乾くことがあります。

唾液が減ると、食べ物をまとめにくい、飲み込みにくい、口の中が痛い、味を感じにくいといった問題が起こります。薬によって味やにおいの感じ方が変わり、「何を食べてもおいしくない」と感じる人もいます。

便秘や下痢

一部の痛み止め、抗コリン作用のある薬、鉄剤などは便秘に、抗菌薬、下剤、糖尿病治療薬などは下痢に関係することがあります。

腹部の張りや便秘が続けば空腹を感じにくくなり、下痢が続けば食事を取ることが不安になります。

眠気、ふらつき、だるさ

睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、てんかん治療薬などでは、眠気やふらつきが現れることがあります。

食事時間に眠っている、姿勢を保てない、買い物や調理ができないといった変化が起これば、食事量も減ります。飲み込む力が低下している人では、眠気の強い状態で食べることが安全面の問題になる場合もあります。

脱水や低血糖

利尿薬の使用中は、食事や水分の摂取状況によって脱水や電解質の異常に注意が必要な場合があります。

糖尿病治療薬を使用している人が、以前と同じ量の薬を使いながら食事量だけ減らすと、低血糖を起こすことがあります。冷や汗、震え、動悸だけでなく、高齢者ではぼんやりする、元気がない、転ぶといった形で現れることもあります。

これらはあくまで代表例です。同じ種類の薬でも、症状の出方には個人差があります。薬の名前だけで原因を決めつけず、服用時期、症状、食事量、体重などを合わせて確認する必要があります。

「副作用」と「薬物有害事象」は少し違う

薬を使用した後に起きた好ましくない症状を、広く「薬物有害事象」と呼びます。この段階では、薬が本当の原因かどうかはまだ確定していません。

その中で、薬との因果関係が疑われる、または否定できないものが「副作用」です[1]。

たとえば、新しい薬を飲み始めた後に食欲が落ちても、薬の副作用とは限りません。同じ時期に感染症や消化器の病気が始まった可能性もあります。

そのため、「薬のせいだ」と自己判断して中止することも、「高齢だから仕方がない」と放置することも避けなければなりません。医師や薬剤師が経過を確認し、薬の必要性、用量、組み合わせ、他の病気の可能性を検討します。

薬が多いこととポリファーマシーは同じではない

複数の病気があれば、治療に多くの薬が必要なことがあります。薬が多いだけで、すぐに問題とはいえません。

「ポリファーマシー」とは、単に薬の数が多い状態ではなく、多剤服用に関連して副作用や薬物有害事象が増える、薬を間違える、必要な薬を飲めない、同じ作用の薬が重なるなど、何らかの問題が生じている状態です[1]。

何剤からポリファーマシーになるという厳密な基準はありません。厚生労働省の指針では、六種類以上で薬物有害事象が増えたというデータが紹介されていますが、六種類以上でもすべて必要な人はいます。反対に、三種類でも組み合わせや身体の状態によって問題が起こる場合があります。

重要なのは数だけでなく、「今の身体と生活に合っているか」です。

症状を抑える薬が、さらに増えていくこともある

薬による症状が別の病気や加齢による変化と判断され、その症状を抑えるために新しい薬が追加されることがあります。これを「処方カスケード」と呼びます。

たとえば、薬によって便秘やふらつきが生じ、その原因を確認しないまま、便秘薬やめまいの薬が追加されるような場合です。

薬が増えるほど、薬同士の影響や服用方法が複雑になり、どの薬がどの症状に関係しているのか分かりにくくなります。

処方を見直す目的は、単に薬の数を減らすことではありません。必要な薬を残し、不要になった薬、効果が不明な薬、重複している薬、現在の身体状態に合わなくなった薬がないかを確認し、治療全体を安全にすることです。

低栄養になると薬の影響が変わる

薬が低栄養の原因になるだけではありません。低栄養によって、薬の効き方や身体への影響が変わることもあります。

体重や筋肉量が減る、脱水になる、肝臓や腎臓の機能が低下する、血液中のたんぱく質が減るといった変化によって、一部の薬が体内に残りやすくなったり、作用が強く現れたりする可能性があります。

以前から同じ薬を同じ量で飲んでいても、痩せた後には身体に合わなくなることがあるのです。

「薬は変わっていないから関係ない」と考えず、体重減少、食事量の低下、脱水、入院後の体力低下などがあれば、薬の量や種類についても確認してもらいましょう。

すべての薬を一か所で把握してもらう

複数の病院や診療科に通っていると、それぞれの医師が、ほかの医療機関から処方された薬を十分に把握できないことがあります。市販薬、漢方薬、サプリメント、健康食品も、処方薬の作用に影響する場合があります。

そこで役立つのが、日頃から利用する「かかりつけ薬局」や「かかりつけ薬剤師」です。

すべての処方箋をできるだけ同じ薬局へ持参し、お薬手帳も一冊にまとめると、同じ作用の薬の重複、飲み合わせ、用量、飲み残しなどを確認しやすくなります。市販薬やサプリメントも、お薬手帳へ記録するか、現物や写真を見せてください。

厚生労働省も、かかりつけ薬剤師・薬局の役割として、服薬情報を一元的・継続的に把握し、医療機関と連携することを挙げています[2]。

薬局で伝えてほしい六つの情報

薬剤師に相談するときは、薬の名前だけでなく、次の情報を伝えます。

  1. 食欲や食事量が変わった時期
  2. 新しく始まった薬や、量が変わった薬
  3. 吐き気、口の乾燥、便秘、下痢、眠気、むせなどの症状
  4. 現在の体重と、以前からの体重変化
  5. 実際に飲んでいる市販薬、サプリメント、健康食品
  6. 飲めていない薬、余っている薬、飲み方が難しい薬

薬剤師は、症状と薬の関係を確認し、必要に応じて処方した医師へ情報を伝えます。薬の減量、中止、変更を決めるのは、原則として医師と相談したうえで行います。

薬は治療のために必要なものです。しかし、食欲低下や体重減少を見過ごせば、薬を続けるための身体そのものが弱ってしまいます。

「最近、食べられていますか」「体重は減っていませんか」という確認は、栄養だけでなく、薬が現在の身体に合っているかを確かめる質問でもあります。

薬を安全に続けるためにも、食事と体重の変化を、医師や薬剤師へ早めに伝えましょう。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]独立行政法人医薬品医療機器総合機構「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」
[2]厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」
[3]厚生労働省「身近な健康の相談役『かかりつけ薬剤師・薬局』を持ちましょう」
[4]厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン 第2版」

初回公開日
2026年9月17日

最終更新日
2026年9月17日