33.歯と栄養はつながっている――オーラルフレイルと低栄養

「最近、硬い物を食べなくなった」「会話中に聞き返されることが増えた」「口が乾いて食べにくい」。

こうした変化は、一つひとつは小さく、本人も家族も「歳のせい」と考えがちです。しかし、複数の変化が重なると、食べられる食品が減り、食事量や食品の多様性が低下して、低栄養につながることがあります。

このような口のささいな衰えに早く気づくための考え方が「オーラルフレイル」です。

オーラルフレイルとは何か

2024年に日本老年医学会、日本老年歯科医学会、日本サルコペニア・フレイル学会が公表した合同ステートメントでは、オーラルフレイルは、口の機能が健常な状態と、明らかに機能が低下した状態との間に位置づけられています。

歯を失う、硬い物を噛みにくくなる、むせる、口が乾く、滑舌が悪くなるなど、食べることや話すことに関わる「軽微な衰え」が重なった状態です。進行すると口の機能低下につながる危険性がありますが、早い段階で対応すれば改善できる可能性があります[1]。

オーラルフレイルは、単に歯の病気を表す言葉ではありません。食事、会話、外出、人との交流を含めた、口を中心とする生活全体の変化を捉える考え方です。

歯の本数だけでは判断できない

自分の歯を多く残すことは大切です。しかし、「歯が20本以上あるから問題ない」「入れ歯が入っているから噛める」とは限りません。

歯が残っていても、歯周病でぐらつく、噛むと痛い、噛み合わせが悪い、舌や頬をうまく動かせない、唾液が少ないといった問題があれば、十分に噛めないことがあります。

反対に、歯を失っていても、自分に合った義歯を使い、必要な食品を無理なく食べられている人もいます。

見るべきなのは歯の本数だけではなく、「実際に何を食べられているか」です。以前は食べていた肉や生野菜、漬物などを避けるようになった、食事時間が長くなった、食べこぼしが増えたといった変化が重要な手がかりになります。

口の衰えが食事の偏りを生む

噛みにくくなると、硬い物や繊維の多い食品を避けやすくなります。その結果、肉、魚、野菜、豆類、海藻、果物などが減り、ごはん、麺、パン、粥など、軟らかく食べやすい物に偏ることがあります。

東京都健康長寿医療センター研究所の調査でも、咀嚼機能が良くない高齢者は、たんぱく質、カルシウム、ビタミンなどの栄養素や、肉類、魚介類、豆類、野菜などの摂取量が少ないことが報告されています[2]。

食べる量が大きく変わっていなくても、食品の種類が減れば、身体をつくるために必要な栄養素が不足する可能性があります。特に、たんぱく質やエネルギーが不足すると筋肉が減り、全身の筋力だけでなく、噛む、舌を動かす、飲み込むために使う筋肉も弱りやすくなります。

つまり、口の衰えによって食べられなくなり、低栄養によってさらに口の機能が低下するという、双方向の悪循環が起こるのです。

会話や外出の減少にも注意する

滑舌が悪くなったり、人前でむせたり、入れ歯が気になったりすると、会話や会食を避ける人がいます。外出や人との交流が減れば、口を動かす機会も減ります。

一人で食事を簡単に済ませる、買い物の回数が減る、同じ食品ばかり選ぶといった変化が重なると、食事量や食品の多様性がさらに低下する可能性があります。

オーラルフレイルは、口だけに閉じた問題ではありません。身体的な衰えだけでなく、孤立や気分の落ち込みなど、社会的・心理的な問題とも関わります。

家族は、食べ残しだけでなく、以前より話さなくなった、人と食べるのを避けるようになった、外出しなくなったといった生活の変化にも目を向けてください。

五つの項目で確認する「OF-5」

オーラルフレイルは、検査機器を使わずに「OF-5」という五つの項目で確認できます[1]。

  1. 自分の歯が0~19本である
  2. 半年前と比べて、硬い物が食べにくくなった
  3. お茶や汁物などでむせることがある
  4. 口の渇きが気になる
  5. 普段の会話で、言葉をはっきり発音できないことがある

五項目のうち二項目以上に該当すると、オーラルフレイルに該当します。

これは病気を確定する診断ではなく、口の衰えに気づき、相談につなげるためのチェックです。該当した場合や、食事量・体重の減少がある場合は、歯科医師などに相談しましょう。

口の体操だけで済ませない

オーラルフレイル対策というと、「パ・タ・カ・ラ」と発音する運動や、舌、唇、頬を動かす体操がよく紹介されます。口を動かす機会を増やすことは大切ですが、体操だけですべて解決するわけではありません。

虫歯、歯周病、義歯の不具合、口内炎、口の乾燥などがあれば、まず原因に応じた治療や調整が必要です。薬の影響で口が乾くこともあるため、新しい薬を始めてから変化が生じた場合は、自己判断で中止せず、医師や薬剤師へ相談します。

噛みにくい間は、肉の筋を切る、野菜を繊維に沿わず切る、煮る、蒸す、あんやソースでまとめるなど、食べやすくする工夫ができます。少量しか食べられない場合は、卵、豆腐、乳製品、魚、ひき肉などを使い、少ない量でもエネルギーとたんぱく質を確保します。

ただし、軟らかい物だけに固定すると、かえって食品の種類が減ることがあります。歯や口の状態を整えながら、「今、食べられる物」と「再び食べられるようにしたい物」の両方を考えることが大切です。

歯科と栄養を別々に考えない

歯科を受診するときは、痛みや入れ歯の状態だけでなく、「以前より肉を食べなくなった」「食事時間が長くなった」「半年で体重が減った」など、食事と体重の変化も伝えます。

一方、医師や管理栄養士へ栄養について相談するときも、噛みにくさ、むせ、口の乾燥、食べにくくなった食品について伝えてください。

口の問題を治療しても、食事量が戻らなければ低栄養は改善しません。反対に、栄養補助食品を追加しても、歯の痛みや義歯の不具合が残っていれば、食べる楽しみや食品の多様性は戻りにくいでしょう。

歯科治療、口腔機能への支援、栄養支援を一緒に進めることが重要です。

むせや発熱を繰り返す、急に飲み込みにくくなった、口の中に強い痛みや腫れがある、食事や水分をほとんど取れない、短期間で体重が減った場合は、早めに医療機関へ相談してください。

オーラルフレイルは、「まだ食べられているから大丈夫」と考えている時期に始まっていることがあります。

硬い物を避ける、口が乾く、滑舌が変わるといった小さな変化を、単なる老化として終わらせないこと。口の状態と食事内容、体重、外出や会話の変化を一緒に見ること。

それが、低栄養を早い段階で防ぎ、いつまでも自分の口で食べ続けるための第一歩です。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「オーラルフレイルと栄養
[2]日本老年歯科医学会「オーラルフレイルを知っていますか?――3学会合同ステートメント・OF-5
[3]東京都健康長寿医療センター研究所「オーラルフレイル・栄養研究
[4]厚生労働省 e-ヘルスネット「口腔機能の健康への影響

初回公開日
2026年9月17日

最終更新日
2026年9月17日