36.退院した高齢者の「その後の食事」を誰が見ているのか

病気の治療が終わり、無事に退院できた。家族にとっても本人にとっても、ほっとする瞬間です。

しかし、退院した時点で、身体が入院前の状態まで回復しているとは限りません。病気による炎症、検査や治療に伴う食事制限、食欲低下、安静によって、体重や筋肉が減ったまま退院する高齢者もいます。

病院では毎日食事が用意され、食べた量を看護師や管理栄養士などが確認できます。ところが自宅へ戻ると、「何を、どのくらい食べているか」を継続して見る人が、急にいなくなることがあります。

退院後の栄養は、本人と家族だけの問題なのでしょうか。

退院できたことと、栄養状態の回復は同じではない

入院の主な目的は、肺炎、骨折、心不全、脳卒中、手術など、入院の原因となった病気やけがを治療することです。

治療によって全身状態が安定し、自宅や施設で生活できると判断されれば退院となります。しかし、食事量、体重、筋肉量、買い物や調理をする力まで、すべて入院前の状態に戻っているとは限りません。

高齢者は、短期間の入院や安静でも筋肉が減りやすくなります。病気による炎症があれば、食事を取っていても筋肉が分解されやすくなります。

入院中に「食事を半分しか食べられない」「栄養補助食品で不足分を補っている」という状態でも、病状が安定すれば退院することはあります。退院は治療の一区切りであって、栄養面での回復の完了を意味するものではありません。

自宅に帰ると食事の条件が変わる

病院で食べられていたからといって、自宅でも同じように食べられるとは限りません。

病院では、決まった時間に、病状や噛む・飲み込む力に合わせた食事が運ばれます。必要に応じて、食事の介助や栄養補助食品も提供されます。

自宅では、食事の前に、買い物、調理、配膳、片づけが必要です。退院後の体力では、店へ行けない、重い物を持てない、長時間立って調理できないことがあります。

「軟らかい食事にしてください」と説明されても、家族が病院と同じ硬さやまとまりやすさを再現できるとは限りません。塩分や水分を控えるよう言われ、何を作ればよいか分からず、食事全体を減らしてしまうこともあります。

一人暮らしであれば、疲れて食事を抜く、パンや麺だけで済ませる可能性もあります。栄養補助食品が必要でも、購入場所や使い方が分からず、退院と同時に中断する場合があります。

退院後に起こるのは、本人の努力不足ではありません。病院で整えられていた食環境が、自宅へ戻った瞬間に大きく変わるのです。

低栄養は再入院と関係している

高齢者の再入院には、もとの病気の重症度、複数の持病、薬、認知機能、生活環境、介護力など、さまざまな要因が関係します。低栄養だけが原因ではありません。

一方で、低栄養のある高齢患者では、退院後の再入院や死亡が多いという関連が、複数の観察研究で報告されています[1][2]。

栄養状態が悪いと、筋力や免疫機能が低下しやすくなります。歩く力が戻らず転倒する、飲み込む力や咳をする力が低下して肺炎を起こす、傷が治りにくい、感染症から回復しにくいといった問題につながる可能性があります。

心不全や慢性呼吸器疾患などでは、食事量の低下や体重減少が、病状悪化の一部として現れていることもあります。逆に、低栄養による筋力低下が、病気と付き合いながら生活する力を奪う場合もあります。

退院後の栄養支援によって、すべての再入院を防げるわけではありません。研究結果にもばらつきがあります。ただし、管理栄養士による継続的な相談、家庭訪問、栄養補助食品などを組み合わせた支援によって、再入院の減少や身体機能・生活の質の改善が示された研究もあります[3][4]。

低栄養は、再入院に関わる多くの要因の中でも、退院前から確認し、退院後も働きかけられる可能性のある課題です。

令和8年度診療報酬改定が示すこと

令和8年度診療報酬改定では、退院直後の患者に対し、入院していた医療機関の管理栄養士が自宅を訪問して栄養・食事指導を行うことを評価する「退院後訪問栄養食事指導料」が新設されました[5]。

これは、病院で栄養管理を行っていても、退院後の暮らしの中で食事が続けられなければ、栄養状態が再び悪化し得るという課題を、制度として捉えたものです。病院で「食べられる」ことと、自宅で「食べ続けられる」ことの間には、大きな差があります。

退院後の再入院には多くの要因があり、栄養ケアが不十分だったことだけで起こるわけではありません。それでも、食事量の低下、体重減少、脱水、飲み込みにくさなどに早く気づき、必要な支援につなげることができれば、防げる悪化や再入院もあります。

再入院は、本人にとっては、体力や生活の自立をさらに失うきっかけになり得ます。家族にとっても、介護や通院の負担が大きくなります。病院にとっては、限られた病床を必要な患者に使い続けるための課題であり、社会全体にとっても医療・介護にかかる費用の増加につながります。

だからこそ退院後の栄養支援は、単に食事の献立を助言するためのものではありません。高齢者が地域で生活を続け、避けられる再入院を減らすための、医療と生活をつなぐ支援です。

必要なのは「栄養情報の申し送り」

退院時には、病名、治療内容、薬の情報などが医療機関へ引き継がれます。栄養についても、少なくとも次の情報を、自宅や施設で支援する人へ伝える必要があります。

  • 入院前、入院中、退院時の体重
  • 入院中に実際に食べていた量
  • 食事の硬さや、とろみの必要性
  • 必要なエネルギー、たんぱく質、水分の目安
  • 控える必要がある食品や栄養素と、その理由
  • 使用していた栄養補助食品
  • 食事介助の方法や注意点
  • 退院後に誰が、いつ栄養状態を確認するか

「栄養指導を受けた」という事実だけでは不十分です。本人や家族が、自宅で実行できる内容になっているかが重要です。

厚生労働省も、医療・介護の報酬制度において、退院・退所時に栄養情報を切れ目なく連携することを評価しています[6]。制度が整えられてきたこと自体、療養場所が変わるときに栄養支援が途切れやすいことを示しています。

退院後の食事は、誰か一人では支えられない

退院後の栄養を見る人は、病院の管理栄養士だけでも、家族だけでもありません。

かかりつけ医や訪問診療医は、病状と食事制限の必要性を確認します。管理栄養士は、自宅で続けられる食事方法を具体化します。訪問看護師は、食事量、脱水、むせ、体調の変化を生活の中で確認できます。

歯科医師や歯科衛生士は、歯、義歯、口腔機能を確認します。薬剤師は、退院後に追加・変更された薬を把握し、吐き気、口の乾燥、便秘、眠気などが食事に影響していないかを見ます。ケアマネジャーは、配食、通所サービス、訪問介護などを組み合わせ、買い物や調理が難しい状態を支援します。

最近では、管理栄養士を配置した薬局や、栄養ケアに取り組む薬局もあります。栄養スクリーニングを実践する薬局であれば、外来で通院している場合には、かかりつけ薬局として定期的に食事量や体重の変化を確認し、低栄養の兆候に早く気づくことができます。

在宅医療を受ける場合にも、薬の管理や服薬状況の確認とあわせて、食欲、食事量、体重、むせなどを確認し、栄養スクリーニングを行う薬局があります。薬による吐き気や口の乾燥、便秘、眠気など、食べることに影響する変化にも気づきやすい立場です。

退院の際には、病院に「退院後の栄養状態を確認してくれる薬局や、栄養相談ができる薬局は地域にあるか」を尋ねてみてください。すでに利用している薬局があれば、退院後の食事や栄養面についても相談したいと伝え、必要な情報を病院からつないでもらうことも大切です。

病院側も、地域に栄養スクリーニングや栄養相談に取り組む薬局があることを把握し、退院支援の連携先の一つとして活用することが望まれます。退院後も定期的に本人と接する薬局は、低栄養の兆候を早く見つけ、必要に応じて医療・介護・栄養の支援へつなぐ、地域の入口になり得ます。

配食サービスや通いの場なども、定期的に高齢者と接する中で、食欲低下や体重減少に気づく入口になり得ます。

大切なのは、「多くの人が関わっているから、誰かが見ているだろう」と考えないことです。関係者が多くても、担当と確認時期が決まっていなければ、実際には誰も栄養状態を追っていないことがあります。

退院前に決めておきたい三つのこと

本人や家族は、退院前に次の三点を確認してください。

  1. 自宅で何を、どのくらい食べればよいのか
  2. 食べられない場合、最初に誰へ相談するのか
  3. 体重と食事量を、誰がいつ確認するのか

退院後は、少なくとも食事量、体重、むせ、便通、活動量を継続して見ます。「三食出している」だけでなく、実際にどのくらい食べたかを確認することが大切です。

以前の半分ほどしか食べない状態が続く、短期間に体重が減る、水分が取れない、むせや発熱を繰り返す、強い息苦しさやむくみがある場合は、予定された次回受診を待たず、医療機関へ相談します。

退院後の高齢者に必要なのは、豪華な食事ではありません。今の身体で食べられる方法を整え、必要な栄養を確保し、その変化を誰かが見続けることです。

病院で行われた栄養ケアを、退院と同時に終わらせない。病院から自宅へ、栄養情報と支援を一緒に引き継ぐ。

それが、退院後の生活を守り、低栄養の進行や防ぐことのできる再入院を減らすための重要な一歩です。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]Sharma Y, et al. “Malnutrition and its association with readmission and death within 7 days and 8–180 days postdischarge in older patients.” BMJ Open. 2017;7:e018443.
[2]Deutz NE, et al. “Readmission and mortality in malnourished, older, hospitalized adults treated with a specialized oral nutritional supplement.” Clinical Nutrition. 2016;35(1):18–26.
[3]Pedersen JL, et al. “Nutritional follow-up after discharge prevents readmission to hospital—A randomized clinical trial.” Journal of Nutrition, Health & Aging. 2017;21:75–82.
[4]Munk T, et al. “A multimodal nutritional intervention after discharge improves quality of life and physical function in older patients.” Clinical Nutrition. 2021.
[5]日本栄養士会「令和8年度診療報酬改定のポイント」
[6]厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について――退所時栄養情報連携加算」

初回公開日
2026年9月18日

最終更新日
2026年9月18日