『高齢者の低栄養を知る100の話㊴』
「食欲はあるし、自分で食事もできる。それなら低栄養の心配はないだろう」。
そう思われる人でも、食材を買いに行けなければ、食生活を保つことはできません。
食べるためには、食欲や噛む力だけでなく、店へ行き、食品を選び、持ち帰る力が必要です。買い物が難しくなることは、低栄養の入り口になるだけでなく、身体機能や認知機能、生活環境が変化したサインでもあります。
店まで歩けるだけでは買い物できない
買い物には、想像以上に多くの力が必要です。
店まで移動し、売り場を歩き、必要な食品を選ぶ。支払いをして、重い荷物を自宅まで運び、冷蔵庫へ片づける。このすべてができて、初めて食材を確保できます。
膝や腰の痛み、息切れ、視力低下、手の力の低下などがあると、途中のどこかで買い物が難しくなります。店へ行くことはできても、牛乳、米、野菜などの重い物を持ち帰れない人もいます。
運転免許の返納、路線バスの減便、近所の商店の閉店など、本人の身体とは別の理由で買い物ができなくなることもあります。
農林水産省は、食料品の購入に不便や苦労を感じる人が、過疎地域だけでなく都市部でも増えていることを「食品アクセス問題」として挙げています[1]。
買える食品が限られると食事が偏る
買い物の回数が減ると、日持ちする米、パン、麺、菓子、インスタント食品などが中心になりやすくなります。
一方で、肉、魚、卵、豆腐、乳製品、野菜、果物など、定期的に買い足す必要がある食品は減りがちです。少ない食材を長く使うため、同じ料理が続くこともあります。
食事を三回取っていても、ごはんと漬物だけ、パンと飲み物だけという状態では、エネルギーやたんぱく質、ビタミン、ミネラルなどが不足する可能性があります。
日本の高齢者を対象とした研究でも、スーパーマーケットまでの距離が長いことと、食品摂取の多様性が低いこととの関連が報告されています[2]。農林水産省も、食品へのアクセスが制限されると、高齢者の食品摂取の多様性が低くなる可能性を指摘しています[3]。
ただし、店から遠いことだけで低栄養になるわけではありません。車を運転できる、家族が買ってくれる、宅配を利用できるなど、代わりの手段があれば食生活を維持できる人もいます。
重要なのは、店までの距離ではなく、必要な食品を継続して手に入れられているかです。
認知機能の変化が隠れていることもある
身体は動いていても、認知機能の低下によって買い物が難しくなることがあります。
何を買うか決められない、同じ物を何度も買う、支払いができない、店内で迷う、食品を冷蔵庫へ入れ忘れるといった変化です。
「買い物に行かなくなった」のではなく、「買い物ができなくなってきた」可能性があります。
冷蔵庫に同じ食品が大量にある、期限切れが増えた、必要な主食やおかずがない、財布に小銭がたまっているといった変化は、本人を責めず、生活全体を確認するきっかけにします。
経済的な理由は見えにくい
買い物に行けない背景には、経済的な問題もあります。
年金や収入が限られるなかで、光熱費、医療費、介護費などを優先し、食費を削っている人もいます。本人は周囲へ心配をかけたくない、恥ずかしいと感じ、「食欲がない」「簡単な物が好き」と説明することがあります。
安い食品を選ぶこと自体が悪いわけではありません。卵、豆腐、納豆、缶詰、冷凍食品など、比較的手頃で栄養を取りやすい食品もあります。
しかし、食事の量そのものを減らしている、必要な食品を買えない状態であれば、個人の工夫だけで解決するのは難しくなります。地域包括支援センター、自治体の相談窓口、社会福祉協議会などへ相談することも必要です。
宅配を頼めば解決するとは限らない
ネットスーパー、移動販売、宅配、配食サービスは、買い物を支える有効な方法です。
ただし、スマートフォンやパソコンを使えない、注文方法を覚えられない、商品を画面だけで選べない人もいます。配達時間に合わせて応対することや、届いた食品を適切に保管することが難しい場合もあります。
配食サービスも、弁当を受け取れば栄養問題がすべて解決するわけではありません。本人の病気、噛む・飲み込む力、食事量に合っているか、実際に食べているかを確認する必要があります。
厚生労働省の資料でも、買い物や調理が難しい高齢者にとって、配食は日々の食事を支える重要な手段である一方、適切な栄養管理や相談先との連携が求められています[4]。
買い物の変化を早期サインとして見る
家族や周囲の人は、次のような変化を確認します。
- 買い物の回数が減った
- 肉、魚、卵、乳製品を買わなくなった
- 冷蔵庫が空になっている
- 同じ食品や期限切れの商品が増えた
- 重い物を買えなくなった
- 店へ行くと強く疲れる
- 食費を極端に削っている
- 宅配された食品が未開封のまま残っている
買い物が難しくなった場合は、家族による購入、買い物同行、訪問介護、移動販売、ネットスーパー、配食などから、本人が利用できる方法を組み合わせます。
同時に、なぜ行けなくなったのかを確認することが大切です。急な息切れ、痛み、ふらつき、筋力低下、認知機能の変化がある場合は、医療機関への相談も必要です。
買い物は、単なる家事ではありません。必要な栄養を確保し、自立した生活を続けるための重要な生活機能です。
「何を食べるか」を支えるためには、その前にある「どうやって食べ物を手に入れるか」を見る。買い物の困り事を早く見つけ、食べ物が途切れない仕組みをつくることが、低栄養予防につながります。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]農林水産省「円滑な食品アクセスの確保」
[2]Harada K, et al. “Distance to supermarkets and dietary variety among Japanese older adults.” Public Health Nutrition. 2020.
[3]農林水産省「食品アクセス(買物困難者等)問題の現状について」
[4]厚生労働省「地域高齢者の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方
初回公開日
2026年9月19日
最終更新日
2026年9月19日
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