『高齢者の低栄養を知る100の話㊵』
冷蔵庫に食材があり、食欲もある。それでも、料理ができなければ食事は整いません。
料理には、献立を考え、食材を洗い、切り、加熱し、味付けをして、盛りつけ、後片づけをするまで、多くの工程があります。
高齢になると、身体機能や認知機能、生活環境の変化によって、その一部が難しくなることがあります。料理ができなくなることは、食生活の単調化や欠食を招き、低栄養につながる可能性があります。
「料理ができない」理由は一つではない
料理が難しくなる背景には、さまざまな理由があります。
膝や腰が痛く、長時間立っていられない。握力が弱くなり、包丁や鍋を持てない。視力が低下して、表示や食材の状態を確認しにくい。手の震えや麻痺があり、細かな作業ができない。
息切れや疲れやすさのため、調理を始めても途中で休まなければならない人もいます。
認知機能が低下すると、献立を決める、複数の作業を順序立てて進める、火を消す、調味料の量を判断するといったことが難しくなります。
一方、配偶者との死別などによって、これまで料理をしてこなかった人が、突然自分で食事を用意しなければならなくなる場合もあります。これは身体や認知機能の低下ではなく、調理経験や知識の不足です。
「料理をしなくなった」と一括りにせず、何ができなくなったのか、なぜ難しいのかを確認する必要があります。
食事が「簡単な物だけ」になる
料理が負担になると、食事は手間のかからない物に偏りやすくなります。
ごはんと漬物、パンと飲み物、カップ麺、お茶漬けだけで済ませる。菓子を食事代わりにする。一日二食、あるいは一食になる。このような変化です。
これらの食品が悪いわけではありません。しかし、主食だけの食事が続くと、筋肉や皮膚などをつくるたんぱく質や、ビタミン、ミネラルなどが不足しやすくなります。
一度に大量に作った料理を何日も食べ続けたり、同じ総菜だけを購入したりすることで、食品の種類も減ります。
健康長寿ネットでも、高齢者だけの世帯や一人暮らしでは、買い物や調理が億劫になり、同じ物ばかり食べる、食事回数が減るなど、食生活が単調になりやすいことが挙げられています[1]。
在宅で生活する高齢者を対象とした研究でも、食品摂取の多様性が低いことと、低栄養との関連が報告されています[2]。
作っていても、以前と同じとは限らない
本人が「毎日料理している」と話していても、食生活の変化が隠れていることがあります。
以前は主菜と副菜を作っていた人が、今はごはんを炊くだけになっている。包丁を使わず、パンや麺だけになっている。味付けを間違えるため、料理をほとんど食べずに捨てている。このような場合です。
家族は「料理をしているか」だけでなく、次の点を確認します。
- 一日に何回食べているか
- 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品を食べているか
- 同じ料理が何日も続いていないか
- 食べ残しや期限切れの食品が増えていないか
- 火の消し忘れや焦げた鍋がないか
- 包丁や缶、容器を安全に扱えているか
- 料理をした後、強く疲れていないか
- 体重が減っていないか
急に料理ができなくなった場合は、脳卒中、骨折、感染症、心臓や肺の病気、認知機能の変化などが隠れている可能性もあります。「歳だから」と済ませず、医療機関へ相談してください。
総菜や冷凍食品は「手抜き」ではない
料理が難しくなった人に、以前と同じ方法で一から作るよう求める必要はありません。
スーパーやコンビニの総菜、冷凍食品、缶詰、レトルト食品、カット野菜、配食サービスは、自宅での食生活を支える大切な手段です。
大切なのは、手作りかどうかではなく、必要な食事を安全に続けられるかです。
たとえば、次のように組み合わせます。
- ごはんに、焼き魚や肉の総菜を加える
- 麺に、卵、豆腐、冷凍野菜を加える
- パンに、牛乳、ヨーグルト、チーズを添える
- レトルトのカレーに、ゆで卵や豆の総菜を加える
- 冷凍弁当に、果物や乳製品を加える
塩分が気になる人は、汁を残す、漬物や汁物を毎食重ねないなどの工夫ができます。ただし、心不全、腎臓病、糖尿病などで食事療法を受けている人は、商品選びを医師や管理栄養士へ相談してください。
できる工程は残す
料理が難しくなったからといって、すべてを周囲が代わる必要はありません。
包丁を使えなくても、盛りつけることはできるかもしれません。献立を考えられなくても、二つの総菜から好きな方を選べるかもしれません。家族が食材を切っておけば、本人が電子レンジで温められる場合もあります。
できる工程を残すことは、本人の役割や生活の楽しみを保つことにつながります。
一方、火の消し忘れ、腐敗した食品の使用、加熱不足などがある場合は、安全を優先します。ガスを使わない調理器具へ替える、見守りながら調理する、訪問介護や配食を利用するなど、状態に合わせて方法を変えます。
「食事を用意する仕組み」をつくる
料理ができなくなったときに必要なのは、「もっと頑張って作ること」ではありません。本人の力と生活に合った、食事を用意し続けられる仕組みです。
家族による作り置き、買い物代行、訪問介護、通所サービス、配食などを組み合わせます。食事量や体重が減っている場合は、管理栄養士へ相談し、少ない量でもエネルギーとたんぱく質を取りやすい方法を考えます。
厚生労働省も、買い物や調理が難しい高齢者にとって、適切な栄養管理のもとで行われる配食は、日々の食事を支える手段になるとしています[3]。
料理は、できるか、できないかの二択ではありません。難しくなった工程を補い、できることを生かせば、自宅での食生活を続けられる可能性があります。
手作りにこだわるのではなく、実際に食べられる食事を切らさないこと。それが、料理が難しくなった後の低栄養予防で最も大切な考え方です。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]公益財団法人長寿科学振興財団「高齢期の健康維持と食生活」る配食事業の栄養管理の在り方
[2]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の低栄養対策のための食生活とは」
[3]Tsuji T, et al. “Lower dietary variety is a relevant factor for malnutrition in older Japanese home-care recipients.” BMC Geriatrics. 2019;19:197.
[厚生労働省「地域高齢者の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方」
初回公開日
2026年9月19日
最終更新日
2026年9月19日
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