50.家族だから気づける「食べられなくなった」のサイン

低栄養を早く見つけるために、必ずしも特別な検査機器が必要なわけではありません。

「以前より食べる量が減った」
「好きだった料理を残すようになった」
「服が少し緩くなった」

このような日常の変化が、低栄養の始まりを知らせていることがあります。

医療や介護の専門職は、診察やサービスの時間に高齢者の状態を確認します。しかし、以前の食べ方、好物、普段の体重、買い物や料理の習慣まで知っているとは限りません。

「その人の以前の姿」と比べられることが、家族の持つ大きな強みです。

「食べている」という言葉だけでは分からない

離れて暮らす親に「ちゃんと食べている?」と聞くと、多くの場合は「食べているから大丈夫」と答えるでしょう。

しかし、本人が考える「食べている」と、家族が想像する食事が同じとは限りません。

朝はパンだけ、昼は食べず、夜はお茶漬けだけでも、本人は「毎日食事をしている」と考えているかもしれません。食事を用意しただけで、実際には半分以上残していることもあります。

確認したいのは、単に食べたかどうかではありません。

「昨日は何を食べた?」
「肉や魚、卵はいつ食べた?」
「一番食べやすいものは何?」
「食べると痛い、むせる、気持ち悪いことはない?」

このように具体的に尋ねると、食事量や食べられない理由が見えやすくなります。

食卓に現れるサイン

家族が一緒に食事をすると、電話だけでは分からない変化に気づけます。

例えば、次のような様子です。

  • 食べ始めるまでに時間がかかる
  • 以前より食事時間が長くなった
  • 半分以上残すことが増えた
  • 肉、魚、野菜など特定の食品を避ける
  • 柔らかいものばかり選ぶ
  • 口の中に食べ物をため込む
  • お茶や汁物でむせる
  • 食事中や食後に咳が出る
  • 箸や食器を扱いにくそうにする
  • 数口で「もうお腹いっぱい」と言う
  • 食後に疲れ切っている
  • 味がしない、苦い、まずいと訴える

こうした変化には、歯や入れ歯の痛み、口の乾燥、噛む力や飲み込む力の低下、薬の影響、胃腸の不調、病気などが関係している可能性があります。

高齢者では、嚥下機能や味覚・嗅覚、胃腸の働きなどの変化が食欲低下の一因になるとされています。[1]

台所や買い物にも変化が現れる

食べられなくなったサインは、食卓だけに現れるわけではありません。

本人の了承を得ながら、冷蔵庫や台所、買い物の様子にも目を向けます。

  • 冷蔵庫の中がほとんど空になっている
  • 同じ食品や賞味期限切れの食品が増えた
  • 惣菜や弁当が手つかずで残っている
  • 肉、魚、卵、乳製品などを買わなくなった
  • 菓子パン、麺類、お茶漬けだけで済ませている
  • 調味料や調理器具を使った形跡が減った
  • 買い物へ行く回数が減った
  • 重いものを持てず、買う食品が限られている
  • 容器やペットボトルを開けられない
  • 配食を注文しても、食べ切れずに残している

背景には、食欲低下だけでなく、筋力や認知機能の低下、膝や腰の痛み、経済的な問題、料理への意欲低下などが隠れていることがあります。

身体や行動に現れるサイン

体重を測っていなくても、身体や行動の変化から体重減少や筋力低下に気づける場合があります。

  • ベルトの穴が一つ縮まった
  • ズボンや指輪が緩くなった
  • 頬や肩回りが痩せてきた
  • ふくらはぎが細くなった
  • 立ち上がるときに手を使うようになった
  • 歩く速度が遅くなった
  • 外出や趣味の集まりが減った
  • 横になっている時間が増えた
  • 疲れやすく、元気が戻りにくい
  • 風邪や病気の後から様子が変わった

厚生労働省の後期高齢者の質問票でも、1日3食の摂取、噛みにくさ、むせ、6カ月間で2~3kg以上の体重減少、歩行速度の低下などを確認します。[2]

意図しない体重減少は、低栄養だけでなく、隠れた病気のサインである可能性もあるため注意が必要です。[3]

「食べなさい」と責めず、困り事を聞く

家族が心配するほど、「もっと食べなさい」「残してはだめ」と言いたくなります。

しかし、本人が食べたいのに食べられない状態であれば、強く勧めても原因は解決しません。かえって食事が苦痛になり、家族に本当の状態を話さなくなることもあります。

「どうして食べないの?」ではなく、次のように尋ねてみましょう。

「前より量が減ったようだけど、どこかつらい?」
「何なら食べやすそう?」
「噛むことと飲み込むこと、どちらが大変?」
「買い物、料理、片付けで困っていることはある?」
「薬が変わった頃から食べにくくなっていない?」

本人を問い詰めるのではなく、一緒に原因を探す姿勢が大切です。

気づいた変化を記録して伝える

医師や専門職へ相談するときは、「最近あまり食べません」だけでなく、具体的な情報を伝えます。

  • いつ頃から変化したか
  • 半年前と比べて体重が何kg減ったか
  • 何をどのくらい残すか
  • 食べられなくなった食品
  • むせ、痛み、吐き気、便秘などの症状
  • 薬が追加・変更された時期
  • 入院、転居、死別など生活上の変化

数日分の食事を写真に撮ったり、食べた割合を記録したりする方法もあります。

病気が疑われれば医師、歯や入れ歯の問題なら歯科医師、薬の影響なら医師や薬剤師、食事内容の調整なら管理栄養士へ相談します。生活支援が必要な場合は、地域包括支援センターも相談先になります。

食事や水分をほとんど取れない、意識がいつもと違う、急に飲み込めなくなった、強くむせて呼吸が苦しそう、嘔吐を繰り返すといった場合は、早急な医療相談が必要です。

家族の役割は、すべてを解決することではない

家族だからこそ、小さな変化に気づけます。

一方で、原因を診断し、食事を用意し、介助し、医療や介護との調整まですべて家族が背負う必要はありません。

家族の大切な役割は、「以前と違う」という変化を見つけ、その情報を適切な専門職へ渡すことです。

低栄養のサインは、体重計の数字だけに現れるわけではありません。食べ残し、買い物の内容、冷蔵庫、衣服、歩き方、本人の何気ない言葉にも現れます。

いつもと違う小さな変化を見逃さず、「年齢のせい」と決めつけないこと。

それが、家族だからできる低栄養の早期発見です。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料

[1] 国立長寿医療研究センター「高齢者の食欲低下について―年を取るとどうして食欲がなくなるの?」
[2] 厚生労働省「後期高齢者の質問票(案)項目の考え方」
[3] 国立長寿医療研究センター「フレイルの原因は?」
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」

初回公開日
2026年9月26日

最終更新日
2026年9月26日