『高齢者の低栄養を知る100の話㊾』
一人で外出し、買い物や家事もできている。介護サービスを利用せず、病院へ行くのも数カ月に一度だけ。
このような高齢者を見ると、周囲は「まだ元気だから大丈夫」と考えます。本人も、自分が低栄養になるとは思っていないかもしれません。
しかし、日常生活を自立して送っていることと、栄養状態に問題がないことは同じではありません。
食事量が少しずつ減っていても、体重や筋肉が減り始めていても、生活を続けられている間は問題が表面化しにくいのです。
では、まだ医療や介護の支援を必要としていない高齢者の低栄養を、誰が見つけるのでしょうか。
「元気に見える」が盲点になる
低栄養というと、寝たきりの人、介護施設の入所者、重い病気で入院している人を想像しがちです。
ところが、地域で自立して暮らす高齢者にも、低栄養やそのリスクはあります。厚生労働省の自治体事例でも、自立した生活を送る高齢者の中から低栄養リスク者を抽出し、管理栄養士による訪問相談につなぐ取り組みが紹介されています。[1]
高齢者は、多少食事量が減っても、これまでの経験や生活能力によって日常生活を維持できることがあります。
一方で、体重が減る、歩く速度が遅くなる、外出後の疲れが取れにくくなるといった変化は、「年齢のせい」と受け止められやすく、低栄養のサインとして認識されないことがあります。
低栄養は、元気でなくなってから始まるのではありません。元気に見えている段階から、静かに進んでいる可能性があります。
本人だけに発見を任せるのは難しい
最初に変化を感じるのは本人かもしれません。しかし、本人が低栄養の可能性に気づくとは限りません。
「最近、食が細くなったけれど年齢のせい」
「少し痩せたが、太るより健康によい」
「料理が面倒なので簡単に済ませているが、毎日食べてはいる」
このように考え、問題として相談しないことがあります。
体重を測る習慣がなければ、何キログラム減ったのかも分かりません。毎日自分の姿を見ているため、外見の変化に気づきにくいこともあります。
本人が自分で気づき、相談することは大切です。しかし、本人の自覚だけに頼る仕組みでは、発見が遅れる人が出てきます。
家族にも見えない食生活がある
家族は、衣服が緩くなった、食事を残すようになった、歩き方が弱々しくなったといった変化に気づける存在です。
ただし、離れて暮らしていれば、毎日の食事内容までは分かりません。
電話で「ちゃんと食べている?」と尋ねても、本人が「食べている」と答えることがあります。それが、ご飯と漬物だけなのか、菓子パン一つなのか、肉や魚を含む食事なのかまでは分かりません。
同居していても、家族が日中不在で食事を別々に取っていれば、実際の摂取量を把握できない場合があります。
家族の見守りは重要ですが、家族がすべてを発見し、解決しなければならないわけではありません。
日常生活の接点が気づきの場所になる
元気な高齢者ほど、病院や介護施設よりも、日常生活の中に多くの接点を持っています。
例えば、次のような場所です。
- 定期的に薬を受け取る薬局
- 歯の治療や入れ歯の調整を行う歯科医院
- 健康診断や予防接種で訪れる医療機関
- 地域サロン、老人クラブ、運動教室
- スーパー、配食、宅配などの買い物の場
- 自治体の健康相談や健診
- 趣味の集まりや近所付き合い
こうした場所では、「以前より痩せた」「歩くのが遅くなった」「同じ食品ばかり買っている」「硬いものを避けている」「食事が余るようになった」といった変化が見つかることがあります。
ただし、地域の人や店舗の担当者が低栄養を診断するわけではありません。気になる変化に気づき、本人へ声をかけ、必要な相談先につなぐことが役割です。
薬局は元気な高齢者とも継続して会える
高齢者の中には、介護サービスを利用していなくても、高血圧や脂質異常症などの薬を定期的に受け取っている人がいます。
そのため、薬局は、生活が自立している高齢者と継続的に接することができる場所の一つです。
薬剤師が「最近、体重は変わっていませんか」「食欲はありますか」「薬が変わってから食べにくくなっていませんか」と確認すれば、本人が問題と思っていなかった変化を見つけられるかもしれません。
体重減少や食事量の低下があれば、薬の影響を確認し、必要に応じてかかりつけ医や管理栄養士へつなぐこともできます。
薬を渡す場所に、健康状態の変化を確認する視点が加わることで、薬局は低栄養の早期発見の入口になります。
通いの場は「変化を比較できる」場所
地域サロンや運動教室など、同じ人が定期的に集まる場所にも強みがあります。
一度だけ会う人には分からなくても、毎月会っている人なら、「以前より元気がない」「歩く速度が落ちた」「参加回数が減った」といった変化に気づけます。
厚生労働省は、高齢者の通いの場などに医療専門職が関与し、フレイル予防の普及、健康相談、健康状態の把握、必要なサービスへの紹介を行う取り組みを示しています。[2]
後期高齢者の質問票や簡便な栄養スクリーニングを活用し、体重減少や食習慣、口腔機能を定期的に確認することも考えられます。
見つけた後につながらなければ意味がない
体重減少に気づいても、「しっかり食べてください」と伝えるだけでは十分ではありません。
病気が疑われれば医師、歯や入れ歯の問題なら歯科医師や歯科衛生士、薬の影響なら医師や薬剤師、食事内容の調整なら管理栄養士へつなぎます。生活上の問題があれば、地域包括支援センターや自治体への相談も必要です。
重要なのは、気づいた人が一人で原因を判断し、すべてを支援することではありません。
「以前より痩せた」「食事量が減った」という小さな気づきを、評価できる専門職へ渡すことです。
誰か一人ではなく、地域全体で見つける
元気な高齢者の低栄養を、特定の誰か一人がすべて見つけることは困難です。
本人が体重を測る。家族が変化を気にかける。薬局や歯科医院が食事に関する質問をする。通いの場で定期的に健康状態を確認する。自治体が健診、医療、介護の情報から支援が必要な人や健康状態が分からない人へ働きかける。
厚生労働省が進める「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」でも、健康状態が分からない人への働きかけ、リスクのある人への個別支援、元気な高齢者へのフレイル予防を組み合わせる考え方が示されています。[2][3]
元気に見える間は、支援が必要ないのではありません。
元気な段階だからこそ、小さな変化を見つけ、早く対応できる可能性があります。
低栄養を見つけるのは、病院や介護施設だけの役割ではありません。高齢者が普段暮らしている地域の中に、複数の気づきの入口をつくることが必要です。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1] 厚生労働省「全国高齢者医療・国民健康保険主管課(部)長及び後期高齢者医療主管課(部)長会議資料」―自立した高齢者を対象とした低栄養予防の取組
[2] 厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について」
[3] 厚生労働省「データに基づく健康状態不明者の把握やサロンへの医療専門職の派遣等」
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」
初回公開日
2026年9月26日
最終更新日
2026年9月26日
「高齢者の低栄養予防」についてお気軽にお問い合わせください!
・低栄養のチェックやアドバイスを行ってくれる薬局について聞きたい
・配食サービスについて教えてほしい
・健康支援型配食サービスを導入したい
・低栄養予防事業を健康増進支援薬局の一環として進めたい
・栄養ケア支援システムについて話を聞いたみたい
・フレイルケア食(たんぱく補助・食欲増進等)の販売について相談したい
・低栄養予防事業を自治体として進めたい(自治体に提案したい)
・高齢者施設や通所施設において、栄養ケアの取り組みを進めたい
・退院後の栄養ケアを実施している薬局を教えてほしい
・高齢者向けフレイルケア食の開発や販売を拡大したい
・事業連携や情報交換・意見交換をしたい 他