45.低栄養予防で最も大切なのは「原因を探すこと」

高齢者の体重が減ったり、食事量が少なくなったりすると、「栄養のあるものを食べてもらおう」「栄養補助食品を追加しよう」と考えがちです。

もちろん、足りないエネルギーやたんぱく質を補うことは大切です。しかし、それだけでは十分でないことがあります。

なぜ食べられなくなったのか。なぜ体重が減っているのか。

その原因を確認しないまま栄養を補おうとしても、思うように摂取量が増えなかったり、いったん改善しても再び低栄養になったりする可能性があります。

低栄養予防で最も大切なのは、「何を食べるか」を考える前に、「なぜ食べられないのか」を探すことです。

低栄養は「食事が少ない」という結果だけではない

低栄養は、食事量が少ないことだけで起こるものではありません。

病気によって身体の中で炎症が起こると、食欲が落ちるだけでなく、筋肉が分解されやすくなることがあります。食べているつもりでも、消化や吸収がうまくいかなければ、必要な栄養を身体に取り込めません。

歯や入れ歯の痛み、口の乾燥、噛む力や飲み込む力の低下によって、食べられる食品が限られる場合もあります。薬の副作用、抑うつ、認知機能の低下、買い物や調理の困難、経済的な問題、孤立なども、食事量を減らす原因になります。

つまり、低栄養は単なる「食べる量の問題」ではなく、身体、病気、口腔、薬、心理状態、認知機能、生活環境などが複雑に関係して起こる状態です。

スクリーニングは「原因探しの入口」

低栄養を早く発見するためには、体重の変化や食事量を確認し、MNA-SFなどの方法で栄養リスクを評価することが役立ちます。

ただし、スクリーニングで分かるのは、主に「低栄養の可能性がある」「詳しく調べる必要がある」ということです。点数が低かったとしても、それだけで原因まで分かるわけではありません。

国際的な低栄養診断基準であるGLIM基準でも、体重減少、低BMI、筋肉量減少といった身体に現れた変化だけでなく、食事摂取量や消化吸収の低下、病気による炎症などの病因を確認します。[1]

したがって、低栄養リスクを発見した後に必要なのは、すぐに「食べてください」と指導することではありません。

「この人に何が起きているのか」を、もう一段深く確認することが重要です。

原因は一つとは限らない

高齢者の低栄養では、複数の原因が重なっていることが珍しくありません。

例えば、入れ歯が合わず肉を避けるようになった人が、配偶者を亡くして一人で食事をするようになり、さらに買い物へ行く体力も落ちているかもしれません。

別の人では、病気の治療で薬が増え、吐き気や口の乾燥が現れたところへ、家族による厳しい食事制限が重なっている可能性があります。

一つの原因だけを解決しても、ほかの問題が残っていれば、食事量や体重は十分に戻りません。

また、低栄養によって筋力が落ちると、買い物や調理が難しくなります。活動量が減れば空腹を感じにくくなり、さらに食事量が減るという悪循環にも陥ります。

そのため、「食欲がない」という言葉だけで終わらせず、食欲がなくなった背景まで考える必要があります。

原因を探すために確認したいこと

原因を整理するときは、次のような視点で確認します。

1.身体や病気の変化

発熱、痛み、息苦しさ、吐き気、下痢、便秘、むくみなどはないでしょうか。心不全、感染症、がん、消化器疾患などが隠れていることもあります。

「年を取ったから食べられない」と決めつけず、急な食欲低下や体重減少は、新しい病気や持病の悪化を知らせるサインとして捉えることが大切です。

2.口と飲み込みの問題

歯の痛み、合わない入れ歯、口内炎、口の乾燥、噛みにくさ、むせ、食後の咳、口の中への食べ物の残留などを確認します。

口腔機能が低下すると、肉、魚、野菜などを避け、柔らかい炭水化物中心の食事に偏りやすくなります。[2]

3.薬の影響

薬を飲み始めた時期や変更された時期と、食欲低下が始まった時期を比べます。吐き気、眠気、味覚の変化、口の乾燥、便秘などが食事を妨げている可能性があります。

複数の医療機関から薬を処方されている場合は、市販薬やサプリメントを含め、かかりつけ薬局で全体を確認してもらうことが大切です。

4.気持ちや認知機能

気分の落ち込み、意欲の低下、孤独、睡眠の変化はないでしょうか。認知機能が低下すると、空腹を訴えない、食事を認識できない、食べ方が分からないといった変化も起こります。

5.暮らしの問題

買い物へ行けるか、料理や片付けができるか、食品の容器を開けられるか、食費を確保できているか、一緒に食べる人がいるかなども確認します。

冷蔵庫の中、同じ食品ばかり購入していないか、賞味期限切れの食品が増えていないかといった生活の様子が、原因を知る手がかりになることもあります。

原因によって支援は変わる

原因が違えば、必要な支援も変わります。

病気が原因なら医療機関での診察や治療が必要です。歯や入れ歯の問題なら歯科医師や歯科衛生士、薬の影響なら医師や薬剤師、食事内容の調整なら管理栄養士、飲み込みの問題なら医師、看護師、言語聴覚士などにつなぎます。

買い物や調理、孤立、経済的な問題には、ケアマネジャー、地域包括支援センター、自治体、配食や生活支援サービスなどとの連携が必要です。

栄養補助食品が役立つ人もいますが、それは原因を確認したうえで選ぶ「支援の一つ」です。栄養補助食品を渡すだけで、合わない入れ歯や吐き気、孤独、買い物の問題が解決するわけではありません。

高齢者の栄養ケアでは、定期的な栄養状態の確認と詳しい評価を行い、その人に合わせた複数の支援を組み合わせることが推奨されています。[3]

原因が分からないときこそ、多職種で考える

低栄養の原因を、家族や一人の専門職だけで特定できないこともあります。

そのようなときは、「原因が分からないから様子を見る」のではなく、分かっている情報を共有することが大切です。

いつから食事量が減ったのか、半年間で何キログラム痩せたのか、何が食べられないのか、むせや痛みはあるか、薬は変わったか、生活環境に変化はあったか――。こうした情報が、医師、歯科医師、薬剤師、管理栄養士、看護師、介護職などが原因を考える材料になります。

一人の高齢者を、複数の専門職がそれぞれの視点から見ることで、初めて見つかる原因もあります。

「食べさせる」より「食べられない理由を取り除く」

低栄養が見つかったとき、「もっと食べてもらわなければ」と焦るだけでは、本人にも家族にも負担がかかります。

大切なのは、本人の努力に頼ることではありません。

痛みを治す。入れ歯を調整する。薬を見直す。食事の形や量を変える。買い物や調理を支援する。一緒に食べる機会をつくる。病気が隠れていないか調べる。

このように、食べることを妨げている原因を一つずつ取り除くことが、低栄養予防の基本です。

「何を食べさせるか」だけでなく、「なぜ食べられないのか」を考える。

それが、その人に本当に必要な栄養ケアを始めるための、最も大切な視点です。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1] 日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「口腔機能の健康への影響」
[3] Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022;41(4):958–989.
[4] 厚生労働省「高齢者医療における保健事業の推進について」

初回公開日
2026年9月25日

最終更新日
2026年9月25日