46.低栄養はどこで見つかる?現在の医療・介護の盲点

高齢者の低栄養は、どこで見つかるのでしょうか。

病院でしょうか。かかりつけの診療所でしょうか。それとも、介護施設や自宅でしょうか。

実際には、低栄養を発見できる場所は一つではありません。病院、診療所、歯科医院、薬局、介護サービス、配食、家族との会話など、さまざまな場所に気づく機会があります。

ところが、複数の医療・介護サービスを利用しているにもかかわらず、低栄養が進むまで気づかれない高齢者もいます。

その背景にあるのは、専門職が何も見ていないという問題ではありません。それぞれが異なる目的で高齢者に関わり、体重、食事、口腔、薬、生活状況などの情報が、一つにつながりにくいという構造的な問題です。

低栄養は静かに進む

低栄養は、突然分かりやすい症状が現れるとは限りません。

少し食事を残すようになる。ベルトが緩くなる。外出が減る。歩く速度が遅くなる。疲れやすくなる。風邪を引いた後、なかなか元気が戻らない――。

一つひとつは、「年齢のせい」「最近少し体調が悪かったから」と見過ごされやすい変化です。

本人も、食欲低下や体重減少を病気だとは考えず、医療者へ伝えないことがあります。家族が離れて暮らしていれば、冷蔵庫の中身や食べ残し、衣服の緩みなどに気づく機会も限られます。

低栄養は、本人から訴えが出るのを待っているだけでは見つけにくいのです。

病院では見つかっても、退院後に途切れることがある

病院では、入院時に身長や体重、食事摂取量などを確認し、栄養状態を評価する体制が整えられています。栄養リスクがあれば、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、リハビリテーション専門職などが関わることもあります。

しかし、退院した時点で栄養の問題がすべて解決しているとは限りません。

入院の原因となった病気は改善していても、筋力や食欲が戻っていないことがあります。病院で提供されていた食事を自宅では用意できない、食事介助をしてくれる人がいない、薬が変わって食欲が落ちた、といった新たな問題が起こることもあります。

退院時の体重、食事量、必要な食事形態、栄養上の注意点などが、家族や在宅の支援者へ十分に共有されなければ、その後の変化を比較できません。

介護保険制度でも、退所時の栄養情報を居宅や医療機関などへ切れ目なく伝える取り組みが進められています。[1] これは裏を返せば、生活の場が変わるときに栄養情報が途切れやすいことが、重要な課題として認識されているということです。

外来診療では「体重減少」が主な相談になりにくい

診療所では、糖尿病、高血圧、心不全など、受診の目的となる病気の管理が優先されます。

診察室で体重を毎回測るとは限らず、本人が「食べられない」「痩せてきた」と伝えなければ、食事の変化が話題にならないこともあります。

検査値が大きく悪化していない、もともと体格が大きい、BMIがまだ基準範囲内にあるといった場合でも、短期間に体重が減っていれば注意が必要です。現在の体重だけでなく、「以前と比べてどう変化したか」を見ることが重要です。

低栄養の診断に用いられるGLIM基準でも、低BMIだけでなく、意図しない体重減少や筋肉量の減少、食事摂取量、病気による炎症などを組み合わせて評価します。[2]

歯科医院や薬局にも発見の手がかりがある

歯科医院では、歯の痛み、合わない入れ歯、口の乾燥、噛む力の低下など、食べられない原因を見つけられる可能性があります。

しかし、口の状態が悪いことと、体重減少や食事内容の変化が結びつけて考えられなければ、口腔内の治療だけで終わることがあります。

薬局も、低栄養を早期に発見できる重要な場所です。

薬剤師は、薬が増えた時期と食欲低下の時期、吐き気、便秘、眠気、口の乾燥、味覚の変化などを確認できます。定期的に薬局へ来る人であれば、以前より痩せた、歩き方が弱々しくなった、薬を飲み忘れるようになったといった変化に気づくこともあります。

一方で、薬を正しく渡すことだけが中心になり、体重や食事量について尋ねる仕組みがなければ、その兆候は栄養問題として認識されないかもしれません。

介護現場は「食べる様子」を最も見やすい

介護職や訪問看護師、ホームヘルパーは、日常生活の中で食事の変化を見つけやすい立場にあります。

食事を残す、同じ食品ばかり食べる、冷蔵庫に食品がない、容器を開けられない、食事中にむせる、服が緩くなった、立ち上がりに時間がかかるといった変化を、実際の生活場面で確認できます。

しかし、その変化が「高齢だから仕方がない」「好き嫌いが増えた」と捉えられると、低栄養の可能性まで検討されないことがあります。

また、介護職が変化に気づいても、体重や食事摂取量を記録する仕組み、医師や管理栄養士へ伝える経路、誰が対応を判断するのかが明確でなければ、情報が現場の気づきだけで止まってしまいます。

リハビリテーション、栄養、口腔は互いに影響するため、多職種が連携し、対象者を把握して速やかに評価・介入する体制が重要とされています。[3]

最大の盲点は、サービスにつながっていない自宅

特に見つかりにくいのが、医療機関をあまり受診せず、介護保険サービスも利用していない高齢者です。

一人暮らしでなくても、家族が日中不在で食事の様子を知らない場合があります。家族と同居していても、本人が「食べている」と答えれば、それ以上確認されないこともあるでしょう。

買い物、配食、地域の通いの場、自治体の健診、民生委員の訪問など、医療・介護以外の接点も重要です。

低栄養は、医療機関だけで見つけるものではありません。生活に近い場所で小さな変化に気づき、必要に応じて医療や介護へつなぐ仕組みが求められます。

「見つける」と「診断する」は役割が違う

低栄養を疑うことは、医師や管理栄養士にしかできないわけではありません。

家族、介護職、薬剤師、配食担当者などが、「以前より痩せた」「食事を残すようになった」と気づくことはできます。

ただし、気づきだけで低栄養と診断したり、原因を決めつけたりすることはできません。

まず、体重減少や食事量の低下に気づく。次にMNA-SFなどの検証された方法でリスクを確認する。リスクがあれば医療機関などにつなぎ、詳しい栄養評価と原因の確認を行う。この役割分担が必要です。[2]

重要なのは、全員が診断できるようになることではなく、誰かの気づきが適切な専門職まで届くことです。

低栄養は「あらゆる接点」で見つける

低栄養を見つける場所を一つに決めると、その場所を利用していない高齢者が抜け落ちます。

病院では入院中だけでなく退院後を見据える。診療所では病気の検査値とともに体重変化を見る。歯科医院では口腔機能と食事を結びつける。薬局では薬の影響と食欲を確認する。介護現場では食べる様子と生活の変化を記録する。地域では、医療や介護につながっていない人にも目を向ける。

そして、場所が変わっても、体重、食事量、口腔状態、服薬、生活状況などの情報が途切れないようにします。

現在の医療・介護には、栄養に関する多くの取り組みがあります。それでも低栄養が見逃されるのは、制度や専門職が存在しないからではなく、それぞれの気づきが一つにつながっていないからです。

低栄養は、特定の誰かだけが見つけるものではありません。

高齢者と接するあらゆる場所が入口となり、気づいた人が次の支援者へつなぐ。その連続した仕組みをつくることが、医療・介護の盲点を埋める鍵になります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料

[1] 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.2)」―退所時栄養情報連携加算
[2] 日本栄養治療学会「GLIM基準について」「GLIM よくあるご質問」
[3] 厚生労働省「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会における主な御意見」
[4] 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」―リハビリテーション・栄養・口腔の一体的取組

初回公開日
2026年9月25日

最終更新日
2026年9月25日