55.スーパー・コンビニも低栄養予防に関われる?

高齢者の低栄養予防というと、病院、介護施設、薬局、管理栄養士などの役割を思い浮かべるかもしれません。

しかし、高齢者が実際に食べるものを選んでいるのは、診察室ではありません。

日常的に利用するスーパーやコンビニは、高齢者の食生活を支える重要な場所です。どのような商品が置かれているか、どこに並べられているか、持ち帰りやすいかによって、毎日の食事内容は変わります。

スーパーやコンビニが低栄養を診断するわけではありません。それでも、高齢者が自然に必要な栄養を取りやすい環境をつくることで、低栄養予防に関わることができます。

買える場所がなければ、食べることはできない

高齢になると、食べたいものがあっても、店まで行けない、重い荷物を持って帰れないといった問題が起こります。

近くに店舗があっても、広い売り場を歩けない、商品棚の表示が見えにくい、セルフレジを使いにくいなどの理由で、買い物が負担になることがあります。

農林水産省は、食品へのアクセスに制約があると、高齢者の食品摂取の多様性が低くなる可能性があることを示しています。[1]

スーパーやコンビニには、食品を販売するだけでなく、高齢者が食品へ到達するための環境を整える役割があります。

例えば、宅配、移動販売、電話注文、店内での休憩場所、少量でも利用できる配達サービスなどです。

特に、住宅地に近く、営業時間が長いコンビニは、買い物が難しくなり始めた高齢者の食生活を支える身近な店舗になり得ます。

「簡単に買える食品」は高齢者の味方になる

惣菜、弁当、冷凍食品、缶詰、レトルト食品などの「中食」は、料理が難しくなった高齢者にとって便利な選択肢です。

包丁や火を使わずに食べられれば、調理の負担を減らせます。少量の商品を選べれば、一人暮らしでも食品を無駄にしにくくなります。

ただし、おにぎりだけ、菓子パンだけ、麺類だけという食事が続けば、たんぱく質などが不足しやすくなります。

そこで店舗側が、

「おにぎり+卵料理+みそ汁」
「パン+乳製品+スープ」
「ご飯+魚の惣菜+野菜料理」

など、主食だけで終わらない組み合わせを分かりやすく提案する方法があります。

商品を別々の売り場に置くのではなく、一緒に選びやすい場所へ並べることも一つの工夫です。

厚生労働省が進める健康的な食環境づくりでも、個人の努力だけに任せず、日常生活の中で自然に健康的な選択ができる環境を整える考え方が重視されています。[2][3]

「少量で栄養を取れる」選択肢を増やす

食欲が低下した高齢者にとって、大盛りやボリュームのある商品は魅力にならないことがあります。

量が多いと、食べる前から負担に感じたり、食べ切れずに購入を避けたりするからです。

必要なのは、少量でもエネルギーやたんぱく質を取りやすい商品です。

  • 小さめの弁当
  • 一人分の肉・魚料理
  • 卵、豆腐、納豆
  • ヨーグルト、牛乳、チーズ
  • 少量パックの惣菜
  • 栄養補助食品や飲料
  • 食べやすい大きさの商品

「高齢者向け」と大きく表示しなくても、「少量」「たんぱく質を含む」「開けやすい」「調理不要」といった情報が分かれば、本人や家族が選びやすくなります。

ただし、柔らかい食品だから、飲み込みに問題がある人にも安全とは限りません。嚥下機能に不安がある人は、医師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士などによる評価が必要です。

売り場の表示で選びやすさは変わる

商品の栄養成分表示があっても、文字が小さく、高齢者には読みづらい場合があります。

また、エネルギー、たんぱく質、脂質、食塩相当量などの数字を見ても、自分が何を選べばよいか分からない人もいます。

そこで、

  • たんぱく質を取りやすい
  • 少量でエネルギーを補える
  • 調理せずに食べられる
  • 一食分を組み合わせやすい
  • 持ち帰りやすい少量サイズ

といった選択の目的を、売り場で簡潔に示す方法があります。

健康に関する商品を特別な棚へ隔離するより、普段購入する食品の中から無理なく選べるようにすることが大切です。

厚生労働省が紹介する自治体とスーパーの連携事例では、事業者が弁当を開発し、自治体の管理栄養士が栄養計算や食品選択について助言するなど、それぞれの専門性を生かした取り組みが行われています。[4]

低栄養予防でも、店舗と管理栄養士が連携し、少量で栄養を取りやすい商品や組み合わせを提案することが考えられます。

「健康的」の意味は高齢者によって違う

売り場では、「低カロリー」「脂質控えめ」「糖質オフ」などの商品が目立ちます。

こうした商品が必要な人もいますが、食事量が減り、体重や筋肉が落ちている高齢者にとって、さらにエネルギーを減らすことが適切とは限りません。

高齢者の健康づくりでは、生活習慣病への配慮と、低栄養・フレイル予防の両方が必要です。

全員に同じ「健康食品」を勧めるのではなく、減塩が必要な人、たんぱく質を補いたい人、少量でエネルギーを取りたい人など、異なる目的に対応できる選択肢を用意することが重要です。

病気のある人が療養食や食事制限を選ぶ場合は、店舗の表示だけで判断せず、医師や管理栄養士などへ相談する必要があります。

店舗スタッフに診断や見守りを背負わせない

地域に密着した店舗では、常連の高齢者が以前より痩せた、買う量が減った、同じ商品ばかり購入するようになった、と気づく場合があります。

しかし、店舗スタッフが低栄養を判断したり、買い物内容を監視したりすることは適切ではありません。

体調不良や明らかな異変がある場合に、本人へ声をかけ、事業者のルールに従って家族や地域の相談窓口につなぐことは考えられます。一方で、個人情報や本人の尊厳に十分な配慮が必要です。

店舗に求められる中心的な役割は、医療的な判断ではなく、必要な食品を選びやすく、購入しやすくすることです。

スーパー・コンビニは地域の「食のインフラ」

低栄養予防は、本人に「バランスよく食べてください」と伝えるだけでは進みません。

近くに店があること。買い物へ行けること。少量の商品があること。必要な食品を見つけやすいこと。重い荷物を持たずに済むこと。

こうした環境が整って初めて、高齢者は毎日の食生活を続けられます。

スーパーやコンビニは医療機関ではありません。しかし、高齢者が日常的に食品を選ぶ場所だからこそ、食べ方を変える大きな力を持っています。

低栄養予防に必要な商品を、特別な努力をしなくても手に取れるようにする。

それが、スーパー・コンビニだからできる低栄養予防への関わり方です。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料

[1] 農林水産省「食品アクセス(買物困難者等)問題の現状について」
[2] 厚生労働省「健康日本21(第三次)推進のための説明資料」
[3] 厚生労働省「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」
[4] 厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト「弁当利用者が多い地域の健康課題解決に向けた町役場と中食事業者の協働」
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「外食・中食の上手な活用法」

初回公開日
2026年9月29日

最終更新日
2026年9月29日