58.薬剤師だから気づける「食べられない」の原因

高齢者から薬剤師へ、

「最近、食欲がない」
「食事がおいしくない」
「薬を飲むと気持ちが悪い」

といった相談が寄せられることがあります。

食べられない原因は薬だけとは限りません。しかし、薬を飲み始めた時期、薬が増えた時期、症状が現れた時期を比較できる薬剤師だからこそ、見つけられる原因があります。

薬剤師は、薬を正しく渡すだけではなく、服薬後の変化を確認し、食欲低下や体重減少の背景を探ることができる専門職です。

薬が変わった時期と食欲低下を比べる

薬が原因かどうかを考えるとき、重要なのが時間の関係です。

「新しい薬を飲み始めてから食欲が落ちた」
「薬が増えてから眠っている時間が長くなった」
「服用量が変わった頃から吐き気が続いている」

このような経過があれば、薬の影響を検討する手がかりになります。

薬によって現れる可能性がある症状には、次のようなものがあります。

  • 吐き気、胃もたれ、腹部の不快感
  • 便秘や下痢
  • 口の乾燥
  • 味やにおいの感じ方の変化
  • 眠気、だるさ
  • めまい、ふらつき
  • 食欲の低下

ただし、同じ症状は病気や脱水、口腔の問題などでも起こります。

「薬を飲んでいるから副作用だ」と決めつけるのではなく、いつから、どの薬の変更後に、どのような症状が現れたかを確認することが重要です。

複数の薬が重なった影響を考えられる

高齢者は、複数の病気を持ち、複数の医療機関から薬を処方されていることがあります。

一つひとつの薬には必要性があっても、薬の数が増えることで、似た作用や有害事象が重なる可能性があります。

また、処方薬だけでなく、市販の胃腸薬、睡眠改善薬、漢方薬、健康食品、サプリメントなどを使っている場合、医師や薬剤師が全体を把握できていないことがあります。

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」では、お薬手帳などを活用し、処方・調剤を一元的に把握することの重要性が示されています。[1]

利用する薬局をできるだけまとめ、市販薬やサプリメントを含めて伝えることで、薬剤師が全体を確認しやすくなります。

錠剤の飲みにくさが嚥下機能低下のサインになる

薬剤師は、「薬が飲みにくくなった」という相談から、口や飲み込みの問題に気づくことがあります。

  • 錠剤が喉につかえる
  • 薬を何度も水で流し込む
  • 粉薬が口の中に残る
  • 服薬時にむせる
  • 薬を飲むこと自体を避ける
  • 大きな錠剤を自己判断で割ったり砕いたりしている

こうした変化があれば、食べ物や水分も飲み込みにくくなっている可能性があります。

薬の種類によっては、砕く、割る、カプセルを開けるといった対応ができません。薬の効果や安全性が変わることがあるため、自己判断は避け、薬剤師へ相談します。

薬剤師は、薬の性質を確認したうえで、剤形の変更、服用方法、服薬補助ゼリーなどを医師へ提案できます。厚生労働省の指針でも、嚥下障害のある患者に対する剤形変更や服用方法の工夫が示されています。[1]

同時に、食事でもむせや飲み込みにくさがある場合は、医師、歯科医師、看護師、言語聴覚士などへの相談が必要です。

服薬状況から生活の変化が見える

薬が余る、飲み忘れが増えるという変化には、認知機能だけでなく、食生活の変化が関係している場合があります。

「食後の薬だが、食事をしないので飲んでいない」
「一日二食になり、いつ飲めばよいか分からない」
「吐き気がするので、薬も食事も避けている」
「薬を飲むためだけに少し食べている」

こうした話から、欠食、食事回数の減少、体調不良などが明らかになることがあります。

反対に、ほとんど食べていないのに、以前と同じように薬を飲み続けている場合もあります。薬によっては、食事量や水分量、体重、腎機能などの変化が安全性に影響することがあります。

食事量が大きく減ったときは、薬を自己判断で中止せず、医師や薬剤師へ伝えることが大切です。

薬以外の原因にも気づける

薬剤師が確認するのは、薬の副作用だけではありません。

「硬いものが食べられない」と聞けば、歯や入れ歯の問題が考えられます。「食事中にむせる」と聞けば、嚥下機能の確認が必要です。「買い物へ行けなくなった」と聞けば、生活支援が必要かもしれません。

また、急な食欲低下や体重減少の背景には、新しい病気や持病の悪化が隠れていることがあります。

薬の影響が見当たらないからといって、「薬とは関係ありません」で終わらせるのではなく、適切な相談先へつなぐことが重要です。

厚生労働省も、高齢者の低栄養や服薬などの課題に対し、薬局を含む地域の拠点と、管理栄養士、歯科衛生士、薬剤師、保健師などが連携して対応する考え方を示しています。[2]

薬局で伝えてほしいこと

食欲低下や体重減少について相談するときは、次の情報を薬剤師へ伝えます。

  • いつから食事量が減ったか
  • 半年前と比べて体重が何kg減ったか
  • 薬が追加・変更された時期
  • 吐き気、便秘、口の乾燥などの症状
  • 噛みにくさやむせの有無
  • 食事を抜いたときの服薬状況
  • 利用しているすべての医療機関
  • 処方薬、市販薬、サプリメント
  • 病気、入院、転居など最近の変化

「食欲はありますか」と聞かれたときに、「普通です」で終わらせず、「以前の半分くらいです」「夕食を抜く日があります」と具体的に答えると、状況が伝わりやすくなります。

薬剤師は、薬との関係が疑われる場合、本人の同意を得たうえで、処方医へ情報提供や処方確認を行います。

薬を減らすことだけが目的ではない

食欲低下があるからといって、薬を減らせば必ず改善するわけではありません。必要な治療薬を中止すれば、病気が悪化し、かえって食べられなくなる可能性もあります。

薬剤師が行うのは、単純に薬の数を減らすことではありません。

本当に薬の影響が疑われるのか。治療に必要な薬か。服用方法や剤形を変えられないか。ほかの原因が隠れていないか。それらを医師や多職種と一緒に検討します。

高齢者の薬物療法の見直しでは、薬だけを見るのではなく、生活機能や本人の状態を総合的に評価し、多職種で情報を共有することが重要です。[3]

薬局は「食べられない」を相談できる場所

食欲や体重の問題を、薬局で話してよいのか迷う人もいるでしょう。

しかし、薬剤師にとって、食事量、体重、口腔、飲み込み、便通、生活状況は、薬を安全に使用できているかを考えるための大切な情報です。

定期的に同じ薬局を利用していれば、薬の変更と身体の変化を時間の流れで比べることもできます。

薬剤師だから気づけるのは、薬の副作用だけではありません。

薬と食事、病気、口腔、認知機能、生活の変化を結びつけ、「食べられない原因」を探し、必要な支援へつなぐ。

それが、低栄養予防において薬剤師が果たせる重要な役割です。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1] 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)について」
[2] 厚生労働省「高齢者医療における保健事業の推進について」
[3] 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編の概要」
[4] 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用推進事業に係る実態調査及び指針と活用ツールの改訂のための調査・検討一式 報告書」

初回公開日
2026年9月30日

最終更新日
2026年9月30日