60.地域の薬局を「病気になる前に相談する場所」へ

薬局は「病院で処方箋をもらった後に行く場所」と思われがちです。しかし、薬局の役割は、薬を正確に調剤して渡すことだけではありません。体調の小さな変化を確認し、病気の予防や重症化予防を支え、必要なときには医療・介護・福祉へつなぐことも、地域の薬局に期待される役割になっています。

低栄養予防も、その代表的なテーマの一つです。「最近食べる量が減った」「少しやせた」「疲れやすくなった」という段階で相談できれば、フレイルや病気が進んでから対応するよりも、早く原因を見つけられる可能性があります。

国は薬局を「地域の健康拠点」へ変えようとしている

厚生労働省は2015年に「患者のための薬局ビジョン」を公表し、薬局の方向性として「門前からかかりつけ、そして地域へ」「薬中心の業務から患者中心の業務へ」を示しました[1]。

その流れの中で、2016年に始まったのが健康サポート薬局の制度です。健康サポート薬局は、かかりつけ薬剤師・薬局としての基本的な機能に加え、地域住民の健康の維持・増進を積極的に支援する薬局です。

薬や健康食品の安全な利用について助言するだけでなく、健康相談を幅広く受け、薬局内で解決できない問題は医療機関や地域の専門職へつなぐことが求められています[2]。健康サポート薬局の届出数は、2026年3月31日時点で全国3,592薬局となっています[3]。

さらに、2025年の薬機法改正により、現在の健康サポート薬局を「健康増進支援薬局」として都道府県知事の認定制度に改めることが法制化されました[4]。新制度は2027年5月20日に施行される予定です。

これは、すべての薬局が直ちに健康増進支援薬局になるという意味ではありません。また、名称を変えるだけでもありません。相談しやすい設備や専門的な研修を受けた薬剤師の配置、関係機関との連携、地域住民に対する継続的な健康支援など、求められる機能を明確にし、その質を認定によって分かりやすくする方向です[5]。

制度は変わりつつありますが、その根底にある考え方は一貫しています。薬局を、病気になった後に薬を受け取る場所だけでなく、病気になる前から地域住民が相談できる場所にしようということです。

「病気になる前」とは、何も症状がないときだけではない

予防というと、健康な人が血圧を測ったり、運動について学んだりすることを想像するかもしれません。しかし、高齢者の場合は、病気と健康の境界がはっきりしないことがあります。

「食欲がない」「眠れない」「便秘が続く」「足元がふらつく」「外出が減った」といった変化は、生活上の困り事に見えても、薬の副作用、低栄養、口腔機能の低下、フレイル、病気の悪化などと関係している可能性があります。

薬局で行う予防は、病気を診断することではありません。日常の変化を聞き取り、放置してよいものか、生活上の工夫で対応できるものか、医療機関などにつなぐ必要があるかを考える「最初の相談窓口」になることです。

したがって、処方箋がなくても、「病院へ行くほどか分からないけれど気になる」という段階で相談して構いません。一方、急な息苦しさ、意識の変化、強い胸痛など緊急性が疑われる場合は、薬局への相談を待たず、救急要請や速やかな受診が必要です。

栄養は健康相談の入り口になりやすい

薬局が扱う健康課題には、生活習慣病、禁煙、女性の健康、認知症、骨粗しょう症、感染症予防、セルフメディケーションなど、さまざまなものがあります。その中でも、栄養は多くの高齢者に関係し、日常の変化を見つけやすいテーマです。

体重、食欲、食事回数、噛む力、むせ、買い物や調理の状況を確認すると、低栄養だけでなく、口腔機能の低下、ポリファーマシー、抑うつ、認知機能の低下、孤立、経済的な問題などが見えてくる場合があります。

つまり、栄養相談は「何を食べればよいか」を教えるだけではありません。高齢者の身体と暮らしの変化を幅広く捉える入口になります。

すでに一部の薬局では、体重測定、栄養スクリーニング、管理栄養士による相談、健康相談会などが行われています。ただし、実施内容は薬局によって異なり、すべての薬局で同じ支援を受けられるわけではありません。

薬局での栄養サポートは、何をするのか

薬局における低栄養予防は、次のような流れが基本になります。

  1. 体重減少や食事量低下などの変化に気づく
  2. 短い質問や栄養スクリーニングでリスクを確認する
  3. 薬、病気、口腔、生活環境などの原因を考える
  4. 必要に応じて医師、歯科医師、管理栄養士、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどへつなぐ
  5. 次の来局時に食欲や体重の変化を確認する

栄養補助食品を販売することは、選択肢の一つにすぎません。病気や薬の影響、噛む・飲み込む問題があるのに、商品を勧めるだけでは根本的な解決にならないからです。

薬局の重要な役割は、低栄養を薬局だけで治そうとすることではなく、早く気づき、原因を整理し、適切な支援につなぐことです。管理栄養士が勤務する薬局や地域の管理栄養士と連携する薬局であれば、食事内容や調理方法まで、より具体的に相談できる場合があります。

相談できる薬局を地域で育てる

健康サポート薬局や、今後始まる健康増進支援薬局だけが健康相談を行うわけではありません。一般の薬局でも、薬剤師が体調や生活について相談を受け、必要に応じて受診を勧めることはできます。

まずは、普段利用する薬局で「体重や食事の相談はできますか」「管理栄養士への相談はできますか」「必要なときに医療機関や地域包括支援センターへつないでもらえますか」と尋ねてみてください。

同じ薬局を継続して利用し、薬だけでなく、体重、食欲、食事、睡眠、排便、歩行などの変化を伝えることで、薬局側も以前との違いを捉えやすくなります。お薬手帳には、処方薬だけでなく、市販薬やサプリメントの情報もまとめておきましょう。

薬局を「病気になる前に相談する場所」へ変えるのは、制度だけではありません。薬局が相談を受ける体制を整え、地域の専門職とつながり、住民も小さな変化を話してみる。その積み重ねによって、薬局は薬を渡す場所から、地域の健康を見守る身近な拠点へ変わっていきます。

低栄養予防は、その変化を具体的な形にする取り組みの一つです。「まだ元気だから大丈夫」ではなく、元気なうちから相談できる場所が身近にあること。それが、これからの高齢社会における薬局の大切な価値になるでしょう。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」
[2] 厚生労働省「健康サポート薬局に関する省令・通知等」
[3]厚生労働省「健康サポート薬局数(令和8年3月31日時点)」
[4]厚生労働省「令和7年の薬機法等の一部改正について」
[5]厚生労働省「地域連携薬局・健康増進支援薬局の認定基準設定に係る基本的考え方」

初回公開日
2026年10月1日

最終更新日
2026年10月1日