『高齢者の低栄養を知る100の話“63”』
低栄養は以前から医療や介護の現場で知られていました。それでも、どの状態を低栄養と呼ぶのかは、施設や職種、国によって必ずしも統一されていませんでした。
「やせている」「アルブミン値が低い」「あまり食べていない」など、それぞれの指標が低栄養の目安として使われてきましたが、同じ人を見ても評価方法によって結論が異なることがありました。
この課題に対し、世界の主要な臨床栄養学会が共通の診断枠組みとして提唱したのがGLIM基準です。
GLIM基準がもたらした最大の変化は、新しい数値を一つ増やしたことではありません。低栄養を「体重や検査値だけの問題」ではなく、身体の変化と、その変化を引き起こした原因の両方から捉えるようにしたことです。
「やせている人」だけを探す考え方からの転換
低栄養というと、非常に細く、見るからに弱っている人を思い浮かべるかもしれません。しかし、体格だけでは低栄養を正確に捉えられません。
もともと細身でも、体重や筋肉量が安定し、必要な食事を取れている人がいます。一方、BMIが標準範囲にあっても、数か月の間に体重や筋肉が大きく減っている人もいます。肥満のある人の体内で筋肉量が減っていることもあります。
GLIM基準では、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少という三つの「表現型基準」を用います[1]。現在の体格だけでなく、以前からどのように変化したか、筋肉が保たれているかを見る点が重要です。
これによって、「細く見えないから大丈夫」という見逃しを減らし、体重の経過や身体組成を確認する意味が明確になりました。
低栄養の「原因」を診断に組み込んだ
GLIM基準の特徴は、身体の変化だけでなく、食事摂取量の減少・消化吸収の低下、または疾患による負荷・炎症という「病因基準」を診断に組み込んだことです。
表現型基準から一つ以上、病因基準から一つ以上に該当して、初めて低栄養と診断します[1]。
これは、低栄養を単に「食べていない状態」と見る考え方からの大きな転換です。
例えば、買い物ができず食事量が減っている人と、がんや重い感染症による炎症で筋肉の分解が進んでいる人では、同じように体重が減っていても、必要な対応は異なります。
前者には食事や生活環境への支援が中心となります。後者では栄養を補うだけでなく、原因疾患の治療や炎症への対応が不可欠です。病因を確認することによって、診断がそのまま治療方針を考える入口になります。
アルブミン中心の考え方を見直した
GLIM基準では、血液中のアルブミン値は診断項目に含まれていません。
アルブミンは、炎症、感染症、肝機能・腎機能、体内の水分量などの影響を受けます。そのため、アルブミンが低いことを、そのまま食事不足や体たんぱく質不足と考えることはできません。
日本栄養治療学会も、アルブミンやプレアルブミンは栄養状態や体たんぱく量の単純な代理指標ではなく、炎症や予後に関係する指標として捉えるべきだとしています[2]。
もちろん、アルブミンの検査が不要になったわけではありません。病状を把握するうえで重要な情報ですが、「アルブミンだけで低栄養を診断しない」という位置づけが明確になったのです。
筋肉量が診断の中心に入った
体重が同じでも、筋肉が減って脂肪や水分の割合が増えていることがあります。高齢者では、筋肉量の減少が歩行、転倒、日常生活動作、治療後の回復などに影響します。
GLIM基準が筋肉量の減少を正式な診断項目に含めたことで、体重だけでは捉えられない身体の変化に注目が集まりました。
筋肉量はCT、MRI、DEXA、生体電気インピーダンス法などで評価します。設備がない場合は、下腿周囲長などの身体計測や診察による評価も選択肢になります[3]。
ただし、筋肉量の測定方法や基準値には、年齢、性別、人種、機器などによる違いがあります。握力や歩行速度は重要な身体機能の指標ですが、筋肉量そのものとは異なります。
GLIM基準が普及したことで、こうした測定方法の標準化も新たな課題として見えるようになりました。
「リスク」と「診断」が区別された
GLIM基準では、最初にMNA-SF、MUST、NRS-2002など、妥当性が確認された方法で栄養スクリーニングを行います。その後、リスクがある人を詳しく評価して診断します。
この二段階の考え方によって、「低栄養の可能性がある人を広く見つけること」と「医学的に低栄養を診断すること」が区別されました。
地域の薬局、介護事業所、配食サービスなどで行う確認は、主に早期発見のためのスクリーニングです。そこで診断まで完結させる必要はありません。体重減少や食事量低下に気づき、詳しい評価ができる医療機関や専門職へつなぐことに価値があります。
この区別は、低栄養対策を病院の中だけでなく、地域へ広げるうえでも重要です。
低栄養を「共通言語」で伝えられるようになった
以前は、医師、管理栄養士、看護師、薬剤師、リハビリテーション専門職などが、それぞれ異なる評価方法を使うことがありました。GLIM基準は、職種や施設を超えて低栄養を説明するための共通言語になることを目指しています。
「低栄養です」とだけ伝えるのではなく、「意図しない体重減少と食事量低下がある」「筋肉量減少と疾患による炎症がある」というように、診断の根拠と原因を共有できます。
これにより、入院から退院、病院から在宅、医療から介護へと支援の場が変わっても、栄養状態を継続して伝えやすくなります。
GLIM基準だけですべてが分かるわけではない
GLIM基準は重要な進歩ですが、万能ではありません。何をどのくらい食べればよいか、食形態は安全か、生活上どのような支援が必要かまでは、診断だけでは決まりません。
筋肉量の測定方法や、地域・人種に適した基準値など、運用上の課題も残っています。2025年に公表された5年間の検証を踏まえた更新でも、GLIMの基本的な診断構造は維持されながら、評価方法の明確化と検証を続ける必要性が示されています[4]。
GLIM基準は、低栄養に名前をつけて終わるためのものではありません。身体の変化と原因を整理し、その人に必要な治療、栄養ケア、生活支援へつなぐための出発点です。
低栄養は、単なるやせでも、単なる食べ不足でも、血液検査の異常だけでもない。
GLIM基準が変えたのは、低栄養を一つの数値で見るのではなく、「何が起き、なぜ起きているのか」を共通の枠組みで考える姿勢なのです。
執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[2]日本栄養治療学会「GLIM よくあるご質問」
[3]Compher C, et al. “Guidance for assessment of the muscle mass phenotypic criterion for the Global Leadership Initiative on Malnutrition diagnosis of malnutrition.” JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2022.
[4]Cederholm T, et al. “The GLIM consensus approach to diagnosis of malnutrition: A 5-year update.” Clinical Nutrition. 2025.
[5]Cederholm T, et al. “GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition—A consensus report from the global clinical nutrition community.” Clinical Nutrition. 2019.
初回公開日
2026年10 月日
最終更新日
2026年10月2日
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