68.薬局から医療へ低栄養をつなぐことはできるのか

結論からいえば、薬局から医療へ低栄養リスクをつなぐことはできます。

ただし、薬局で低栄養を診断し、その治療を決めるという意味ではありません。薬局で見つけた体重減少、食事量低下、服薬後の変化などを客観的な情報として整理し、医師が医学的な評価を行えるように伝えることです。

薬局には、本人へ受診を勧める方法だけでなく、緊急時の電話連絡、書面による情報提供、服薬情報等提供書、いわゆるトレーシングレポートなど、医療機関へ情報を渡す複数の方法があります。

薬局が低栄養の入口になれる理由

慢性疾患の薬を服用している高齢者は、数週間から数か月ごとに薬局を訪れます。同じ薬局を継続して利用していれば、薬剤師は前回来局時との違いを捉えやすくなります。

「以前よりやせた」「歩く速度が遅くなった」「薬を飲むための食事も取れていない」「薬が増えてから食欲が落ちた」といった変化です。

薬剤師は処方薬だけでなく、市販薬、サプリメント、健康食品なども確認し、吐き気、口の渇き、味覚の変化、便秘、眠気など、食事に影響する有害事象がないかを検討できます。

厚生労働省も、かかりつけ薬剤師・薬局の役割として、服薬情報の継続的な把握、副作用や効果の確認、医療機関への受診勧奨、処方医への情報提供などを示しています[1]。

薬局は「予防の入口」としても期待されている

国の薬局政策でも、調剤や服薬指導に加え、地域住民の健康増進を支援する機能が重視されています。

2025年の薬機法改正では、従来の「健康サポート薬局」を見直し、新たに「健康増進支援薬局」の認定制度を創設することが決まりました。2027年5月20日の施行に向け、認定基準等の整備が進められています[6]。

健康増進支援薬局には、処方箋の有無にかかわらず、地域住民の健康相談に対応し、必要に応じて医療機関や地域包括支援センターなどと連携する役割が期待されています。

低栄養予防は、その役割を具体的に実践できるテーマの一つです。

薬局で体重や食事量の変化に気づき、低栄養リスクを確認し、必要に応じて医療や栄養支援につなぐ。さらに、その後の健康状態を継続して確認する。

薬局が、病気になってから薬を受け取る場所だけでなく、健康を維持するために日常的に訪れる場所になること。

こうした取り組みが広がれば、薬局は地域の身近な予防・健康増進の拠点として、より大きな役割を果たせるのではないでしょうか。

薬局で行うのは診断ではなくスクリーニング

薬局で体重を測り、MNA-SFなどを使って低栄養リスクを確認することはできます。しかし、スクリーニング結果だけで「低栄養です」と診断することはできません。

国際的なGLIM基準では、検証済みの方法で栄養リスクのある人を抽出した後、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少などの身体的変化と、食事摂取量低下、消化吸収の問題、疾患負荷・炎症などを評価して診断します[2]。

薬局の役割は、「低栄養かどうかを決めること」ではなく、「医学的な評価が必要な変化を見つけること」です。

最初に緊急性を判断する

低栄養リスクを見つけたら、まず急いで医療へつなぐ必要があるかを判断します。

水分もほとんど取れない、意識がもうろうとしている、強い息苦しさや胸痛がある、繰り返し嘔吐している、食べ物を詰まらせた、むせた後に呼吸状態が悪化したといった場合は、書面を送って返事を待つ状況ではありません。

本人を一人にせず、医療機関への電話連絡や救急要請など、状態に応じた対応を優先します。

一方、緊急ではないものの、短期間の体重減少、食事量低下の継続、薬の変更後の食欲低下、むせの増加などがある場合は、本人へ受診を勧めるとともに、医療機関へ情報提供します。

情報の伝え方を使い分ける

薬局から医療機関への連絡方法は、内容と緊急性によって異なります。

処方箋の内容に疑問があり、調剤する前に確認が必要な場合は、処方医への疑義照会を行います。

一方、直ちに処方箋の変更を求めるほど緊急ではないものの、次回診察や今後の治療で医師に知っておいてほしい情報は、服薬情報等提供書やトレーシングレポートなどで伝えることができます。厚生労働省の資料でも、薬局から医療機関への情報提供にトレーシングレポートが活用されています[3]。

低栄養リスクそのものは、処方内容の疑義とは限りません。しかし、体重減少や食事量低下と服薬状況を組み合わせた情報は、薬物療法の安全性や病状を評価するうえで重要です。

医療機関ごとに指定様式や送付方法がある場合は、それに従います。地域の医師会と薬剤師会、病院と周辺薬局などで、連絡先、緊急度の区分、返信方法をあらかじめ決めておくと連携しやすくなります。

「低栄養です」だけでは医師が判断できない

情報提供書には、スクリーニングの点数だけでなく、変化の事実を記載します。

例えば、次のようにまとめます。

情報提供書の記載例(架空の事例)

3か月前の体重52kg、今回48kgで、本人に減量の意思はありません。約1か月前から食事量が従来の半分程度に減少しています。

8月10日実施のMNA-SFは8点で、食事量低下、体重減少、歩行能力低下に該当しました。

2週間前に薬剤Aが開始され、その後から口渇と便秘が強くなったとの訴えがあります。

本人の同意を得て情報提供します。体重減少の原因および薬剤の影響を含む医学的評価の必要性について、ご検討をお願いいたします。

重要なのは、次の項目です。

  • 現在と過去の体重、減少した期間
  • 本人に減量の意思があったか
  • 食事量と水分量の変化
  • 食欲、吐き気、便秘、下痢、痛み、発熱など
  • 噛みにくさ、むせ、飲み込みにくさ
  • 薬の開始・変更時期と症状が始まった時期
  • スクリーニングの実施日、点数、該当項目
  • 医師に確認してほしいこと
  • 本人の同意と薬局の連絡先

薬が原因だと断定せず、「時期が一致している」「影響の可能性について確認をお願いしたい」と記載します。

薬局から直接送るか、本人に持参してもらうか

医療機関との連絡体制がある場合は、本人の同意を得て薬局から直接情報を送る方法があります。

連絡体制がない場合は、本人や家族に情報提供書を渡し、診察時に医師へ見せてもらう方法もあります。ただし、受診を勧めるだけでは、本人が受診しなかったり、診察で栄養の話を伝え忘れたりすることがあります。

可能であれば、いつ受診するかを確認し、必要性が高い場合は医療機関へ事前に連絡します。情報共有は原則として本人の理解と同意を得て行い、何を、誰に、どの目的で伝えるのかを説明します。

医療につないだ後も薬局の役割は続く

情報を送った時点で薬局の役割が終わるわけではありません。

次回来局時に、受診できたか、検査や薬の変更があったか、食欲や体重はどう変化したかを確認します。薬が変更された場合は、有害事象が改善したか、治療効果に問題がないかを追います。

必要に応じて、管理栄養士、歯科医師、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどへつなぐこともあります。健康サポート薬局には、地域住民から健康相談を受け、適切な職種や機関へ紹介する機能が求められています[4]。

「送った後が分からない」という課題

薬局から情報を送っても、医療機関でどのように扱われたのか分からないことがあります。厚生労働省の検討でも、薬局が情報提供した後の取扱いが薬局側に分からないことが課題として指摘されています[5]。

連携を機能させるには、医療機関から「次回診察で確認する」「検査を行った」「薬を変更した」「現時点では経過観察」といった短い返信があることが望まれます。

薬局側も、何について回答を求めているのかを明確にし、返信しやすい様式にする必要があります。

薬局から医療へ低栄養をつなぐことは、特別な例外ではありません。体重や食事の変化を服薬情報とともに整理し、医師が判断できる形で伝えることは、薬物療法の安全性を守ることにもつながります。

そして、こうした取り組みは、医療機関との連携にとどまらず、薬局が地域の健康増進や低栄養予防の拠点として機能することにもつながります。

薬局で診断を完結させず、商品を勧めるだけでも終わらせない。

「気づく、整理する、伝える、もう一度確認する」という流れをつくることが、薬局から始まる低栄養予防の基本です。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「医薬品の適正使用を推進すること」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000818577.pdf
[2]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
https://www.jspen.or.jp/glim/glim_overview
[3]厚生労働省「電子版お薬手帳ガイドラインについて」
https://www.mhlw.go.jp/content/001199653.pdf
[4]厚生労働省「健康サポート薬局に係る研修実施要綱の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc8364&dataType=1&pageNo=1
[5]厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループでの主な議論等のまとめ」
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000943201.pdf
[6]厚生労働省「医薬品医療機器等法の一部改正に伴う関係省令の整備等について」(2026年6月30日)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00td0356&dataType=1&pageNo=1

初回公開日
2026年10 月5日

最終更新日
2026年10月5日