70.病院と地域をつなぐ「栄養情報」が必要な理由

入院中に低栄養が見つかり、管理栄養士をはじめとする多職種によって栄養管理が行われても、退院しただけで栄養状態が回復するとは限りません。

病院では食事が用意され、摂取量や体重を確認できます。しかし、自宅では、本人や家族が食事を準備しなければなりません。買い物、調理、服薬、通院、介護などを含む生活の中で、栄養管理を続ける必要があります。

そのとき、入院中に何が問題となり、どのような栄養管理が行われていたのかが地域の支援者に伝わっていなければ、退院後の支援は手探りになります。

病院と地域をつなぐ栄養情報が必要なのは、単に記録を引き継ぐためではありません。入院中の栄養管理を、退院後の生活の中で続けられる支援へ変えるためです。

栄養情報がなければ、退院後の支援は「最初から」になる

例えば、入院中に体重減少と筋肉量の低下が確認され、食事の工夫や栄養補助食品によって少しずつ摂取量が改善した高齢者がいたとします。

ところが、退院後に関わるかかりつけ医、薬局、ケアマネジャー、訪問看護師、訪問介護員などへ、その経過が伝わっていなければどうなるでしょうか。

周囲の人には「無事に退院した人」に見えるかもしれません。本人も「病院から帰れたのだから、もう大丈夫」と考えることがあります。

しかし実際には、低栄養が十分に改善しておらず、退院後も注意深く体重や食事量を確認しなければならない場合があります。

入院中の栄養情報が伝わらなければ、地域では、

  • どのくらい体重が減っていたのか
  • 低栄養と診断されていたのか
  • 何が原因で食べられなかったのか
  • どの程度の食事量が必要なのか
  • 何を優先して食べるべきなのか
  • どのような状態になったら再受診が必要なのか

といったことが分かりません。

その結果、入院中に積み重ねた評価と支援が、退院と同時に途切れてしまいます。

「食事制限」だけが伝わることにも注意する

栄養情報が不十分なときに起こりやすいのが、病気に関する食事制限だけが強く残ることです。

本人や家族が、「糖尿病だから甘い物は食べてはいけない」「腎臓が悪いからたんぱく質を減らさなければならない」「心不全だから塩分を極端に減らさなければならない」と考え、食べられる物まで減らしてしまうことがあります。

病気の管理には食事の調整が必要ですが、食事量が著しく減っている高齢者では、低栄養を防ぐこととのバランスが重要です。

退院時には、禁止事項だけでなく、

  • 何をどの程度取る必要があるのか
  • 制限の中で食べてよい物は何か
  • 低栄養予防と病気の管理のどちらを優先する時期なのか
  • 食べられないときはどこへ相談するのか

まで伝える必要があります。

「控えてください」という情報だけでは、退院後の栄養ケアにはなりません。

共有したいのは、検査値だけではない

病院から地域へ共有したい栄養情報には、次のようなものがあります。

  • 入院前、入院中、退院時の体重と、その変化
  • 低栄養リスクや低栄養診断の有無
  • 低栄養になった主な原因
  • 入院中の食事摂取量と、その推移
  • 必要と考えられるエネルギー・たんぱく質量
  • 食事形態、むせ、嚥下機能に関する注意
  • 義歯や口腔内の問題
  • 病気に応じた食事制限と、その優先順位
  • 使用している栄養補助食品や経管栄養の内容
  • 食欲や消化器症状に影響する可能性のある薬
  • 退院後に確認すべき項目と時期
  • 悪化した場合の連絡先や受診の目安

厚生労働省が示す栄養管理関係の様式でも、退院時には、栄養治療の効果や今後の栄養管理上の留意点を記載し、退院先で栄養管理を担当する医師などへ情報提供することが示されています[1]。

ただし、情報は多ければよいわけではありません。長い記録をそのまま渡すだけでは、地域の支援者が何を確認すべきか分からなくなります。

「退院後も体重減少に注意する」「一日の摂取量がこの程度を下回ったら連絡する」など、地域で取るべき行動が分かる形にすることが重要です。

地域から病院へ返す情報も必要

栄養情報は、病院から地域へ渡して終わりではありません。

退院後に実際の生活が始まると、病院では予測できなかった問題が見えてきます。

例えば、本人が栄養補助食品を好まず飲んでいない、食事を作る家族がいない、義歯が合わず肉を食べられない、眠気や吐き気のため食事量が減ったということがあります。

こうした情報は、家族、訪問職、通所サービス、薬局など、本人と継続的に接する人が見つけやすいものです。

地域で把握した体重、食事量、症状、服薬状況、生活上の問題を医療機関へ返すことで、医師や管理栄養士は栄養計画や治療内容を見直せます。

必要なのは、一方向の引き継ぎではなく、

病院から地域へ計画を伝え、地域で経過を確認し、変化を病院へ返す

という循環です。

薬局は栄養情報の接続点になれるか

薬局は、病院と地域をつなぐ接続点の一つになり得ます。

退院後も処方薬を受け取るために継続して来局する人が多く、入院前から同じ薬局を利用していれば、薬の変更や体調の変化を比較できます。

薬剤師は、退院後に追加・中止された薬、複数の医療機関から処方されている薬、市販薬やサプリメントを含めて確認できます。

服薬指導の中で、

「退院してから食欲は戻りましたか」
「体重は減っていませんか」
「吐き気、便秘、口の渇きはありませんか」
「薬を飲むために食事を抜いていませんか」

と確認することで、薬の有害事象や服薬方法が食事に影響している可能性にも気づけます。

緊急性は低くても医師へ伝える必要がある情報は、トレーシングレポートなどを用いて共有できます。体重減少や食事量低下、症状、薬の変更との時間的な関係を具体的に記載すれば、医師が原因を検討する材料になります。

また、地域連携薬局には、入退院時の医療機関との情報共有や、退院時カンファレンスへの参加などが役割として位置づけられています[2]。国の検討でも、薬局薬剤師と病院薬剤師が連携し、入院時・退院時・外来時の情報連携の質を高めることが重要とされています[3]。

したがって薬局は、薬の情報だけでなく、薬と食事、体重、体調の変化を結び付けて医療へ返す役割を担える可能性があります。

薬局だけに任せればよいわけではない

ただし、すべての高齢者が同じ薬局を継続して利用しているわけではありません。また、一般の薬局が退院時の栄養情報を自動的に受け取れる仕組みが整っているわけでもありません。

食事内容や必要栄養量の評価は管理栄養士、病気の診断や治療は医師、生活全体の調整はケアマネジャー、家庭での食事状況の把握は訪問介護員や訪問看護師など、それぞれに専門性があります。

薬局はすべてを引き受ける場所ではなく、継続来局という接点を生かして変化を見つけ、適切な専門職へ情報をつなぐ場所と考えるのが現実的です。

薬局に管理栄養士がいる場合や、地域の管理栄養士と連携できる場合には、食事内容の評価や具体的な改善支援まで行いやすくなります。

「誰が見るか」まで決めて初めて情報は生きる

栄養情報提供書を作成しても、誰も確認せず、次の行動につながらなければ意味がありません。

退院時には、

  • 誰が体重を確認するのか
  • 誰が食事量を確認するのか
  • 誰が薬の影響を確認するのか
  • 誰が必要に応じて管理栄養士につなぐのか
  • どのような変化を医師へ報告するのか
  • 次にいつ栄養状態を評価するのか

まで決めておくことが理想です。

病院と地域をつなぐ栄養情報とは、単なる書類ではありません。

入院中に行われた栄養管理を生活の中で続け、地域で見つかった変化を再び医療へ戻すための共通言語です。

薬局を含む地域のさまざまな接点がその情報を活用し、「伝えた」で終わらず、「確認し、必要な支援につなぎ、結果を返す」ところまで担うことで、退院後の低栄養悪化を防ぐ切れ目のない栄養ケアに近づきます。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「栄養管理に関する様式等」
[2]厚生労働省「地域連携薬局及び専門医療機関連携薬局の認定基準に関する留意事項について」
[3]厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ資料」
[4]厚生労働省「薬局機能情報提供制度の考え方及び報告に当たっての留意点について」
[5]厚生労働省「令和8年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」

初回公開日
2026年10月5日

最終更新日
2026年10月5日