71.「フレイル予防」が広がった今、あえて低栄養に注目する理由

「フレイル予防」という言葉は、自治体の健康教室、地域の通いの場、医療・介護の現場などで広く使われるようになりました。

フレイルとは、加齢によって心身の働きや社会とのつながりが弱くなり、病気や転倒などの小さな出来事をきっかけに、生活機能が大きく低下しやすくなった状態です。

フレイル予防では、栄養、身体活動、社会参加の三つが重要とされています[1]。どれか一つだけに取り組めばよいわけではありません。

それでも、あえて低栄養に注目するのはなぜでしょうか。

それは、低栄養がフレイルの重要な要因であるだけでなく、病気、薬、口腔機能、生活環境、社会的孤立など、さまざまな問題が表れる「共通のサイン」になり得るからです。

フレイルは、幅広いからこそ具体的な支援が難しい

フレイルには、筋力や歩行能力が低下する身体的な問題だけでなく、認知機能や気分に関する精神・心理的な問題、人との交流や社会参加が減る社会的な問題も含まれます。

この幅広さは、フレイルという考え方の大きな意義です。一人の高齢者を、病気や身体機能だけでなく、暮らし全体から考えられるようになりました。

一方で、対象が広いほど、「結局、誰が、何を確認し、どのように支援するのか」が曖昧になりやすい面もあります。

フレイル予防教室を開いて体操をする、社会参加を呼びかける、食生活について説明するといった取り組みは大切です。しかし、すでに食事量が減り、体重が落ちている人に、一般的な健康情報を提供するだけでは十分ではありません。

フレイルという大きな概念を、個別の発見と支援へ落とし込むためには、具体的な入口が必要です。その一つが低栄養です。

低栄養は、フレイルの原因にも結果にもなる

食事から十分なエネルギーやたんぱく質を取れなくなると、体は筋肉を分解して不足分を補おうとします。

筋肉量が減れば、歩く速度や握力が低下し、疲れやすくなります。外出が減り、人と会わなくなれば、活動量も食欲も低下します。

すると、さらに食べる量が減り、低栄養が進みます。

食べられない
↓
筋肉と体力が低下する
↓
動かなくなる
↓
買い物や調理が難しくなる
↓
さらに食べられなくなる

低栄養とフレイルは、このような悪循環を形成します。

反対に、社会的な孤立、認知機能の低下、抑うつ、口腔機能の低下などが先に起こり、その結果として食事量が減り、低栄養になることもあります。

つまり、低栄養はフレイルの一部であると同時に、フレイルを進行させる要因であり、すでに生活上の問題が起きていることを知らせる結果でもあります。

厚生労働省も、低栄養をフレイルを招く重要な因子として位置づけ、転倒予防や介護予防、健康寿命の延伸という観点から、その予防が重要であるとしています[2]。

体重と食事量は、地域でも確認しやすい

低栄養に注目するもう一つの理由は、特別な検査設備がない地域でも変化を捉えやすいことです。

例えば、次のような項目は、家族、薬局、デイサービス、訪問介護、配食サービス、地域の通いの場などでも確認できます。

  • 体重が減っていないか
  • 一日の食事回数が減っていないか
  • 一食の量が以前より少なくなっていないか
  • 肉、魚、卵、乳製品などを食べているか
  • 食欲が低下していないか
  • 噛みにくさやむせがないか
  • 買い物や調理に困っていないか

「最近元気がない」という印象だけでは、変化の程度を共有しにくいことがあります。

一方、「3か月で3kg減った」「一日3食から2食になった」「主食を半分残すようになった」という情報であれば、家族や専門職の間で共有でき、経過を追うこともできます。

もちろん、体重だけで低栄養を判断することはできません。それでも、体重と食事量を継続して確認することは、変化に気づくための現実的な入口になります。

低栄養を見ると、隠れた原因が見えてくる

低栄養に注目することは、単に「もっと食べてもらうこと」ではありません。

大切なのは、なぜ食べられなくなったのかを考えることです。

食欲低下の背景に、がん、感染症、心不全、呼吸器疾患、消化器疾患などが隠れていることがあります。新しく始まった薬による吐き気、眠気、口の渇き、便秘、味覚の変化が影響している場合もあります。

歯の痛み、義歯の不具合、噛む力や飲み込む力の低下が原因かもしれません。配偶者との死別、経済的な問題、買い物に行けないこと、料理ができなくなったことが関係している可能性もあります。

低栄養という入口から原因をたどることで、医療、歯科、薬局、栄養、介護、生活支援など、必要な支援先が見えてきます。

低栄養は、身体的フレイルだけを見る指標ではありません。精神・心理的な問題や社会的な問題を発見する手がかりにもなります。

「やせていないから大丈夫」とは限らない

低栄養という言葉から、非常にやせている人だけを想像することがあります。

しかし、体格だけでは栄養状態を十分に判断できません。

もともと体重が多い人でも、病気や食欲低下によって短期間に体重が減っていることがあります。体重が保たれているように見えても、食事内容が偏り、筋肉量が減っている場合もあります。

肥満と筋肉量の減少が併存する、いわゆるサルコペニア肥満にも注意が必要です。

現在のBMIだけで「太っているから低栄養ではない」と判断せず、以前からの体重変化、食事量、筋肉量、活動状況などを組み合わせて考える必要があります。

厚生労働省の令和5年国民健康・栄養調査では、65歳以上でBMI20以下の「低栄養傾向」にある人は、男性12.2%、女性22.4%でした[2]。ただし、この数字はBMIによる把握であり、BMIが20を超えていても、意図しない体重減少や筋肉量低下がある人を見落とさないことが重要です。

低栄養は医療につなぐ判断材料になる

フレイルは、地域で早く気づき、運動、食事、社会参加などを通じて改善を目指せる状態です。

しかし、低栄養が疑われるときには、一般的な介護予防だけで対応してよいのか、医療的な評価が必要なのかを考えなければなりません。

短期間の大きな体重減少、長く続く食欲低下、痛み、発熱、息切れ、下痢、嘔吐、嚥下障害などがあれば、病気が隠れている可能性があります。

また、低栄養は医学的な診断の対象でもあります。GLIM基準では、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少などと、食事摂取量低下、消化吸収の問題、病気による負荷・炎症などを組み合わせて診断します[3]。

低栄養に注目することで、地域のフレイル予防と医療をつなぐ判断材料が得られます。

低栄養予防だけでフレイルを防げるわけではない

ここで注意したいのは、低栄養予防だけですべてのフレイルを防げるわけではないということです。

十分に食べていても、活動量が極端に少なければ筋力は低下します。人とのつながりが失われれば、意欲や認知機能に影響することがあります。

反対に、運動だけを勧めても、食事量が不足していれば、筋肉を維持・増加させるための材料が足りません。社会参加を勧めても、低栄養によって体力が落ちていれば、外出そのものが難しくなります。

栄養、身体活動、社会参加は、互いに支え合う関係にあります。

低栄養に注目するのは、栄養だけですべてを解決するためではありません。低栄養という具体的な変化を入口にして、その人に起きている身体・心理・社会・医療上の問題を見つけ、必要な支援へつなぐためです。

フレイル予防という考え方が広がった今こそ、「食べられているか」「体重が減っていないか」という基本的な問いを、地域の日常的な接点に組み込む必要があります。

フレイルを幅広く捉えながら、低栄養を見逃さない。

その両方を行うことが、フレイル予防を単なる啓発で終わらせず、一人ひとりへの具体的な支援に変えるために重要です。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]日本老年医学会、日本老年歯科医学会、日本サルコペニア・フレイル学会「オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント」
[厚生労働省「そのカギを握るのはフレイル予防だ」
[厚生労働省・健康日本21アクション支援システム「高齢者の低栄養予防」
[4]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[5]厚生労働省「食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業」

初回公開日
2026年10月6日

最終更新日
2026年10月6日