72. フレイルと低栄養、何が違うのかをもう一度整理する

フレイルと低栄養は密接に関係していますが、同じものではありません。

フレイルは、加齢によって心身の予備力が低下し、病気や転倒などをきっかけに生活機能が大きく悪化しやすくなった状態を捉える概念です。身体的な衰えだけでなく、認知機能や気分、人とのつながり、社会参加なども含みます。

一方、低栄養は、体に必要なエネルギーや栄養素を十分に取れない、あるいは病気などによって必要量が増え、栄養状態を維持できなくなった状態です。

フレイルは高齢者を広く捉えるための「全体図」であり、低栄養は、その全体図の中から具体的な問題を発見し、原因と支援先を考えるための「入口」と整理できます。

フレイルと低栄養の違い

両者の主な違いを整理すると、次のようになります。

視点フレイル低栄養
捉える範囲身体・心理・認知・社会面を広く捉える栄養状態と、その原因を中心に捉える
主な目的要介護状態への進行を防ぐ栄養状態の悪化を防ぎ、改善を図る
確認項目筋力、歩行、疲労、活動、社会参加など体重、BMI、筋肉量、食事量、炎症など
医療との関係予防・介護・地域活動が中心になりやすい医学的な評価・診断・治療につなげられる
支援方法運動、栄養、社会参加など多面的原因に応じた医療、栄養、口腔、薬、生活支援
経過確認複数領域を総合的に再評価する体重や食事量などの変化を追いやすい

フレイルの強みは、幅広い問題を一体的に捉えられることです。しかし、その幅広さゆえに、実際の現場では「誰が何をするのか」が曖昧になることがあります。

低栄養は対象を栄養状態に絞るため、確認する項目、原因の探し方、つなぐ相手、支援後の評価を具体化しやすいという特徴があります。

フレイルチェックが「気づき」で終わることがある

地域では、通いの場や健康イベントなどでフレイルチェックが行われています。高齢者が自分の変化に気づき、運動、食事、社会参加の重要性を知る機会として大きな意味があります。

一方で、チェックを実施した後、

  • 結果を誰に伝えるのか
  • ハイリスク者に誰が連絡するのか
  • 医療や介護につなぐ基準は何か
  • その後の状態を誰が確認するのか
  • 次回のチェックまで何を行うのか

が決まっていなければ、その場限りの啓発になりかねません。

厚生労働省が紹介する地域事例でも、フレイルチェックで健康上の不安がある高齢者を把握しても、地域包括支援センターとの連携が担当者の判断に委ねられ、体系的な支援につながっていなかったという課題が示されています[1]。

フレイルチェックそのものに問題があるのではありません。発見後の支援経路が設計されていないことが問題なのです。

低栄養は「次に何をするか」を考えやすい

低栄養リスクが見つかった場合は、次の行動を比較的明確にできます。

まず、体重減少、BMI、筋肉量、食事量などを確認します。そのうえで、なぜ食べられないのか、なぜ栄養状態が悪化したのかを考えます。

例えば、

  • 病気や炎症が疑われるなら医療機関
  • 薬の影響が疑われるなら薬剤師や処方医
  • 歯や義歯の問題なら歯科
  • むせや嚥下機能の低下なら医師、歯科医師、言語聴覚士
  • 食事内容や必要栄養量なら管理栄養士
  • 買い物や調理の問題ならケアマネジャーや生活支援サービス
  • 孤立や経済的な問題なら地域包括支援センターや行政窓口

というように、原因に応じて支援先を考えられます。

低栄養対策は「たくさん食べてもらうこと」ではありません。低栄養という変化を手がかりに、その背景にある病気や生活上の問題を探し、解決につなげる取り組みです。

低栄養は医学的に評価・診断できる

フレイルにも複数の評価方法がありますが、評価結果がそのまま特定の病気の診断や治療に結びつくとは限りません。

一方、低栄養は医学的な評価・診断の対象です。

国際的なGLIM基準では、検証済みの方法で低栄養リスクをスクリーニングした後、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少などの「表現型基準」と、食事摂取量低下、消化吸収の問題、病気による負荷・炎症などの「病因基準」を組み合わせて診断します[2]。

ここで重要なのは、GLIM基準が低栄養の有無だけでなく、その原因を考える仕組みになっていることです。

体重が減ったという情報から、食べられていないのか、消化吸収できていないのか、病気による炎症があるのかを考えます。そのため、地域で見つけた変化を医療機関へ伝える際にも、具体的な情報として共有しやすくなります。

ただし、地域で行うスクリーニングと、医療専門職による診断は区別しなければなりません。MNA-SFなどでリスクが示されたことだけをもって、「低栄養と診断された」と扱わないよう注意が必要です。

補助事業だけに依存すると継続が難しくなる

フレイル予防は、自治体の健康教室、モデル事業、イベントなどとして行われることがあります。公的な事業は、地域全体への啓発や、支援の仕組みをつくるうえで重要です。

しかし、期間限定の予算で専門職を配置し、事業終了後の担当者や費用が確保されていなければ、チェックや支援が続かなくなることがあります。

厚生労働省の資料でも、高齢者保健事業について、イベント的な取り組みや単年度実施で終わらせず、既存事業を活用しながら継続的に実施する必要性が示されています[3]。

低栄養予防も補助金だけに依存すれば、同じ問題が起こります。

重要なのは、薬局への来局、診療、訪問看護、訪問介護、デイサービス、配食など、すでに高齢者との接点がある通常業務の中へ、体重や食事量の確認を組み込むことです。

新しいイベントを毎回開催しなくても、日常的な接点で、

見つける
↓
原因の手がかりを集める
↓
必要な専門職へつなぐ
↓
次回に変化を確認する

という流れをつくることができれば、継続性は高まります。

低栄養予防は事業としても成立させやすいのか

低栄養予防に取り組むことが、自動的に利益につながるわけではありません。しかし、既存業務の価値を高める形で設計できる可能性があります。

薬局であれば、服薬指導の際に体重や食欲を確認し、薬による有害事象の把握、処方医への情報提供、管理栄養士との連携、継続的なフォローにつなげられます。

デイサービスでは、食事摂取量や体重変化の確認をケアの質の向上に活用できます。配食サービスでは、弁当が残っている、受け取り時の元気がないといった変化を見守りにつなげられます。

こうした取り組みは、相談機能の充実、サービスの差別化、利用者や家族からの信頼、継続利用、多職種連携などにつながる可能性があります。必要性が確認された場合には、栄養相談、訪問支援、配食、栄養補助食品などの適切なサービスへつなぐこともできます。

ただし、商品販売を目的に低栄養と決めつけたり、医学的な評価を経ずに一律の商品を勧めたりしてはいけません。

本人の健康上の利益を第一に、評価、原因探索、専門職連携を行った結果として、事業上の価値も生まれるという順序が重要です。

フレイルを全体図、低栄養を具体的な入口にする

フレイルは、高齢者の身体、心、社会生活を幅広く捉えるために欠かせない考え方です。低栄養だけに注目すれば、運動不足、認知機能低下、社会的孤立などを見落とす可能性があります。

一方、フレイルという言葉だけでは、具体的な原因や支援先が決まらないことがあります。

そのため、両者を競わせるのではなく、役割を分けて考えることが大切です。

フレイルで全体の変化に気づき、低栄養を具体的に評価し、原因に応じて医療・介護・生活支援へつなぐ。

低栄養に注目する価値は、フレイル予防を食事の啓発に限定することではありません。地域での気づきを、医学的な評価、原因の解決、継続的な支援へ進めやすくすることにあります。

フレイルが高齢者の状態を捉える「地図」だとすれば、低栄養は、その地図上で支援を始めるための具体的な「住所」です。

両方を組み合わせることで、地域のフレイル予防を、単発のチェックから継続可能な仕組みへ変えていくことができます。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「庁内外との連携を活かしたフレイル予防の推進と医療専門職の効果的な関わり方」
[2]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[3]厚生労働省「高齢者保健事業推進の取り組み―健康寿命の延伸に向けた地域の実践」
[4]厚生労働省「高齢者の医療の確保に関する法律に基づく高齢者保健事業の実施等に関する指針」
[5]厚生労働省「そのカギを握るのはフレイル予防だ」

初回公開日
2026年10月6日

最終更新日
2026年10月6日