『高齢者の低栄養を知る100の話“73”』
地域の通いの場、健康教室、薬局、医療機関などでフレイルチェックを受け、「フレイルの可能性があります」と言われることがあります。
しかし、そこで「運動しましょう」「バランスよく食べましょう」と説明されただけでは、具体的に何をすればよいのか分かりません。
そもそも、フレイルは一つの原因で起こるものではありません。食事量の低下、筋力低下、病気、薬の影響、口腔機能の低下、認知機能の変化、孤立、経済的な問題など、複数の要因が重なって起こります。
そのため、フレイルチェックの次に必要なのは、一律の健康指導ではなく、「どの領域に問題があり、何が原因となっているのか」を整理することです。
フレイルチェックはゴールではありません。その後の評価と支援を始めるための入口です。
フレイルチェックは診断ではない
まず理解しておきたいのは、フレイルチェックの結果だけで、病気や低栄養が診断されたわけではないということです。
質問票や簡易測定は、身体、食事、口腔、認知、気分、社会参加などの変化に気づくために行われます。
「フレイルに該当したから、すぐに要介護になる」という意味でもありません。フレイルは、早く気づいて適切な支援を行うことで、進行を緩やかにしたり、状態を改善したりできる可能性があります。
本人には、
今すぐ介護が必要という意味ではありません。いくつか気になる変化があるので、その原因を一緒に確認しましょう。
と説明するとよいでしょう。
「あなたはフレイルです」と結果だけを告げると、本人が「もう年だから仕方がない」と諦めたり、不安になったりすることがあります。
最初に、医療を優先すべき状態を確認する
フレイルと判定されても、すべてを介護予防教室や生活改善で対応できるとは限りません。
次のような変化がある場合は、運動や食事の指導よりも先に、医療機関への相談を考えます。
- 短期間で体重が大きく減った
- 食欲低下や強い疲労感が続いている
- 発熱、痛み、息切れ、動悸がある
- 急に歩けなくなった、転倒を繰り返している
- 水分や食事をほとんど取れない
- 食事のたびに強くむせる
- 急に物忘れや混乱が強くなった
- 気分の落ち込みが強く、生活に支障が出ている
こうした変化の背景には、感染症、心不全、呼吸器疾患、がん、貧血、内分泌疾患、神経疾患、うつ、薬の有害事象などが隠れていることがあります。
「年齢によるフレイル」と決めつけず、急な変化や原因不明の悪化は、医学的に評価する必要があります。
何がフレイルにつながっているかを分けて考える
緊急性がない場合は、チェックで問題となった項目を、次のような領域に分けて整理します。
栄養・体重
体重が減った、食事回数が少ない、食欲がない、肉や魚を食べなくなった場合は、低栄養リスクを詳しく確認します。
現在の体重だけでなく、以前の体重、減少した期間、食事量の変化を確認します。必要に応じてMNA-SFなどの検証済みツールを用い、低栄養リスクがあれば管理栄養士や医療機関につなぎます。
口腔・嚥下
固い物が噛めない、むせる、口が乾く、義歯が合わない場合は、歯科医師や歯科衛生士などへの相談を考えます。
口の問題を残したまま「たんぱく質を取りましょう」と説明しても、本人が肉や魚を食べられなければ実行できません。
厚生労働省の通いの場向けマニュアルでも、質問票等で口腔機能の低下が疑われる人を把握し、口腔機能向上の取り組みや歯科医療機関との連携につなぐことが示されています[1]。
筋力・身体活動
歩行速度の低下、立ち上がりにくさ、握力低下などがあれば、転倒歴、痛み、病気、活動量を確認します。
運動を始める場合も、全員に同じ体操を勧めるのではなく、本人の体力や病気に合わせる必要があります。必要に応じて医師や理学療法士などに相談します。
筋肉を維持するためには運動だけでなく、十分なエネルギーとたんぱく質も必要です。食事量が少ない人に運動だけを勧めないことも重要です。
薬・病気
薬を追加・変更してから、食欲低下、眠気、ふらつき、便秘、口の渇きなどが起きていないかを確認します。
複数の医療機関から薬が処方されている場合は、市販薬やサプリメントも含めて薬剤師に整理してもらいます。薬は本人の判断で中止せず、必要に応じて薬剤師から処方医へ情報を伝えます。
認知・気分
服薬や食事を忘れる、同じ物ばかり買う、料理の手順が分からなくなった場合は、認知機能の変化が関係している可能性があります。
配偶者との死別などをきっかけに食欲や意欲が低下している場合は、抑うつや孤立にも注意します。本人の様子を家族、かかりつけ医、地域包括支援センターなどと共有します。
生活・社会参加
買い物に行けない、料理ができない、経済的に食費を減らしている、一人で食べることが多いといった問題は、健康指導だけでは解決できません。
配食サービス、訪問介護、移動支援、通いの場、生活困窮に関する相談窓口など、地域の支援へつなぐ必要があります。
すべてを一度に改善しようとしない
フレイルの原因が複数見つかると、本人に多くの改善項目を伝えたくなります。
しかし、「毎日運動する」「三食食べる」「外出する」「口腔体操をする」「薬を正しく飲む」を一度に求めると、負担が大きくなり、何も始められないことがあります。
まずは本人が困っていることを聞き、優先する課題を一つか二つに絞ります。
例えば、
- 朝食を抜いている人は、食べやすい物を一品追加する
- 買い物が難しい人は、宅配や配食を週数回利用する
- 義歯が痛い人は、食事指導より先に歯科を受診する
- 薬で眠気がある人は、薬局から処方医へ情報を伝える
- 外出機会がない人は、参加できそうな地域活動を一つ探す
というように、本人の生活で実行できる目標を決めます。
支援者が決めた目標ではなく、本人が「これならできそう」と思えることから始めるのが基本です。
「どこを紹介したか」ではなく「つながったか」を確認する
フレイルチェック後に相談窓口や専門職を紹介しても、実際に利用できるとは限りません。
予約方法が分からない、移動手段がない、費用が心配、家族に迷惑をかけたくないなどの理由で、支援につながらないことがあります。
そのため、支援する側は次のことを決めておく必要があります。
- 誰が本人に結果を説明するか
- 誰が必要な支援先へ連絡するか
- 本人の同意を得て、どの情報を共有するか
- 誰が受診やサービス利用を確認するか
- 次にいつ状態を見直すか
厚生労働省は、後期高齢者の質問票について、結果を健診・医療・介護情報と組み合わせ、必要な保健事業や医療機関受診につなげ、行動変容や事業評価にも活用することを示しています[2]。
つまり、質問票は配布・回収するためのものではなく、その後の支援と再評価に使うものです。
再評価して初めて、支援の効果が分かる
フレイルの状態は固定されたものではありません。病気や生活環境によって改善することも、悪化することもあります。
支援を始めた後は、状態に応じて数週間後から数か月後に、
- 体重や食事量
- 歩行や立ち上がり
- 転倒の有無
- 口腔機能
- 外出や交流の回数
- 気分や生活への満足度
- 本人が決めた目標の実行状況
などを確認します。
改善していなければ、本人の努力不足と考えるのではなく、原因の見立てや支援方法が合っていたかを見直します。
薬局への次回来局、デイサービスの利用日、訪問介護や配食時の確認など、本人が普段利用している場所を再評価の機会にすることもできます。
フレイルチェックで重要なのは、「フレイルの人を何人見つけたか」だけではありません。
見つかった人が必要な医療・栄養・口腔・運動・生活支援につながり、その後どう変化したかまで確認することです。
フレイルチェック
↓
問題の領域を整理する
↓
原因を探す
↓
必要な支援へつなぐ
↓
経過を確認して見直す
この流れがあって初めて、フレイルチェックはその場限りの健康イベントではなく、要介護状態への進行を防ぐための継続的な支援になります。
執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]厚生労働省「通いの場で活かすオーラルフレイル対応マニュアル〈2020年版〉」
[2]厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について」
[3]厚生労働省「庁内外との連携を活かしたフレイル予防の推進と医療専門職の効果的な関わり方」
[4]厚生労働省「市民サポーターを核とした地域でのフレイル予防の取組」
[5]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
初回公開日
2026年10月6日
最終更新日
2026年10月6日
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