『高齢者の低栄養を知る100の話“93”』
病院は、病気を診断し、治療するために欠かせない場所です。しかし、高齢者の生活時間の大部分は病院の外にあります。
食事量が減った、体重が落ちた、外出しなくなった。こうした変化は地域で少しずつ進みます。本人が受診しなければ、医療機関は気づけません。
だからこそ、病院の外にも健康状態の変化を捉え、必要な支援へつなぐ仕組みが必要です。
新しい施設が目的ではない
「地域に健康を支える仕組みをつくる」と聞くと、新しい相談窓口や健康センターを思い浮かべるかもしれません。
しかし、新しい場所を設けても、健康に関心のある人だけが参加し、支援が必要な人へ届かないことがあります。
重要なのは、特別な場所を増やすことより、すでに高齢者が利用している場所へ健康を支える機能を加えることです。
薬局、スーパー、配食、デイサービス、訪問介護などには日常的な接点があります。来局、買い物、配達などの中で変化を確認できれば、本人が相談窓口へ出向かなくても支援の入口をつくれます。
そして、こうした地域の接点を医療や専門的な健康支援へ結びつける役割として、薬局には大きな可能性があります。
必要なのは五つの機能
病院の外で健康を支える仕組みには、少なくとも五つの機能が必要です。
一つ目は、繰り返し出会える「接点」です。 一度限りの測定会ではなく、変化を比較できることが重要です。
二つ目は、「気づく」機能です。 体重、食事量、歩行、むせ、服薬状況などを、短時間でも一定の方法で確認します。
三つ目は、「見極める」機能です。 緊急性や専門的評価の必要性を確認します。診断するのではなく、医療機関などへつなぐための基準を用意します。
四つ目は、「つなぐ」機能です。 医療、歯科、栄養、介護、生活支援へ、本人の同意を得て、いつから何が変化したのかを具体的に伝えます。
五つ目は、「追跡する」機能です。 受診や支援につながったか、食事量や体重は変わったかを確認します。
この五つが循環して、地域での気づきが健康支援になります。
薬局は、地域の健康増進を支える拠点になれる
この五つの機能を地域で実現するうえで、薬局は重要な役割を担うことができます。
薬局は、地域住民が日常的に利用する身近な場所です。特に慢性疾患を抱える高齢者にとっては、定期的に訪れる機会があり、服薬状況だけでなく、体調や生活の変化について相談できる接点でもあります。
また、薬局には薬剤師という医療専門職が常駐し、医療機関との連絡体制もあります。管理栄養士等と連携することで、低栄養やフレイルのリスク把握、栄養相談、生活習慣の改善支援などにも取り組めます。
こうした役割は、国の政策においても重視されるようになっています。
2025年の薬機法改正により、従来の健康サポート薬局の届出制度は、「健康増進支援薬局」として都道府県知事による認定制度へ移行することが決まり、2027年5月の施行が予定されています。
これは、薬局が調剤や服薬指導だけでなく、地域住民の健康維持・増進や疾病予防を支える拠点として、役割を強めていく方向性を示しています[5][6]。
さらに、厚生労働省は2026年度、健康増進支援薬局の認定制度化を見据え、薬局が行政機関や保険者等と連携して地域住民の健康増進に取り組むモデル事業を設けています[7]。
重要なのは、薬局だけで健康課題を解決しようとすることではありません。
例えば、配食事業者が食事の残量の増加に気づく、スーパーの従業員が高齢者の様子の変化に気づく、介護職員が体重減少に気づく。こうした情報を、本人の同意のもとで地域の薬局や関係する専門職へつなぐことができれば、早期の健康支援につながります。
地域のさまざまな場所が健康状態の変化に気づく入口となり、薬局が専門的な確認や相談、医療・介護への橋渡しを担う。
このような連携が広がれば、薬局は薬を受け取る場所から、健康なときから相談でき、健康状態の変化に応じて必要な支援へつながる地域の健康増進拠点へと発展していきます。
病院の代わりをつくるわけではない
病院外の仕組みは、医療行為や診断を地域の事業者へ移すものではありません。
低栄養の背景が病気、薬、口腔、認知機能、生活上の問題のどれかは、詳しく調べなければ分かりません。急激な体重減少や強い症状があれば、受診が必要です。
地域の役割は病院の代わりになることではなく、医療が必要な人を早く見つけることです。そして、治療後の生活を支え、再び悪化の兆候があれば医療へ返します。
薬局も同様です。低栄養のリスクを把握することと、医学的に低栄養を診断することは異なります。
薬局で把握した体重減少や食事量低下などの情報を医師へ伝え、必要な医学的評価や治療につなぐ。その後も薬局や地域の関係者が継続して状態を確認することで、医療と日常生活を結ぶことができます。
厚生労働省も、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施において、通いの場などを活用した健康状態の把握や、必要な医療・介護サービス等への接続を重視しています[1][4]。
共通の情報が連携を支える
「最近少し元気がない」という情報だけでは、受け取る側が対応を判断しにくくなります。
体重、変化した期間、食事量、症状、薬の変更、生活上の困り事などを、共通の様式で簡潔に伝えます。
例えば、薬局で栄養スクリーニングを行い、その結果を医療機関や管理栄養士と共有することができれば、地域で得られた情報を専門的な評価や支援に活用できます。
一方、配食事業者やスーパーなどの一般事業者には、専門的な評価を求めるのではなく、気になる変化に気づき、相談先を案内する役割が期待されます。
誰が情報を受け取り、本人へ連絡し、経過を確認するのかも決めます。個人情報の共有は、緊急時など法令上認められる場合を除き、本人へ目的と共有先を説明し、必要な同意を得ることが基本です。
地域包括ケアシステムも、住まい、医療、介護、予防、生活支援を別々に置くのではなく、一体的に提供する考え方です[2]。
届きにくい人ほど意識する
健康教室や通いの場へ参加できる人だけを対象にすると、閉じこもり、認知機能低下、経済的困難、移動手段のない人などが取り残されます。
来局、配食、訪問、買い物といった複数の接点を組み合わせ、支援につながっていない人を見つける視点が必要です。
薬局に来られる人だけを対象にするのではなく、地域の事業者や自治体、地域包括支援センターなどと連携し、薬局に足を運ぶ機会の少ない人にも健康支援を届けることが重要です。
健康日本21(第三次)も、「誰一人取り残さない健康づくり」を掲げています[3]。
日常業務として続く形にする
仕組みを継続するには、専門職の善意や期間限定の補助事業だけに依存できません。
確認項目を絞って通常業務に組み込み、相談先と連絡方法を標準化します。発見数だけでなく、支援につながった割合やその後の状態を評価し、運用を改善します。
薬局においても、特別なイベントとして健康チェックを実施するだけではなく、日常の来局や服薬指導、健康相談の中で無理なく継続できる仕組みが必要です。
さらに、健康相談を通じて地域住民との接点が増え、継続的な来局や健康支援サービスの利用につながるなど、薬局自身にも取り組みを続ける意義が生まれることが大切です。
自治体による初期支援や地域の関係者との協働をきっかけに、将来的には薬局や民間事業者が主体的に継続できる仕組みを目指すことが望まれます。
地域住民にとって健康を守る身近な拠点となり、薬局にとっても地域から必要とされる役割を確立すること。 その両方が実現してこそ、持続可能な健康支援の仕組みになります。
地域の健康を、日常の中で支える
病院の外に健康を支える仕組みをつくるとは、地域のあらゆる場所を医療機関に変えることではありません。
暮らしの中の小さな変化を見逃さず、必要なときは医療へつなぎ、治療後は再び地域で支える。
その中心的な拠点の一つとして薬局が機能し、地域のさまざまな事業者や専門職とつながることで、健康なときから継続的に健康を支える仕組みが生まれます。
この循環を日常の中につくることが、健康寿命の延伸と、誰もが住み慣れた地域で暮らし続けられる社会につながるのです。
執筆者: 一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]厚生労働省「令和8年度 地域における医薬品提供体制等の構築・強化に係るモデル事業」
[2厚生労働省「高齢者の医療の確保に関する法律に基づく高齢者保健事業の実施等に関する指針」
[3]厚生労働省「地域包括ケアシステム」
[4]厚生労働省 e-ヘルスネット「健康日本21(第三次)」
[5]厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について」
[6]厚生労働省「地域における薬局・薬剤師のあり方について(第8回検討会資料)」
[7]厚生労働省「地域連携薬局・健康増進支援薬局の認定基準設定に係る基本的考え方について(これまでの議論の整理)」および「令和7年薬機法等改正について」
初回公開日
2026年10月19日
最終更新日
2026年10月19日
「高齢者の低栄養予防」についてお気軽にお問い合わせください!
・低栄養のチェックやアドバイスを行ってくれる薬局について聞きたい
・配食サービスについて教えてほしい
・健康支援型配食サービスを導入したい
・低栄養予防事業を健康増進支援薬局の一環として進めたい
・栄養ケア支援システムについて話を聞いたみたい
・フレイルケア食(たんぱく補助・食欲増進等)の販売について相談したい
・低栄養予防事業を自治体として進めたい(自治体に提案したい)
・高齢者施設や通所施設において、栄養ケアの取り組みを進めたい
・退院後の栄養ケアを実施している薬局を教えてほしい
・高齢者向けフレイルケア食の開発や販売を拡大したい
・事業連携や情報交換・意見交換をしたい 他