92.「治療」から「予防」へ――でも予防は誰が担う?

「これからは治療だけでなく予防が重要だ」と、さまざまな場面で言われるようになりました。

病気になれば受診先がありますが、まだ病気とは言えない変化を誰が見つけ、支援するのかは明確でないことがあります。

「地域全体で取り組む」という言葉だけでは、責任者が曖昧になります。予防を機能させるには、担い手ごとの役割と発見後の流れを決める必要があります。

本人と家族だけに任せることはできない

予防の出発点には、本人による食事、運動、口腔ケアなどがあります。家族が体重や食事量の変化に気づくことも大切です。

ただし、予防を本人や家族の努力だけに任せることはできません。

低栄養の背景には、病気、薬、口腔や嚥下、認知機能、経済面、買い物や調理の問題などがあります。本人には原因が分からず、支援を求められないこともあります。

健康日本21(第三次)も、個人の行動だけでなく、自然に健康になれる環境や社会とのつながりなど、社会環境の質を向上させることを基本的な方向に掲げています[1]。

予防は自己責任ではなく、本人の取り組みを地域の仕組みが支えるものです。

医療職だけでも担い切れない

医師は診断と治療、管理栄養士は栄養評価と食事支援、薬剤師は薬の影響、歯科職は口腔の問題を確認できます。

しかし、医療職が毎日の食事や生活を見られるわけではありません。本人が受診しなければ、変化に出会えないこともあります。

そこで重要になるのが、薬局、訪問介護、デイサービス、配食サービス、通いの場、スーパーなど、暮らしの中にある接点です。体重が減った、弁当を残す、同じ物しか買わない、歩き方が弱くなったといった変化は、日常的に接する人が見つけやすいものです。

ただし、地域の事業者が低栄養を診断したり、病気の有無を判断したりするわけではありません。その役割は、変化に気づき、情報を整理し、適切な専門職へつなぐことです。

行政と保険者には仕組みをつくる役割がある

市町村や保険者は、健診や医療・介護のデータから地域の課題と対象者を把握し、事業を設計できます。

また、関係機関が連携できるよう、共通の連絡方法や相談先を整える役割もあります。

厚生労働省は、高齢者の保健事業と介護予防を一体的に実施し、通いの場などで低栄養等の支援対象者を把握して、必要な医療・介護サービスへつなぐことを示しています[2]。

行政がすべてを直接行う必要はありませんが、誰が発見し、つなぎ、経過を確認するのかという基本設計は必要です。

「発見した後」の責任者を決める

予防事業で起こりやすいのが、健康教室や測定会でリスクを見つけても、その後が分からないという問題です。

「受診してください」と伝えるだけでは、予約や移動ができないなどの理由で支援が途切れます。

そこで、本人の同意を得たうえで情報を受け取り、受診や専門職への相談状況を確認する調整役が必要です。地域包括支援センター、かかりつけ医、ケアマネジャー、かかりつけ薬局など、本人の状況によって適任者は異なります。

大切なのは、すべてを一人が抱えることではなく、「次に確認する人」を決めておくことです。

善意や補助事業だけに依存しない

予防が単発の補助事業や専門職の善意だけで運営されると、予算や担当者が変わった時点で終わってしまいます。

継続するには、日常業務のどこで確認するか、必要な時間と費用を誰が負担するか、情報をどう共有するか、成果をどう評価するかまで設計しなければなりません。

薬局での来局時確認、配食時の見守り、介護サービスでの定期評価など、すでにある接点へ無理なく組み込むことが重要です。地域包括ケアシステムも、医療、介護、予防、住まい、生活支援を一体的に提供する考え方です[3]。

予防を担うのは、特定の一職種ではありません。本人と家族、行政と保険者、医療・介護の専門職、地域の事業者が、それぞれ異なる役割を担います。

ただし、「みんなで担う」は「誰でもよい」という意味ではありません。発見、評価、介入、連携、経過確認の担当を明確にして初めて、予防はその場限りの活動ではなく、地域の日常的な仕組みになるのです。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について」
[2]厚生労働省 e-ヘルスネット「健康日本21(第三次)」
[3]厚生労働省「高齢者保健事業の実施等に関する指針」
[4]厚生労働省「地域包括ケアシステム」

初回公開日
2026年10月19日

最終更新日
2026年10月19日