97.テクノロジーは低栄養予防をどう変えるのか

低栄養予防では、体重、食事量、病気、服薬、生活状況などを継続して確認します。

紙と記憶だけでは比較に時間がかかり、薬局、医療、介護などの間で情報が途切れやすくなります。

テクノロジーは低栄養を治しませんが、気づき、連携、経過確認を支え、地域の予防を変える可能性があります。

スクリーニングを短時間で標準化できる

薬局や介護の現場で低栄養を確認するには、誰が実施しても同じ項目を確認できることが重要です。

タブレットなどでMNA-SFの質問に沿って入力すれば、確認漏れや計算間違いを減らし、詳しい評価が必要な人を抽出できます。

薬局では、まず体重減少や食事量を短く質問し、該当者だけ詳しいスクリーニングへ進めます。

ただし、画面に表示された点数は診断ではありません。結果の意味を理解し、症状や生活状況も含めて人が判断する必要があります。

「その日の数値」を「変化の記録」に変える

一度の体重やBMIだけでは、低栄養を見逃すことがあります。重要なのは、以前と比べてどう変化したかです。

デジタル記録なら、体重や食事量を時系列で表示できます。薬局やデイサービスで記録を重ねれば、緩やかな変化も捉えやすくなります。

体重計などから自動収集する方法もありますが、むくみ、脱水、測定条件で数値は変わります。警告の理由を本人に確認します。

専門職へ伝わる情報に整えられる

「最近、少しやせたようです」という連絡だけでは、医師や管理栄養士が対応を判断しにくいことがあります。

体重の推移、食事量、症状、薬の変更などを整理して情報提供書にすれば、簡潔に共有できます。

薬局が服薬情報を加えて医師へ送り、介入結果を地域へ返す。テクノロジーは、この情報の往復を支えます。

離れた場所から専門職が関われる

地域によっては、管理栄養士や嚥下の専門職が身近にいないことがあります。

オンライン相談なら、薬局や介護事業所の情報を基に、離れた場所の専門職が助言できます。食事記録の共有も可能です。

ただし、画面越しでは口腔内や嚥下状態を十分に評価できない場合があります。対面での診察や評価が必要な状態を見極めるルールが必要です。

AIは判断を助けても、責任を引き受けない

AIは、体重減少の傾向や薬と症状の関係を示し、情報提供書の下書きを作る用途に活用できます。

しかし、AIには誤りや偏りがあり得ます。診断や薬の変更は任せず、専門職が元の情報と本人の状況を確認して判断します。

個人情報とデジタル格差に注意する

栄養状態や病気、薬は重要な個人情報です。利用目的と共有範囲を明確にして同意を得て、アクセス権限や誤送信にも対策します。個人情報保護委員会は医療・介護分野のガイダンスを示しています[1]。

また、スマートフォンを使えない人を取り残してはいけません。本人に入力を求めるだけでなく、薬局や介護職が対面で聞き取り、入力を支援できる仕組みにします。

テクノロジーの導入を目的にしない

新しい機器やアプリを導入しても、誰が結果を確認し、どこへつなぎ、その後を追うのかが決まっていなければ、データが増えるだけです。

導入前に、解決したい課題、利用する人、業務の流れ、責任者、評価指標を決めます。WHOも、デジタル技術は機能する保健医療システムの代わりにはならず、効果、実行可能性、資源、公平性などを検討すべきだとしています[2]。

低栄養予防を変えるのは、テクノロジーそのものではありません。薬局などの地域の接点と専門職をつなぎ、発見から継続支援までの流れを、正確で途切れにくいものにする使い方なのです。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
[2]World Health Organization「Recommendations on digital interventions for health system strengthening」
[3]World Health Organization「Classification of digital interventions, services and applications in health」
[4]日本栄養治療学会「GLIM基準について」

初回公開日
2026年10月22日

最終更新日
2026年10月22日