98.全国にある薬局を「健康を相談する場所」にできないか

薬局は、処方された薬を受け取る場所と思われがちです。しかし、病気が重くなる前の小さな変化を相談できる場所として、もっと活用できないでしょうか。

厚生労働省の衛生行政報告例によると、国内には6万を超える薬局があります[1]。地域によって配置や機能に差はありますが、全国にこれだけ多く存在し、高齢者が繰り返し訪れる医療の窓口は貴重です。

低栄養予防でも、薬局は「発見」と「医療・生活への接続」を担える可能性があります。

繰り返し会うから変化に気づける

高齢者の低栄養は、本人が自覚しないまま進むことがあります。「少しやせた」「食事を残すようになった」「外出が減った」といった変化は、一度の面談だけでは分かりません。

薬局では、継続して薬を受け取る人と定期的に顔を合わせます。前回より歩く速度が遅い、服がゆるくなった、会話に元気がないなど、数値になりにくい変化にも気づけます。

介護サービスをまだ利用していない高齢者と接点を持てることも、薬局の強みです。病院と生活の間にある身近な場所だからこそ、支援が必要になる前の段階で声をかけられます。

薬と食事を一緒に確認できる

食欲低下の背景には、病気だけでなく、薬による吐き気、口の渇き、便秘、眠気、味覚の変化などが隠れている場合があります。

薬剤師は、処方薬、市販薬、サプリメントを確認し、服用開始や変更の時期と食事量の変化を照らし合わせられます。問題が疑われても、本人の判断で薬を中止させるのではなく、必要な情報を処方医へ伝えることが重要です。

ただし、薬局は低栄養を診断する場所ではありません。体重減少や食事量低下を捉え、緊急性を見極め、医師や管理栄養士などにつなぐ入口です。

まずは短い確認から始める

すべての来局者に詳しい栄養評価を行う必要はありません。例えば高齢者に、次の二つを尋ねるだけでも入口になります。

  • 半年以内に、意図せず体重が減りましたか
  • 最近、食べる量が減っていますか

変化があれば、体重、減少した期間、食事回数、むせ、口の状態、服薬変更などを確認します。必要に応じてMNA-SFなどのスクリーニングを行い、結果を本人に説明したうえで、かかりつけ医、管理栄養士、歯科、ケアマネジャー、地域包括支援センターへつなぎます。

次回来局時に、受診できたか、食事量や体重がどうなったかを確認できれば、紹介して終わらない支援になります。

すべての薬局に同じ機能は求められない

現実には、調剤業務が集中する時間帯、人員不足、相談場所の確保、栄養に関する研修、地域の連絡先との関係づくりなどに課題があります。相談対応を薬剤師個人の善意だけに任せれば、長続きしません。

そこで、すべての薬局には「気づいて、つなぐ」という最低限の役割を置き、体制の整った薬局が詳しいスクリーニングや継続支援を担う、地域内の役割分担が現実的です。薬局以外から医療機関や地域包括支援センターへ直接つなぐ経路も残します。

国も「攻めの予防医療」と薬局の健康増進機能を推進

こうした薬局の役割は、国の政策とも重なっています。

厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン」で、薬局を医療機関の門前から、かかりつけ、そして地域へと転換する方向を示してきました[2]。

さらに、2025年の薬機法改正によって創設された**「健康増進支援薬局」の認定制度が、2027年5月20日から施行されます**[3]。

これは、薬局が医薬品の適正使用を支えるだけでなく、地域住民の健康相談や健康増進、疾病予防にも関わることを制度として後押しするものです。

また、政府は国会での施政方針演説において「攻めの予防医療」を掲げ、健康寿命の延伸を目指す方針を示しています[4]。

2026年7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」では、健康増進、疾病予防、早期発見、早期介入、行動変容を関係機関が連携して進めることが明記されました。さらに、栄養・食生活に関する健康リテラシーの向上や、地域住民の健康増進に資する薬局機能、薬剤師の役割の強化も盛り込まれています[5]。

病気になってから治療するだけでなく、健康なうちから状態を確認し、リスクを早期に見つけ、重症化する前に介入する。 そのための身近な拠点として、薬局の可能性は広がっています。

特に低栄養予防は、薬局が医療、介護、自治体、食品・配食事業者などと連携するきっかけにもなります。栄養状態を確認することから、食生活の改善、運動、社会参加、必要な医療への接続まで、地域にあるさまざまな支援につなげられるからです。

薬局を、地域の健康を支える身近な入口へ

大切なのは、認定を取得して看板を掲げることだけではなく、相談後の連絡先と支援の流れが決まっていることです。

そして、薬局を訪れる理由も、処方箋があるときだけに限る必要はありません。健康なうちから定期的に栄養状態を確認したり、食事や生活について相談したりする。そんな利用が地域に根づけば、薬局は病気の人だけでなく、健康を維持したい人にとっても身近な存在になります。

全国の薬局が小さな入口となり、地域の医療・介護・食の支援につながれば、低栄養を重くなる前に見つける網を広げられます。

薬局を「薬を渡す場所」から、「薬も食事も生活も相談できる場所」へ。

健康増進支援薬局の制度開始と「攻めの予防医療」の推進は、そうした転換を進める契機となります。限られた人材で地域の健康を支えるためにも、既存の薬局という社会資源を生かすことは、現実的な選択肢の一つです。


参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「衛生行政報告例」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/36-19.html
[2]厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000102179.html
[3]厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令の公布について」(2026年6月30日)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00td0356&dataType=1&pageNo=1
[4]首相官邸「第221回国会における内閣総理大臣施政方針演説」(2026年2月20日)https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0220shiseihoshin.html
[5]内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(2026年7月21日閣議決定)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001750957.pdf

初回公開日
2026年10月23日

最終更新日
2026年10月23日