99.「健康になるために行く場所って、どこだろう?」

具合が悪くなったときに行く場所を尋ねれば、多くの人が病院や診療所を思い浮かべます。では、健康でいるため、あるいは健康を取り戻すために行く場所はどこでしょうか。

運動するなら体育館やフィットネスクラブ、食事ならスーパーや飲食店、交流なら公民館や通いの場があります。しかし、「最近やせた」「食欲がない」「足腰が弱ってきた」と感じたとき、健康状態をまとめて相談し、必要な支援へつないでもらえる場所は、意外にはっきりしていません。

健康は病院の中だけでつくられるものではない

病院や診療所は、病気の診断と治療を担う重要な場所です。一方、日々の健康を左右するのは、食事、運動、睡眠、人との交流、買い物や移動など、暮らしの積み重ねです。

低栄養も、病院を受診したときだけに始まる問題ではありません。一人暮らしになって食事が簡単になった、歯が痛くて肉を避けるようになった、薬を変更してから食欲が落ちた、外出しなくなり食事回数も減った。こうした小さな変化が重なって進みます。

厚生労働省の「健康日本21(第三次)」でも、個人の行動だけでなく、社会環境の質を向上させ、誰もが自然に健康づくりに取り組める環境を整える考え方が示されています[1]。

健康を本人の努力だけに委ねるのではなく、日常生活の中に相談と支援の入口を置く必要があります。

特別な場所を新しくつくる必要はない

健康相談のための大きな施設を、すべての地域に新設することは現実的ではありません。大切なのは、すでに住民が利用している場所を健康づくりの接点として生かすことです。

例えば、薬局、歯科、スーパー、配食サービス、地域の食堂、通いの場、デイサービス、訪問介護などです。それぞれが専門外の判断まで行うのではなく、日常の変化に気づき、適切な相手へつなげばよいのです。

配食スタッフが「弁当を残すようになった」と気づき、本人の同意を得て家族や地域包括支援センターへ伝える。スーパーで買い物に困っている人に声をかけ、相談先を案内する。通いの場で体重を定期的に確認する。こうした接点が重なるほど、支援からこぼれ落ちる人を減らせます。

厚生労働省も、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施において、通いの場だけでなく、商店街やショッピングセンターなどの日常生活の拠点で健康相談を行う環境づくりを示しています[2]。

健康のために新しい場所をつくるのではなく、今ある場所に健康づくりの機能を加えていく。 それが、地域全体で予防に取り組むための現実的な方法ではないでしょうか。

薬局を「最初に相談する場所」の一つに

その中でも薬局は、健康と医療をつなぐ入口になりやすい場所です。高齢者が繰り返し訪れ、服薬情報を確認でき、必要な場合は処方医へ情報を伝えられます。

「最近、食べる量が減っていませんか」「体重は変わっていませんか」という短い確認から、低栄養リスク、薬の影響、受診の必要性を考えることができます。相談後も、次回来局時に経過を確認できます。

もちろん、すべてを薬局経由にする必要はありません。緊急性が高ければ医療機関へ、生活上の問題なら地域包括支援センターやケアマネジャーへ、食事の具体的な調整なら管理栄養士へ直接つなぐことも必要です。

厚生労働省が示す「患者のための薬局ビジョン」も、薬局を医療機関の門前から、かかりつけ、そして地域へ移していく方向を掲げています[3]。薬局が診断や治療を代替するのではなく、住民が迷ったときに最初の相談を受け、適切な専門職へ案内する役割です。

国が進める「攻めの予防医療」と健康増進支援薬局

こうした地域の健康づくりは、国の政策とも重なっています。

2026年の国会における施政方針演説では「攻めの予防医療」が掲げられ、健康寿命の延伸に向けて予防医療を具体化する方針が示されました[4]。

さらに、2026年7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」では、健康増進、疾病予防、早期発見、早期介入、行動変容を関係機関が連携して進めることが明記されています。

その中には、栄養・食生活に関する健康リテラシーの向上や、地域住民の健康増進に資する薬局機能、薬剤師の役割の強化も盛り込まれています[5]。

また、厚生労働省が公表した「U.E.N.O.Plan」では、栄養・食生活が「攻めの予防医療」の重点領域の一つに位置づけられました[6]。

こうした政策の流れの中で、2025年の薬機法改正によって創設された**「健康増進支援薬局」の認定制度が、2027年5月20日から施行されます**[7]。

これまでの健康サポート薬局の仕組みを発展させ、地域住民の健康相談や健康増進を支援する薬局を、法令に基づく認定制度として位置づけるものです。

薬局は、病気になった人が薬を受け取る場所であると同時に、健康な人や、まだ病気と診断されていない人が、健康について相談できる場所としての役割も期待されています。

例えば、薬局で低栄養のリスクに気づいた人が、管理栄養士による栄養相談を受ける。運動の機会が必要な人が、地域の運動教室やフィットネスクラブにつながる。食事の準備が難しい人が、配食サービスや地域の食支援を利用する。

薬局だけで健康上の課題を解決するのではなく、薬局を入口の一つとして、地域にすでに存在する健康づくりのサービスや専門職につなげていく。

健康増進支援薬局の制度は、そうした地域の連携を進める契機にもなり得ます。

「健康になる場所」は地域全体

結局、健康になるために行く場所は、一つではありません。

食べる場所、買う場所、運動する場所、人と会う場所、薬を受け取る場所。そのすべてが、健康を支える場所になり得ます。必要なのは、それぞれが孤立せず、異変を見つけた後の連絡先と役割を共有することです。

そして、地域の事業者にとっても、健康づくりへの参加が新しい利用者との接点や、サービスの価値を高める機会につながれば、行政の支援だけに頼らない、継続的な取り組みへと発展する可能性があります。

病気になってから病院へ行くだけでなく、元気なうちから身近な場所で相談できる。薬局も、スーパーも、地域の食堂も、運動施設も、それぞれの役割を通じて健康づくりに関わる。

「健康になるために、わざわざ特別な場所へ行く」のではなく、「いつもの場所で、当たり前に健康づくりができる」。

健康増進支援薬局の制度開始や、国が進める「攻めの予防医療」を、そうした地域づくりにつなげていくことが大切です。

それが、低栄養予防を特別な事業から、地域の日常に根づいた仕組みへと変えていく一歩になるのではないでしょうか。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「健康日本21(第三次)」
[2]厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の施行に向けた体制整備等について」
[3]厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」
[4]首相官邸「第221回国会における内閣総理大臣施政方針演説」(2026年2月20日)
[5]内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(2026年7月21日閣議決定)
[6]厚生労働省「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」(2026年7月23日)
[7]厚生労働省「健康増進支援薬局の認定制度等に係る関係省令の整備について」(2026年6月30日)

初回公開日
2026年10月24日

最終更新日
2026年10月24日