『高齢者の低栄養を知る100の話⑪』
「以前より疲れやすくなった」「少し歩いただけで休みたくなる」。高齢になると、こうした変化を「体力が落ちたから仕方がない」と考えがちです。
しかし、疲れやすさは年齢だけで起こるものではありません。身体に必要なエネルギーや栄養素が不足している場合や、低栄養によって筋肉が減っている場合にも現れることがあります。
一方で、疲れやすさの原因は低栄養だけではありません。病気や薬の影響が隠れていることもあるため、「栄養をとれば治る」と自己判断しないことが大切です。
低栄養で疲れやすくなる理由
身体は、食事から得たエネルギーを使って、歩く、呼吸する、体温を保つ、内臓を働かせるといった活動を続けています。食事量が減り、必要なエネルギーを確保できなくなると、身体を動かすための余力が少なくなります。
また、エネルギーやたんぱく質の不足が続くと、身体は筋肉を分解して不足分を補おうとします。筋肉量や筋力が低下すれば、それまで簡単にできていた動作にも多くの力が必要になります。
例えば、近所の店まで歩く、階段を上る、洗濯物を干すといった日常動作だけでも疲れやすくなります。「体力がなくなった」と感じている背景に、低栄養やサルコペニアが関係している可能性があります。
公的な健康情報でも、低栄養では体重減少や筋肉量・筋力の低下に加え、「元気がない」といった変化が見られると説明されています。[1]
疲れるから動かない、動かないから食べられない
疲れやすくなると、外出や家事を避けるようになります。活動量が減れば、筋肉を使う機会が少なくなり、筋力低下がさらに進みます。
身体を動かさなくなると空腹を感じにくくなり、食事量が減ることもあります。買い物や料理が負担になれば、食べる食品の種類も少なくなります。
低栄養→筋力低下→疲れやすい→活動量低下→食欲低下→さらなる低栄養
疲れやすさは、この悪循環の途中に現れる重要なサインです。厚生労働省が紹介するフレイルの評価でも、「疲れやすさ」は体重減少、活動量低下、歩行速度低下、筋力低下と並ぶ確認項目の一つです。[2]
栄養不足による貧血の可能性もある
鉄、ビタミンB12、葉酸、たんぱく質などは、血液をつくるために必要です。食事の偏りや吸収の問題によってこれらが不足すると、貧血につながる場合があります。
貧血では、疲れやすさ、だるさ、動悸、息切れなどが現れることがあります。ただし、高齢者の貧血は栄養不足だけでなく、消化管からの出血、腎臓病、炎症、悪性腫瘍などによって起こることもあります。[3]
「鉄分をとればよい」と自己判断せず、疲れやすさや息切れが続く場合は、医療機関で原因を確認することが重要です。
疲れやすさにはさまざまな原因がある
疲れは、睡眠不足や運動不足だけでなく、感染症、心臓や肺の病気、糖尿病、甲状腺疾患、腎臓病、肝臓病、貧血、抑うつなど、さまざまな状態で現れます。
薬の種類によっては、眠気、ふらつき、血圧低下、だるさなどが生じる場合もあります。複数の薬を使用している人では、それぞれの薬だけでなく、組み合わせや服用時間も確認が必要になることがあります。
米国国立老化研究所も、高齢者の疲労には多くの病気や治療、薬、心理的なストレスなどが関係し、数週間続く場合は医療者への相談を勧めています。[4]
疲れやすさは病名ではなく、身体からのサインです。低栄養は重要な原因の一つですが、それだけに絞らないことが大切です。
以前と比べた変化を見る
疲れやすさを考えるときには、次の点を確認してみましょう。
- いつ頃から疲れやすくなったか
- どのような動作で疲れるか
- 休めば回復するか
- 食事量や食べる食品が減っていないか
- 体重が意図せず減っていないか
- 歩く速度や立ち上がる力が変わっていないか
- 薬を始めたり変更したりした時期と重ならないか
- 睡眠や気分、外出頻度に変化がないか
本人が「疲れる」と言わなくても、座っている時間が増えた、昼寝が長くなった、買い物に行かなくなった、家事を途中でやめるようになったといった行動の変化に表れることがあります。
受診を考えたい疲れやすさ
疲れやすさが数週間続く、日常生活に支障が出ている、体重減少や食欲低下を伴う場合は、かかりつけ医などに相談しましょう。
特に、突然の強いだるさ、胸の痛み、強い息苦しさ、意識がぼんやりする、片側の手足が動かしにくいといった症状がある場合は、低栄養の問題と考えず、速やかな医療対応が必要です。発熱、むくみ、黒い便、動悸などがある場合も、早めに医療機関へ伝えてください。
栄養と活動の両方を確認する
低栄養が関係している場合でも、単にたくさん食べればよいとは限りません。噛みにくさ、病気、薬、気分の落ち込み、買い物の困難など、食べられなくなった原因を探すことが必要です。
必要な栄養を確保したうえで、体調に合った範囲で身体を動かす「食べる→動く」が、筋肉と体力を守る基本です。ただし、原因が分からない疲れや強い症状があるときは、無理に運動を始めず、まず医療機関に相談してください。
「疲れやすくなった」は、単なる老化ではなく、低栄養や病気を早く見つけるきっかけになります。歳のせいで終わらせず、食事、体重、筋力、睡眠、薬、病気を一緒に見直すことが大切です。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
- 公益財団法人長寿科学振興財団「高齢者の低栄養」
- 厚生労働省「高齢者の低栄養予防」
- 公益財団法人長寿科学振興財団「貧血」
- National Institute on Aging “Fatigue in Older Adults”
- Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022.
初回公開日
2026年9月2日
最終更新日
2026年9月2日
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