『高齢者の低栄養を知る100の話⑩』
「高齢になれば、食が細くなるのは当たり前」。そう思って、食事量の低下をそのままにしていないでしょうか。
確かに、年齢を重ねると、若い頃より必要なエネルギー量が少なくなったり、一度に食べられる量が減ったりすることがあります。しかし、「高齢だから」という説明だけで、食べられなくなった原因が分かるわけではありません。
以前より明らかに食事量が減った場合には、身体、病気や薬、こころ、生活環境のどこかに変化が起きている可能性があります。
加齢による食欲低下はある
高齢になると、味やにおいの感じ方、胃の動き、食欲を調整する仕組みなどが変化し、空腹を感じにくくなったり、少量で満腹になったりすることがあります。こうした加齢に伴う食欲低下は「加齢性食欲不振」と呼ばれることがあります。[1]
ただし、これは「高齢者は食べられなくても仕方がない」という意味ではありません。加齢による変化に加えて、治療や支援が必要な原因が重なっていることも多いからです。
特に、最近になって急に食事量が減った場合や、減少が続いている場合には、単なる加齢と決めつけないことが大切です。
「食欲がない」の一言では分からない
本人が「食欲がない」と話していても、その中身はさまざまです。
- お腹がすかない
- 食べるとすぐ満腹になる
- 食べ物の味やにおいが変に感じる
- 歯や入れ歯が痛くて噛めない
- 飲み込むときにむせるのが怖い
- 吐き気、便秘、腹痛がある
- 身体がだるく、食べる姿勢を保てない
- 料理や片づけをする気力がない
- 一人で食べてもおいしくない
どれも「食が細くなった」と表現されますが、必要な対応は異なります。「もっと食べて」と声をかけるだけでは、原因が解決しないことがあります。
口の問題が隠れていることがある
歯の欠損、合わない入れ歯、口の乾燥、舌や唇の動きの低下などがあると、食べられる食品が限られます。
硬い肉や野菜を避け、麺類、おかゆ、パンなど、軟らかいものだけを選ぶようになるかもしれません。食事回数は変わらなくても、エネルギーやたんぱく質などが不足しやすくなります。
厚生労働省も、口腔機能の低下によって食品の選択肢が狭くなり、体重減少や低栄養のリスクにつながると説明しています。[2]
食事時間が長くなった、食べこぼしが増えた、硬い食品を残す、食事中や食後にむせるといった変化は、口や飲み込みの状態を確認する手がかりです。
病気や薬の影響を見逃さない
食欲低下は、感染症、消化器の病気、心臓や肺の病気、がん、認知機能の低下、抑うつなど、さまざまな病気で起こる可能性があります。痛み、息苦しさ、発熱、便秘、吐き気などによって、食事が進まなくなることもあります。
薬の種類によっては、吐き気、便秘、口の乾き、眠気、味覚の変化などが生じ、食事量に影響する場合があります。
「薬を飲み始めてから食欲が落ちた気がする」というときは、自己判断で薬を減らしたり中止したりせず、医師や薬剤師に伝えてください。薬そのものだけでなく、薬を飲むための水分や服用時間が負担になっていることもあります。
こころと暮らしも食事を変える
配偶者や友人との死別、孤独、気分の落ち込み、認知機能の変化などによって、食事への関心が薄れることがあります。抑うつでは、悲しさより先に食欲低下やだるさが目立つ人もいます。[3]
買い物に行けない、重い荷物を運べない、台所に長く立てない、経済的に食品を選べないといった生活上の問題もあります。
食べることは、本人の意思だけで成り立っているわけではありません。「食べない人」と見るのではなく、「食べることを難しくしているものは何か」と考える必要があります。
食事量の低下が悪循環の入口になる
食べる量が減ると、エネルギーやたんぱく質が不足し、体重や筋肉が減りやすくなります。筋力が低下すると、外出、買い物、調理が難しくなり、活動量も減ります。動かなくなると空腹を感じにくくなり、さらに食事量が減ります。
食事量の低下→低栄養→筋力低下→活動量低下→食欲低下→さらなる低栄養
高齢期には、運動だけを勧めるのではなく、まず動くための栄養を確保する「食べる→動く」の順番が大切です。
何を確認すればよいのか
「食べていますか」と尋ねるだけでなく、以前と比べた変化を具体的に確認しましょう。
- 一食の量が減っていないか
- 食べ残しが増えていないか
- 避けるようになった食品はないか
- 食事にかかる時間が長くなっていないか
- 体重や腕、脚の太さが変わっていないか
- 薬を始めた時期と重なっていないか
- 一人で食べる日や欠食が増えていないか
急に食べられなくなった、数日間ほとんど食事や水分がとれない、意図しない体重減少が続く、発熱、痛み、息苦しさ、嘔吐、強いだるさ、むせなどを伴う場合は、早めに医療機関へ相談してください。
高齢者の「食が細くなった」は、年齢そのものではなく、身体や暮らしの変化を知らせる言葉かもしれません。「歳のせい」で終わらせず、いつから、何が、どのように食べにくくなったのかを確かめることが、低栄養の予防と必要な医療につなげる第一歩です。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
- Wysokiński A, et al. Mechanisms of the anorexia of aging—a review. Age. 2015.
- 厚生労働省「口腔機能の健康への影響」
- National Institute on Aging “Depression and Older Adults”
- Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022.
- Landi F, et al. Anorexia of Aging: Risk Factors, Consequences, and Potential Treatments. Nutrients. 2016.
初回公開日
2026年9月1日
最終更新日
2026年9月1日
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