15.一人暮らしの高齢者はなぜ低栄養になりやすい?

一人暮らしでも、買い物や調理を楽しみ、十分な食事を取って元気に暮らしている高齢者は大勢います。そのため、「一人暮らし=低栄養」と決めつけることはできません。

一方で、一人暮らしでは、体調や生活環境が少し変化しただけで食生活が崩れやすく、その変化を周囲が発見するまでに時間がかかることがあります。低栄養になりやすいのは、一人で暮らしていること自体よりも、食事の準備、健康状態、人とのつながりなど、複数の問題が重なりやすいためです。

自分一人のための食事は簡単になりやすい

一人分の食事を毎回用意するのは、意外に手間がかかります。「自分だけだから」「作っても余るから」と、パンや麺、お茶漬けだけで済ませたり、おかずを作る回数が減ったりすることがあります。

同じものを続けて食べても、本人は「三食食べているから大丈夫」と考えているかもしれません。しかし、食事回数が保たれていても、主食だけに偏り、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などが少なければ、筋肉を保つためのたんぱく質が不足しやすくなります。食事全体の量が少なければ、身体を動かすエネルギーも不足します。

厚生労働省は、高齢者の低栄養の要因として、独居などの環境変化や行動範囲の低下が、欠食や食物摂取不足につながることを挙げています。[1]

食欲を支えていたものが失われることもある

食事は、空腹を満たすだけの行為ではありません。家族との会話、決まった食事時間、「誰かのために作る」という役割などが、食べる意欲を支えていることがあります。

配偶者との死別や家族構成の変化をきっかけに、一人暮らしになった場合は、悲しみや生活リズムの変化が食欲に影響することもあります。食卓に座らず、テレビを見ながら少量をつまむだけになり、本人も一日にどの程度食べたのか分からなくなる場合があります。

ただし、「一人で食べること」と「孤独を感じていること」は同じではありません。一人の食事を気楽に楽しめる人もいます。見るべきなのは家族の有無だけではなく、本人が孤立していないか、困ったときに相談できる相手がいるかという点です。

社会的孤立や孤独感と低栄養リスクとの関連も報告されていますが、原因と結果は単純ではなく、健康状態や生活条件なども含めて考える必要があります。[2]

体調不良が食生活の崩れに直結する

家族と暮らしていれば、発熱や痛みで食べられないときに、食事を用意してもらえることがあります。一人暮らしでは、数日の体調不良でも、買い物や調理が止まり、そのまま欠食が続く可能性があります。

膝や腰の痛み、息切れ、視力低下、手の震え、認知機能の低下なども、買い物や調理を難しくします。歯や入れ歯の不具合、むせ、便秘、薬による吐き気や口の渇きがあっても、誰にも伝えず我慢していることがあります。

食べられないことで筋力が落ちると、さらに買い物や調理が難しくなります。

「食べられない→動けない→食事を用意できない→さらに食べられない」

という悪循環が、一人暮らしでは短期間に進むことがあります。

「食べている?」では分からない

家族が電話で「ちゃんと食べている?」と聞くと、「食べているよ」と答える人が多いでしょう。心配をかけたくない、自分では問題だと思っていない、何を食べたか思い出せない、といったこともあります。

次のように具体的に確認すると、変化に気づきやすくなります。

  • 昨日の朝、昼、夕食に何を食べたか
  • この半年で体重が減っていないか
  • 冷蔵庫に同じ食品ばかり残っていないか
  • 賞味期限切れの食品や空の冷蔵庫が目立たないか
  • 以前より服や指輪が緩くなっていないか
  • 買い物、調理、後片づけで困ることはないか
  • 硬いものが食べにくい、むせるといった変化がないか

一度の確認で判断せず、体重や食事内容の変化を継続して見ることが大切です。

一人でも食事を保てる仕組みをつくる

毎日手の込んだ料理を作る必要はありません。ご飯やパンなどの主食に、卵、豆腐、納豆、魚・肉の缶詰、乳製品などを組み合わせます。冷凍食品や総菜、配食サービスも、食事を確保するための選択肢です。大切なのは、何でも手作りすることではなく、無理なく食べ続けられる方法を持つことです。

さらに、定期的に体重を測る、家族が食事内容を具体的に確認する、配食や訪問サービスを利用する、地域の集まりに参加するなど、変化に誰かが気づける接点をつくります。厚生労働省が紹介する自治体事業でも、独居高齢者へのフレイルチェックを通じて、栄養や口腔機能のリスクが高い人を把握する取り組みが行われています。[3]

急な食欲低下、意図しない体重減少、強いだるさ、発熱、痛み、吐き気、飲み込みにくさ、物忘れの進行などがある場合は、「一人暮らしだから食事が簡単になった」と片づけず、かかりつけ医に相談してください。

一人暮らしでも、必要な食事を取り、元気に生活することはできます。そのために必要なのは、本人の努力だけではありません。食事を確保する方法と、変化に気づき、相談できるつながりを日常の中に持つこと。それが、一人暮らしの高齢者を低栄養から守る基盤になります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防
[2] Tsang JPY, et al. “Social Factors, Dietary Intake and the Nutritional Status of Community-Dwelling Older Adults: A Systematic Review
[3] 厚生労働省「システムを活用した低栄養高齢者把握を中心とした事業検討―神奈川県伊勢原市

初回公開日
2026年9月7日

最終更新日
2026年9月7日