52.訪問介護の現場だから見える「食」の変化

「食事は取れていますか」と尋ねると、本人は「大丈夫です」「食べています」と答えるかもしれません。

しかし、訪問介護員が台所に入ると、別の様子が見えてくることがあります。

冷蔵庫に食品がほとんどない。前回作った料理がそのまま残っている。同じ菓子パンばかり置かれている。食器を片付けた形跡がない――。

診察室で本人の話を聞くだけでは分からない、実際の食生活です。

訪問介護員は、高齢者が暮らしている場所に入り、買い物、調理、配膳、食事、後片付けまでの生活を見ることができます。だからこそ、低栄養につながる小さな変化を早く見つけられる可能性があります。

「食べているか」ではなく「何を、どのくらい食べたか」

食卓に料理が並んでいても、本人が十分に食べているとは限りません。

確認したいのは、食事を用意したかどうかだけでなく、実際の摂取量です。

  • 料理を半分以上残している
  • 主食だけ食べ、おかずを残している
  • 肉や魚など噛みにくい食品を避けている
  • 数口で食事をやめてしまう
  • 食事に以前より長い時間がかかる
  • 食べている途中で疲れてしまう
  • 飲み物をほとんど取っていない

こうした変化が続けば、エネルギー、たんぱく質、水分などが不足する可能性があります。

厚生労働省が示す訪問介護の食事介助に関する評価項目でも、摂取した食事・水分量を確認して記録することや、調理中のコミュニケーションを通じて利用者の状態を観察することが挙げられています。[1]

「食事を提供した」で終わらず、「食べられたか」まで見ることが重要です。

冷蔵庫や台所は食生活を映す

訪問介護の現場では、本人の同意やサービスの範囲に配慮しながら、冷蔵庫や台所の状態から食生活の変化を把握できます。

例えば、次のようなサインがあります。

  • 冷蔵庫が空になっている
  • 賞味期限切れの食品が増えた
  • 同じ食品が大量に残っている
  • 開封した食品が放置されている
  • 配食弁当が手つかずで残っている
  • 調味料や調理器具を使わなくなった
  • ご飯を炊いた形跡がない
  • 食器や調理器具を洗えなくなった
  • ごみの中に未開封の食品がある
  • 菓子、パン、麺類だけで済ませている

本人は「食欲がない」とは言わなくても、台所には食べられていない事実が残っていることがあります。

ただし、冷蔵庫の中を見て「食生活が悪い」と評価するのではありません。なぜその状態になったのかを考えることが大切です。

買い物と調理の変化から原因が見える

食事量が減る背景には、食欲以外の問題もあります。

買い物では、

  • 店まで歩けなくなった
  • 重い食品を持って帰れない
  • 商品を選べなくなった
  • 支払いに時間がかかるようになった
  • 食費を抑えるため購入量を減らしている

といった変化が見られることがあります。

調理では、

  • 包丁や鍋を扱いにくい
  • 長時間立っていられない
  • 調理の手順が分からなくなる
  • 火を消し忘れる
  • 食品と調味料を区別しにくい
  • 容器やペットボトルを開けられない

といった問題が起こります。

「料理をしなくなった」という一つの変化にも、筋力低下、関節の痛み、視力低下、認知機能の変化、抑うつ、経済的な問題など、さまざまな原因が考えられます。

訪問介護員は、本人が食べられない理由を、実際の生活動作から見つけられる立場にあります。

食べる場面では口と身体の変化を見る

食事介助を行う場合は、口へ運ぶ量だけでなく、食べる様子にも注意します。

  • 噛むと痛そうにする
  • 入れ歯を外したまま食べている
  • 口の中に食べ物をため込む
  • お茶や汁物でむせる
  • 食事中や食後に咳が出る
  • 声が濡れたように変わる
  • 食べ物を口へ運べない
  • 姿勢が傾き、安定しない
  • 眠そうで食事に集中できない

むせが目立つ場合、食事を急がせたり、無理に口へ運んだりするのは危険です。食事を中断し、状態に応じて看護職やサービス提供責任者などへ速やかに相談します。

食事や水分をほとんど取れない、急に飲み込めなくなった、強くむせて呼吸が苦しそう、意識が普段と違うといった場合は、緊急性を判断して医療につなぐ必要があります。

「少し変だ」を具体的な記録に変える

訪問介護員が変化に気づいても、「食欲がなさそうでした」「元気がありません」という情報だけでは、受け取った人が状況を判断しにくいことがあります。

できる範囲で、次のように具体的に記録します。

「用意した昼食の主食は8割、主菜は2割摂取」
「前回まで食べていた肉料理を3回続けて残した」
「水分を勧めてもコップ半分程度だった」
「お茶を飲んだ際に2回むせ、その後も咳が続いた」
「前回調理した料理が、ほとんど減らずに残っていた」
「買い物へ行けず、冷蔵庫内に食品がなかった」

推測や評価だけでなく、見た事実、本人の言葉、以前との違いを記録することが大切です。

食事摂取量などの情報を記録し、ケアマネジャーや関係職種が共有できる形にする重要性は、地域高齢者への食支援に関する厚生労働省の検討でも指摘されています。[2]

気づきを一人で抱えない

訪問介護員が低栄養を診断したり、病気や薬を判断したりする必要はありません。自己判断で食事形態や療養上の食事制限を変更することも避けます。

変化に気づいたら、事業所のルールに従い、サービス提供責任者やケアマネジャーへ共有します。

必要に応じて、医師、看護師、歯科医師、歯科衛生士、薬剤師、管理栄養士、言語聴覚士などにつなぎます。

訪問介護員が伝えた一つの情報が、病気の発見、入れ歯の調整、薬の見直し、食事内容の変更、買い物支援の追加などにつながる可能性があります。

訪問介護は在宅の「食」を見守る重要な場所

在宅高齢者の食生活は、医療機関の外で営まれています。

医師や管理栄養士が毎日の台所を見ることはできません。しかし、訪問介護員は、食事が用意できるか、実際に食べられているか、生活のどこで困っているかを見ることができます。

訪問介護の役割は、単に料理を作り、食事を介助することだけではありません。

前回との小さな違いに気づき、事実を記録し、必要な人へ伝えることも、高齢者の生活と健康を守る大切な支援です。

冷蔵庫、食べ残し、買い物袋、食器、本人の動作や言葉。

訪問介護の現場にある一つひとつの情報が、低栄養を早期に発見する手がかりになります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料

[1] 厚生労働省「訪問介護サービスの実施(食事介助)評価シート」
[2] 厚生労働省「第3回 地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関する検討会」
[3] 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.2)」―食事摂取量等の記録と関連職種による情報共有
[4] 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」―リハビリテーション・栄養・口腔の一体的取組

初回公開日
2026年9月27日

最終更新日
2026年9月27日