81.低栄養は高齢者本人だけの問題ではない

高齢者の低栄養というと、「本人がやせる」「体力が落ちる」という個人の健康問題として捉えられがちです。

しかし、低栄養の影響は本人の中だけにとどまりません。食事の準備や見守りを担う家族、治療にあたる医療機関、生活を支える介護事業所、さらに地域のさまざまなサービスにも広がっていきます。

もちろん、低栄養だけですべてが起こるわけではありません。病気、フレイル、認知機能の低下、生活環境などが互いに影響し合います。それでも、低栄養を早い段階で見つけて支えることは、本人だけでなく周囲の負担を軽くする可能性があります。

家族の負担は、食事づくりだけではない

食べる量が減ると、家族は「何なら食べられるだろう」と献立を変え、買い物や調理に時間をかけるようになります。それでも食べてもらえなければ、心配や焦りも強くなります。

筋力や体力が落ちれば、通院の付き添い、移動や入浴の介助、転倒への見守りが必要になることもあります。むせが増えれば、食事のたびに誤嚥を心配するかもしれません。離れて暮らす家族には、電話で確認したり、急いで駆けつけたりする負担も生じます。

ここで注意したいのは、「家族がもっと食べさせればよい」と考えないことです。食欲低下の背景に病気、薬の有害事象、口腔や嚥下の問題、抑うつなどがあれば、家族の努力だけでは解決できません。

低栄養は医療の経過にも関係する

高齢者の低栄養は、合併症、死亡、入院期間の長期化などの不良な転帰と関連することが報告されています[1、2]。栄養状態が悪いと、病気や手術からの回復に時間がかかり、リハビリテーションが予定どおり進みにくくなる場合があります。

退院しても食事量が戻らず、体重や筋力がさらに低下すれば、転倒や体調悪化をきっかけに再び医療が必要になることもあります。低栄養と病気は一方向の関係ではなく、病気で食べられなくなり、低栄養が回復を難しくするという循環をつくることがあります。

そのため、低栄養への対応は「食事を残している人への声かけ」だけではありません。治療の一部として原因を評価し、栄養ケアを行い、退院後まで情報をつなぐ必要があります。

介護の現場にも影響が広がる

低栄養によって筋力や活動量が落ちると、これまで自分でできていた立ち上がり、歩行、着替え、排泄などに手助けが必要になることがあります。食事介助や見守りの時間が増えれば、訪問介護やデイサービス、施設職員の支援内容も変わります。

厚生労働省は、介護施設等で栄養状態のリスクに応じたモニタリングや体重測定、計画の見直しを行う考え方を示しています[3]。栄養状態は、介護とは別の課題ではなく、自立した生活をどこまで続けられるかに関わる情報だからです。

地域全体で早く気づく意味

食べられなくなってから時間がたつほど、必要な支援は複雑になりやすくなります。医療だけでなく、歯科、薬局、介護、配食、買い物支援、地域包括支援センターなど、複数の関係者による対応が必要になることもあります。

一方、まだ生活が大きく崩れる前に「最近やせた」「弁当を残す」「薬が変わってから食欲がない」と気づければ、原因に応じた支援につなぎやすくなります。家族が変化を伝え、薬局や介護職が情報を整理し、医師や管理栄養士が評価するなど、それぞれが通常の関わりの中で役割を持てます。

介護保険制度も、高齢者の介護を家族だけの問題とせず、社会全体で支える仕組みとして整備されてきました[4]。低栄養予防にも同じ視点が必要です。

低栄養は、一人の食事量だけを見て終わる問題ではありません。本人の生活、家族の暮らし、医療・介護の負担、地域の支援体制が交わる場所にあります。

だからこそ、本人や家族に責任を集中させず、地域のさまざまな立場が小さな変化を共有し、早めに支えることが大切です。低栄養を予防することは、高齢者本人を守ると同時に、その人を支える家族と地域を守ることにもつながります。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]Volkert D, et al.「ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics」Clinical Nutrition, 2022.
[2]Volkert D, et al.「ESPEN guideline on clinical nutrition and hydration in geriatrics」Clinical Nutrition, 2019.
[3]厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関する栄養管理・口腔管理等の取扱い」
[4]厚生労働省「介護保険制度の概要」

初回公開日
2026年10月10日

最終更新日
2026年10月10日