『高齢者の低栄養を知る100の話“80”』
低栄養予防というと、本人や家族が食事に気をつけること、管理栄養士が栄養指導を行うことを想像しがちです。
しかし、買い物に行けない地域で「いろいろな食品を食べましょう」と伝えても実行できません。体重減少に気づく人がいても、相談先や情報の伝え方が決まっていなければ支援につながりません。
低栄養は個人の努力だけでなく、その人が暮らす地域の環境によっても起こります。だからこそ、低栄養予防を地域づくりとして考える必要があります。
低栄養になりにくい地域とは
低栄養になりにくい地域は、健康教室が多い地域とは限りません。
日常生活の中に、次のような仕組みがある地域です。
- 体重減少や食事量低下に早く気づける
- 気軽に相談できる場所がある
- 必要なときに医療や栄養の専門職へつながる
- 買い物や調理が難しくても食事を確保できる
- 一人で食べ続けずに済む場所がある
- 支援後の変化を誰かが確認する
大切なのは、低栄養予防のための新しい施設をつくることではありません。すでにある薬局、診療所、歯科、デイサービス、訪問介護、配食、スーパー、通いの場などを結び付けることです。
地域のさまざまな場所を「発見の入口」にする
低栄養リスクのある高齢者が、自分から相談に来るとは限りません。「年だから食が細くなっただけ」と考え、体重減少を問題だと思っていない人もいます。
そこで、本人が普段利用する場所を発見の入口にします。
薬局では服薬指導時に体重や食欲を確認する。デイサービスでは食べ残しやむせを見る。配食では弁当の残り方や受け取り時の様子を確認する。スーパーでは買い物に困る高齢者へ宅配や移動販売を案内する。そのような小さな接点を増やします。
すべての場所で詳しい栄養評価を行う必要はありません。「最近やせた」「食事が減った」という変化を見つけ、本人の同意を得て適切な相談先へ渡せればよいのです。
厚生労働省も、通いの場などで質問票や身体計測を活用してフレイル状態等を把握し、状態に応じた支援や日常的に相談できる環境をつくることを示しています[1]。
発見後の「地域の動線」を決めておく
発見する場所を増やしても、その後の流れがなければ支援は止まります。
地域内で、あらかじめ次のことを決めておく必要があります。
- どのような変化があれば医療機関へつなぐか
- 栄養相談を誰が担当するか
- 口腔や嚥下の問題をどこへ相談するか
- 買い物、調理、経済面の相談先はどこか
- 共通して伝える情報は何か
- 誰が支援後の経過を確認するか
例えば、短期間の体重減少と食欲低下があればかかりつけ医へ、義歯の問題は歯科へ、薬の影響は薬剤師へ、食事内容は管理栄養士へ、生活上の問題は地域包括支援センターへつなぐという流れです。
連絡先を載せた地域共通の一覧や、体重変化、食事量、症状などを記載する簡単な情報提供書があると、現場で動きやすくなります。
食べられる環境そのものを整える
低栄養予防には、相談体制だけでなく、食べ物へアクセスできる環境が必要です。
農林水産省は、食品アクセスの確保には、行政、商店、交通、福祉、民間企業、NPO、地域住民などが連携し、地域の事情に応じて取り組むことが重要としています[2]。
地域によって必要な方法は異なります。移動販売や買物バスが必要な地域もあれば、配食、宅配、地域食堂、共食の場が適している地域もあります。
単に食品を届けるだけでなく、噛みやすさ、食事量、栄養、価格、本人の好みを考えます。地域の農産物や食品事業者を活用できれば、食支援を地域の仕事として継続させることも可能です。
一部の専門職だけに背負わせない
低栄養予防を管理栄養士や保健師だけの仕事にすると、担当者の人数や予算に左右されます。補助事業が終了した後に取り組みが止まることもあります。
地域づくりとして続けるには、それぞれが通常業務の中で無理なく担える役割を決めます。
発見は地域の接点、詳しい評価は医療・栄養の専門職、食の確保は配食や小売、生活の調整は介護・福祉、全体の調整は自治体や地域包括支援センターなど、役割を分担します。
さらに、誰が費用を負担し、情報を管理し、連携を調整するのかも明確にしなければなりません。善意だけではなく、事業者や専門職が継続できる仕組みにすることが必要です。
地域全体の成果を確認する
評価するのは、健康教室の開催回数や参加人数だけではありません。
低栄養リスク者を何人見つけたか、必要な医療・栄養・生活支援へつながったか、体重や食事量がどう変化したか、支援から離れた人はいないかを確認します。
個人情報に配慮しながら結果を共有し、うまくつながらなかった理由を見直すことで、地域の仕組みを改善できます。
低栄養予防を地域づくりとして考えるとは、地域の全員を専門家にすることではありません。
日常の中で変化に気づく人、詳しく評価する人、食事を届ける人、生活を支える人、経過を確認する人がつながることです。
高齢者が「食べられなくなってから入院する」のではなく、地域で暮らしている間に気づき、支えられる。その仕組みをつくることが、低栄養になりにくい地域づくりです。
執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施、地域包括ケアの推進等」
[2]農林水産省「食品アクセス(買物困難者等)問題ポータルサイト」
[3]厚生労働省「地域包括ケアシステム」
[4]農林水産省「円滑な食品アクセスの確保について」
初回公開日
2026年10月9日
最終更新日
2026年10月9日
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